上 下
62 / 242

062 吉報? 凶報?

しおりを挟む
 
 復帰戦を苦い敗北で終えた枝垂は、飛梅さんに慰められながら帰宅の途につく。
 けれども城内の自室へと戻るなり、「まずいことになった!」とジャニスが駆け込んできたもので、ゆっくりと紫黒の雷姫との戦いをふり返っている暇もありゃしない。
 ……にしても、かつてない狼狽ぶりである。
 つねに前線に立ち雄々しく戦う黒ヒョウ女剣士が、いつになく慌てている。
 いったい何事かと訊ねようとするも、問答無用で飛梅さんともども引っ立てられた。
 連れていかれたのは城内の奥にある一室、星クズの勇者定例会が毎回行われている部屋だ。大きな丸いテーブルが置かれた、ぱっと見には普通の会議室だが、城内でも屈指の防諜設備を誇るという場所。

 ここには枝垂も以前に立ち入ったことがある。
 星のチカラにて、トレーディングカード付のポテトチップスを召喚できるようになったときのことだ。オマケのカードに描かれたものが具現化するというトンデモ仕様にて、さすがにこれは世に出せないと上層部に判断されて、いまもって極秘扱いされている。
 つまり、それに匹敵するほどの大事が起きたということ。
 またぞろ危険な禍獣でも出たのか? それとも赤い霧が発生した? まさか、もう新たな星骸が荒野に降臨?
 なんにせよ、きっとろくでもないことに違いあるまい。
 用意された椅子に腰かけ、ドキドキしながら枝垂が待っていると、お馴染みの定例会のメンバー七人が揃ったところで、いつになく深刻な表情をしていたロバイス王が重い口を開いた。

「……アレが紹介したい女を連れてくるそうだ」

 これに枝垂は「ううん?」とおおいに首を傾げる。
 ちなみにアレ呼ばわりされたのは、ロバイス王の息子であるラジールのこと。
 王太子という立場にありながら、みずからの意思にて中央の連合軍に身を投じ、国の威信を背負って対星骸との戦いの最前線に赴いている人物。四兄妹の長兄にしてエレン姫のお兄さん。
 枝垂はまだ面識がないけれども、周囲から話を聞く限りでは頼もしいお兄ちゃんっぽい。
 だけれども、エレン姫いわく「ただの脳筋の戦闘狂」と末妹からの評価は微妙だ。
 そんなラジール王子が親御さんに紹介したい女性を連れてくる。
 ……まぁ、そういうことだ。
 お目出度い話である。

 コウケイ国は小国ゆえにいろいろと緩くて、王族といえども恋愛には寛容ときく。かくいうロバイス王とディラ妃も恋愛結婚だったんだとか。だからよほどヘンテコな相手でなければ、たいていは許容する。
 でも、だからこそわからないのは、王様どころか王妃様もエレン姫まで眉間にしわを寄せ、ナシノ女史は「はぁ」と嘆息、アラバン医師は苦笑いにて、マヌカ先生とジャニスは口をへの字に結んでいること。
 どうやらラジール王子のお相手とやらに、かなり問題があるようだ。
 そこんところ詳しく……と枝垂が頼めばナシノ女史が教えてくれた。

「まず第一に身分がねえ……よりにもよって、そこのを引き当てるとは。いや、聞いたところでは見初められて、向こうから猛アタックをかけられたって話だけど。でも、さすがにこれはちょっと」

 ナシノ女史が言い淀んだ理由は、お相手の女性がさる大国の王族の身だから。
 王族同士の婚姻なのだから何の問題もなさげだが、忘れてはいけないのがコウケイ国は三十九ヶ国中、ダントツの最下位の小国だということ。
 でもってお相手の女性は、ムクラン帝国の王族である。
 ムクラン帝国は、中央五ヶ国の筆頭格にてギガラニカ最大級の軍事国家、実質的に国力ランク第一位だ。連合軍の中枢を担い、総本部と最大規模の駐屯地も国内に持つ。
 そんな超大国の末席とはいえ王位継承権を持つ女性が、最弱国家に嫁ぐ。
 いくら当人同士のことだからといっても、さすがに限度があるというもの。
 だがみんながしかめっ面をしているのは、そこじゃない。
 みんなの頭をもっとも悩ませていたのは、その女性の現在の立場である。

