上 下
19 / 48

019 白角人(シロツノビト)

しおりを挟む
 
 うーん、気のせいかしらん。
 行く先々にてたらい回しにされているような……。
 まぁ、見知らぬ土地にてなんら伝手のない身としては、得られた情報を頼りに行動するしかないんだけどね。
 なので涅人(クリビト)の女王さまに教えられた山の向こうを目指す。
 ミヤビにてビューンと景気よく山を飛び越えようかと思ったんだけどヤメた。だって頂上付近だと空がグンと近くなるもの。ツバサを否定するあのナゾのうねり。なんとなくだけど触れないほうがいい。そんな気がする。
 だから山の右側を迂回することに決めた。

 山は緑の薄布を羽織ったような姿にて、ところどころに愛らしい白い花が群生しており、穏やかな景観に彩を添えている。
 それらを視界の片隅に残しつつ進んでいたら、前方に見えてきたのが巨大な黒い岩。
 炎人(ホノオビト)たちの集落にあった白い巨岩よりも、さらに大きい。
 涅人たちの街と山を挟んだ裏っかわに位置するところ、山肌へ斜めに突き刺さるようにして黒い岩はそびえている。
 まるで誰かが乱雑に投げつけたかのようにしてめり込んでいる。
 その先っぽに白い点が浮かんでいた。
 岩の表面が黒く艶々しているがゆえに、その小さな白がいっそう目立つ。

「うん? 何だあれ」

 わたしは遠見の術を発動して正体を探る。
 それはウマだった。
 純白のウマが岩の突端にて毅然とたたずんでいる。
 その立ち姿は幻想的な絵のようで、とても美しい。息をするのも忘れて見惚れてしまうほど。
 だがしかし、よくよく見てみると白馬の顔がおかしかった。
 目のところに穴があるだけの、のっぺりしたお面姿。額からは一本の角が生えている。
 わたしはたじろぐ。

「うそ……、どうして、なんでアレがここにいるの?」

 神聖ユモ国の南海にてレイナン帝国が築いた城塞島カイリュウ。その深奥にある研究所で行われていた非道で忌まわしい実験。薬物にて人を禍獣へと変じ最強の兵士とするもの。
 黒岩にいる白いウマが、あの実験の産物と同じ顔をしていた。

  ◇

 同じ顔というのは、正しくなかった。
 間近に接してわかったのは、似て非なるということ。
 人禍薬で生み出されたバケモノ。アレの顔の仮面はひび割れた白壁のようで、ただただ不気味で醜悪であった。
 でも白いウマの仮面は名工の手によって産み出された芸術品のよう。
 輝きがちがう。存在感がちがう。それでいてまるでそこにあるのが当たり前であるかのように調和している。

「よく来ましたね。待っていました」

 凛とした女性の声。自然とひざまづいてしまいそうな威厳を持った彼女こそが白角人(シロツノビト)。
 待っていたという言葉に「ひょっとしてあなたがわたしを呼んだの?」とたずねるも、白角人は首を小さく横にふり「自分は案内役にすぎません」と答えた。

「さっそくあの御方のところへお連れしますので、私の背へ」

 どうやらここから先へは、白角人でないと行けないらしい。
 ウマの白角人に促されるままに、わたしはおずおずとお世話になる。
 ミヤビは白銀のスコップ姿になってもらい帯革内に収納する。

 パッカポッコと歩き始めるウマの白角人。
 黒い岩を下りるのではなくて、何もない宙へと踏み出し平然と進む。
 飛んでいるのとはちがう。まるで見えない地面があるかのようにして、ちゃんと歩いている。
 わたしが目をぱちくりしているうちにも、白いウマはずんずんと進んでゆく。
 向かったのは森の西の外れにある砂地。
 くり抜かれたかのような円形の空間内を、浜辺の白砂のようなものが埋め尽くしている。
 中心に丸い鏡が一枚、ぽつんと置かれてある。
 でも、よくよく見てみるとそれは鏡面のごとき水たまりであった。風が吹こうともさざ波ひとつ起きない。
 水たまりへと足を進めたウマの白角人。
 水面に触れたとたんにヒヅメが沈んでいく。あっという間にすらりとした四肢が呑み込まれ、ついにはわたしを乗せている背中をも。

「しっかりつかまっていなさい。けっして手を放してはいけません」

 言われるままにウマの首にヒシとしがみつく。
 わたしは大きく息を吸い込んで目を閉じた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

秀才くんの憂鬱

N
ファンタジー
主人公は、歴史上存在を否定される卑弥呼の息子 表向きは、何でもできてしまう超絶優秀王子であるが、内心はその自らの立場ゆえの葛藤を持つ。 王子でも王にはなれない運命を背負いながらも、国民のために伝説の剣を探しに旅に出る。旅の中で、男は少しずつ成長していく。 王への道~僕とヒミカの成長録~ の続編。王への道を読んだ人も、まだの人も楽しめる!

日本が危機に?第二次日露戦争

歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。 なろう、カクヨムでも連載しています。

柳鼓の塩小町 江戸深川のしょうけら退治

月芝
歴史・時代
花のお江戸は本所深川、その隅っこにある柳鼓長屋。 なんでも奥にある柳を蹴飛ばせばポンっと鳴くらしい。 そんな長屋の差配の孫娘お七。 なんの因果か、お七は産まれながらに怪異の類にめっぽう強かった。 徳を積んだお坊さまや、修験者らが加持祈祷をして追い払うようなモノどもを相手にし、 「えいや」と塩を投げるだけで悪霊退散。 ゆえについたあだ名が柳鼓の塩小町。 ひと癖もふた癖もある長屋の住人たちと塩小町が織りなす、ちょっと不思議で愉快なお江戸奇譚。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

異世界子供会:呪われたお母さんを助ける!

克全
児童書・童話
常に生死と隣り合わせの危険魔境内にある貧しい村に住む少年は、村人を助けるために邪神の呪いを受けた母親を助けるために戦う。村の子供会で共に学び育った同級生と一緒にお母さん助けるための冒険をする。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

魔法少女の異世界刀匠生活

ミュート
ファンタジー
私はクアンタ。魔法少女だ。 ……終わりか、だと? 自己紹介をこれ以上続けろと言われても話す事は無い。 そうだな……私は太陽系第三惑星地球の日本秋音市に居た筈が、異世界ともいうべき別の場所に飛ばされていた。 そこでリンナという少女の打つ刀に見惚れ、彼女の弟子としてこの世界で暮らす事となるのだが、色々と諸問題に巻き込まれる事になっていく。 王族の後継問題とか、突如現れる謎の魔物と呼ばれる存在と戦う為の皇国軍へ加入しろとスカウトされたり…… 色々あるが、私はただ、刀を打つ為にやらねばならぬ事に従事するだけだ。 詳しくは、読めばわかる事だろう。――では。 ※この作品は「小説家になろう!」様、「ノベルアップ+」様でも同様の内容で公開していきます。 ※コメント等大歓迎です。何時もありがとうございます!

処理中です...