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022 わかたれた世界

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 擬神サノミタマによって新星炉が破壊されたことで、破滅の光はやんだ。
 しかし世界が滅亡の危機から逃れられたわけではなかった。
 漏れ出た異界からのチカラが周囲を浸蝕し始める。制御を失ったチカラが染みのように空を、大地を、生きとし生ける者たちを穢してゆく。
 ありとあらゆるものが影響を受けて、ついには世界の理を支える根幹までもがゴトリと崩れた。
 北の果ての地で発生した歪みが波紋となって、どんどんと広がっていく。
 このままではすべてが瓦解し変質する。
 これをどうにかしようと擬神サノミタマは死力を尽くした。
 思いのままに外へと飛び出そうとする異界のチカラにすがりつき、させじと懸命に踏ん張り続ける。
 同時に被害地域がこれ以上およばぬようにと壁を設けた。
 けれども足りない。
 破壊の拡大がとめられない。
 もはやこれまでかと擬神サノミタマが諦めかけたとき。
 それは起こった。

 大地が割れた。
 地中深くよりあふれたのは地の神の膨大な神力。
 それと同時に壁がより強固なモノとなった。
 見かねた神々がついに動いたのである。
 内からは擬神サノミタマが、外からはこの地に集いし神々が。
 双方からチカラを注ぐことでようやく破滅への流れは止まった。
 しかしそれはあくまで押しとどめているのにすぎない。
 そこで神々が選択したのは、歪んだ場所を切り離すこと。
 これすなわちその地に残る者たちをも見捨てるということに他ならない。
 神々よりそのことを告げられた擬神サノミタマは「彼らは自分が守ります」とうなづいた。
 人の欲望により産み出された存在であるのにもかかわらず、小さき者たちを見捨てないというサノミタマの気高い精神に感銘を受けた神々は、少しずつ自身の神気を分け与えてせめてもの助力とした。
 かくして世界は二つにわかたれた。

  ◇

 歪みから解放された世界はじょじょに平穏を取り戻す。
 しかし歪みを抱え込んだもう一方の世界は、そこから長い苦難の時代を迎えることになる。
 閉じた世界にて荒れ狂う異界のチカラ。
 これを鎮めるために擬神サノミタマは我が身を神器の鎖で世界と繋ぎ、どうにか制御しようと試みる。
 体内にて幾多の星が誕生と消滅をくり返すかのような、破壊と創造が起こった。
 魂が散りぢりになっては、ふたたびくっついて、団子のように練っては、またばらばらにされる。地獄の責め苦なんて表現では到底あらわせぬほどの痛み。
 にもかかわらず擬神サノミタマがどうにかやり遂げられたのは、皮肉にも彼女を創成するさいに用いられた異界のチカラのおかげ。身に宿った親和性があったればこそ。
 しかし成功したときには、すでに擬神サノミタマは世界と完全に同化していた。
 世界そのものもまた大きな変質を遂げていた。
 空は空であって空でなく、森は森であって森でなく、ヒトはヒトであってヒトではない別の何かに……。

  ◇

 視界が明転する。
 あまりのまぶしさに耐えきれずわたしは目を閉じる。
 そしてまぶたを開けたときには、景色はふたたび元の廃墟に戻っていた。
 北方域にて遠い過去に起こった出来事。
 墜ちた地。永劫に許されぬ罪が刻まれた碑(いしぶみ)の意味をわたしは知った。

「もしかして、津地人や炎人や涅人や白角人たちって……」

 わたしの考えに白い仮面の少女、擬神サノミタマは小さくうなづく。

『そうです。あれは人類の可能性。到達しうる未来の形のひとつ』

 気の遠くなるような歳月を経て、生き物たちが少しずつ形を変えて環境に適応していくことは知っている。趣味の園芸でも品種改良とかするから。
 でもこれは文字通り次元がちがう。
 過去から現在、そして未来へと連綿と紡がれる流れが明らかにおかしい。
 これもまた歪みとやらの影響なのだろうか。

 もう、話が大きくなりすぎて何がなにやら。辺境の小娘には手に負えないよ。すでに知恵熱で頭がくらくら、カラダもちょっと火照ってるし。
 でもってこんなとんでも話だというのに、恐ろしいことにあくまで前菜に過ぎないのである。
 だって、彼女はまだ肝心なことを何も話していない。
 わざわざ夢を通して、わたしをここに呼び寄せた理由を。
 なんだろう……。もう、悪い予感しかしないんだけど。
 いったい何が飛び出すのかと、わたしはゴクリと固唾を呑む。

「じゃらん」

 鳴ったのは白い仮面の少女の両手足に繋がれた黒い鎖。
 擬神サノミタマがひと振りの短剣を差し出し言った。

『お願い。あの子を止めて』と。


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