「王子のお相手ってのがねえ、連合軍の監査部に所属していているエリートさんなんだよ」

 そんなキャリアウーマン、今回のイーヤル国で勃発した対赤霧戦での調査団にラジール王子ともども同行しており、遠路はるばる辺境まで足を運んだついでに、彼氏の実家にもご挨拶に伺いたいとのこと。
 とはいえ、さすがに出張の途中なので「コウケイ国の勇者からも聞き取り調査をしたい」との名目にて来訪する予定。
 めちゃくちゃ公私混同であった!
 そして何かと秘密の多い枝垂と監査部の者が接触することに、みんなはおおいに難色を示していたのである。
 フム、こいつはたしかにまずいことになった。どうしよう……


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

根暗男が異世界転生してTS美少女になったら幸せになれますか?

みずがめ
ファンタジー
自身の暗い性格をコンプレックスに思っていた男が死んで異世界転生してしまう。 転生した先では性別が変わってしまい、いわゆるTS転生を果たして生活することとなった。 せっかく異世界ファンタジーで魔法の才能に溢れた美少女になったのだ。元男は前世では掴めなかった幸せのために奮闘するのであった。 これは前世での後悔を引きずりながらもがんばっていく、TS少女の物語である。 ※この作品は他サイトにも掲載しています。

ワイ、TS魔法少女と都市マスターになる

あ・まん@田中子樹
ファンタジー
 武士のような名前の士郎宗近(シロウ ムネチカ)は社畜ブラックの新人企業戦士だった。  入社3日目で、闇落ちメンブレして二重人格になった彼はブラック上司のとばっちりで電車に轢かれてまさかの異世界転移。それもなぜか二重人格のせいで2人に分離していた。  もう一人の人格シロは心が乙女だったせいか、かわいい白髪の女の子になっていた。 「尾田●一郎先生、ワイ、ラ●テル見つけたよ」 「いや、ここ異世界ですから!」 「ツッコミ欲しがりなん?」 「なぜ私ぃぃぃっ!」   ボケ担当クロとボケを華麗にスルーしまくるシロは召喚された都市の未来を任された。  ふたりの凸凹コンビが織りなす壮大な異世界冒険がついに幕が開く――かも?  

【転生先が四天王の中でも最弱!の息子とか聞いてない】ハズレ転生先かと思いきや世界で唯一の氷魔法使いだった俺・・・いっちょ頑張ってみますか

他仲 波瑠都
ファンタジー
古の大戦で連合軍を勝利に導いた四人の英雄《導勝の四英傑》の末裔の息子に転生した天道明道改めマルス・エルバイス しかし彼の転生先はなんと”四天王の中でも最弱!!”と名高いエルバイス家であった。 異世界に来てまで馬鹿にされ続ける人生はまっぴらだ、とマルスは転生特典《絶剣・グランデル》を駆使して最強を目指そうと意気込むが、そんな彼を他所にどうやら様々な思惑が入り乱れ世界は終末へと向かっているようで・・・。 絶剣の刃が煌めく時、天は哭き、地は震える。悠久の時を経て遂に解かれる悪神らの封印、世界が向かうのは新たな時代かそれとも終焉か──── ぜひ読んでみてください!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

彼の名はドラキュラ~ルーマニア戦記~ ヴラド・ツェペシュに転生したら詰んでます

高見 梁川
ファンタジー
大学の卒業旅行でルーマニアの史跡を訪れた俺はドラキュラの復活を目論むカルト宗教の男に殺されたはずだった……。しかし目覚めて見ればそこはなんと中世動乱の東欧。「ヴラド兄様……」えっ?もしかして俺ドラキュラですか?? オリジナル小説

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

処理中です...