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021 擬神
しおりを挟む『よくぞ来てくれました、剣の母チヨコ』
頭の中に響く声。
それはわたしが何度も夢の中で聞いた、あの少女の声であった。
ようやくここまで来た。たずねたいことはいっぱいある。
でもわたしが何ごとかを発するよりも先に、視界が激しくブレはじめる。
まるで乱雑にかき混ぜられるようにして、右へ左へ、上へ下へ、斜めに前後に、シャカシャカシャカシャカ。
「えっ、えっ、ええーっ!」
わたしはたいそうあわてふためく。
しかしその時間はすぐに終わった。
暗転ののちに景色が一変する。
ついさっきまでボロボロの廃墟だったのに、天井や壁や床の破損が消えた。内部を浸蝕していた大量の蔓もどこぞに失せた。
まるでピカピカの新築のような状態。
その内部を大勢の人がせわしなく働いている。かしこそうな白い長衣姿が多い。まえに商連合オーメイにて見学した医学舎、そこの研究棟に雰囲気がとてもよく似ている。
「これは……」
戸惑っているわたしに白い仮面をつけた少女が告げた。
『いきなりで申し訳ないけど、説明するよりも見せた方が早いから。あなたにはこれからかつてこの地にて起こったことを知ってもらいます』
◇
現存する歴史書に記された最古の国。
それが興るよりもはるかにずっともっと遠い遠い昔のこと。
北の地にブラフマールという国があった。
超高度な魔道科学文明にて繁栄を極めた国。
その繁栄が最高潮に達したのは、異界の門を開くことに成功したあと。
門といっても、それはとても小さな、本当に小さな穴のようなもの。
しかし彼方の異界はものすごいチカラで満ち充ちていた。これまでブラフマールの人たちが用いてきた魔道炉が産み出すモノとは比べものにならないほど。
ゆえにそれを利用すべく、漏斗で液体を小ビンに移すかのようにして抽出する方法が開発された。
無限にも等しいチカラ。
これを手に入れたことで文明は飛躍的に発展する。
その果てにブラフマールの人々が目指したのは「自らの手で神を創り出す」という行為。
恐るべきことにその試みは半分成功し、半分失敗した。
人の手によってこの世に産み落とされた擬神は双子。
白い女の子の形をした擬神は異界との門の役割を果たし、莫大なチカラを自在に供給できた。人々はこれをサノミタマと名付け、手中の珠のごとく大切にした。
しかし片割れの黒い男の子の形をした擬神はそれとは逆であった。ひたすらチカラを呑み込むばかりの存在となる。人々はこれをウノミタマと呼んで忌み嫌った。
与える者と奪う者。
まるで真逆のような能力を持った双子神。
黒い男の子の形をした擬神は厳重に封印をされて、南の世界の果てにある死の砂漠に遺棄された。
そして残された白い女の子の形をした擬神サノミタマは……。
◇
まるで夜空に浮かぶ月に向かって手をのばすように、真っ直ぐにのびた巨塔。
それは炉であった。
土台部分にあるお椀型の施設に擬神サノミタマを据え置くことで、全世界から夜の帳を払拭し、永劫の光と繁栄をもたらすための叡智の結晶。
人々はこれを「新星炉」と命名する。
開発と建造は粛々と進められ、ついに起動へと至る。
そのとき悲劇が起きた。
まばゆいばかりの光はたしかに生まれた。
ただし、それは希望の光などではなくて滅びの光であったのだ。
触れたものすべてをたちまちのうちに粒子に変えてしまう。
白い女の子の形をした擬神サノミタマの決死の抵抗による新星炉の破壊が、あとほんの少し遅れていたら、おそらく世界そのものが消滅していたことであろう。
◇
巨塔が爆発してすべてが光に包まれる。
わたしは俯瞰する形にて一連の出来事を見ていた。
その幻影をまのあたりにして、「あっ!」
帯革内にいるミヤビとアンも同様の反応を示す。
この光景をわたしは……、わたしたちは知っている。
どこか既視感のあった北方域。頭の中で断片的であったことがらが、ここにきてカチカチと結びついてゆく。
かつてパオプ国に来訪したおり、光石の森にて出会った石の人。
うっかり彼に触れた際に視た遠い記憶。
あれとまったく同じだ!
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