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014 台地
しおりを挟む充分な高度をとりつつ、下の森にも気をつけ、白銀の大剣が飛ぶ。
向かうのは彼方に見えている台地。
飛んでいると、ときおり眼下で小爆発みたいなのが起こる。
そのたびにわたしはドキッとさせられる。
大きな音とともに鼻につくのは植物が持つ青臭さ。
舞い上がる大量の粉塵や散乱する木々のせいで、はっきりとは見えなかったけれども、禍獣らしきものたちが争っている影がちらり。種類はわからないけれどもかなり大きいことだけはたしか。
が、戦いが起こって森が荒れてもすぐに緑で埋まってしまう。「争いなんてあったの?」といわんばかりにすっかり元通り。
どうしてそんな怪現象が起こっているのかは皆目見当がつかない。
まるでこの森そのものが生きている超大な禍獣のようにて、なんとも不気味だ。
不気味といえば森の上空もまたおかしい。
ツバサを持つ者たちがいない。
トリの姿が見当たらない。ふつうはミヤビに乗って長いこと飛んでいたら、ときおり虫が顔に当たったり、うっかり口や目に入ってきたりするもの。なのにそれもなし。
地には旺盛な生命が荒れ狂っているというのに、空には何もない。
極端すぎる。中間がない。ここは本当に何なのだろう。
◇
目指す台地がずんずん迫ってくる。
近づくほどに、その巨大さを認識。
ようやく辿り着いたとき、わたしはおもわず「壁だ」とつぶやいていた。
ほぼ垂直の絶壁。天辺の方には霞がかかっている。
ミヤビに頼んで接近してもらい、壁の岩肌に触れてみる。
カチコチにてつるつる。びっくりするぐらいにくぼみや突起がなく、なだらかな表面。
とてもではないが、よじ登ることはできまい。
そしてこの森には空を飛べる生き物がいない。
ということは、この台地の上と下とでは没交渉となっており、別世界となっている可能性が高い。
ここまでくる間に遺跡とか都みたいな建造物はなかった。そのことは娘たちにも常時、周囲を警戒してもらっていたからまちがいない。
見落としはなし。
わたしは絶壁を前にして「ふぅ」と深いため息。
「どうやらこの上まであがって来いってことみたいだね。まぁ、ここまで来たら行くしかないけど。……にしても高い」
ひゅるりと風が吹き、わたしは軽く身震い。
麦わら帽子をしっかりかぶり直してから、ミヤビにお願いして上昇を開始する。
じつはミヤビ、持前の突進力を活かし、風を切りギューンと飛ぶのは得意だけれども、上下移動はちょっと苦手。
だからふわふわと宙に浮かぶようにして、上へと上へと向かうのはイマイチ。
そこでこの絶壁を超えるべくとった方法は、九十九折りに登ること。
ミヤビの切っ先を斜め上へと向けて、しばし進む。適度なところでくりっと反転。折り返しては、また進む。あとはひたすらこれのくり返し。
ミヤビだけならば真っ直ぐ天辺を目指せるんだけど、わたしを乗せているからこれが精一杯。
……にしてもキツイ。
進む間は足場が斜めになっているので、その分だけわたしは踏ん張る必要がある。おかげで乗っているだけなのにすっかり汗だく。ベニオが変じた作業着姿じゃなかったら、いまごろすっかり蒸しあがっていることであろう。
せめて途中に休憩できる出っ張りでもあればよかったんだけど、どこまで進んでも岩肌はつるっつる。身を潜り込ませられる割れ目もない。
いったいどれほどの長い時間を雨風にさらし続けたらこんな地形になるのやら。
おかげで休憩は宙に立ち止まってとるハメに。これがちっとも休めない。
もう、いっそのことムギの収納空間か、アンの転移空間にでも潜り込んで休もうかと考えたが、それはうまくいかなかった。
収納空間から水筒や食べ物の出し入れは可能だけど、立ち入ることはできない。
転移空間にいたっては繋がりもしない。アンが漆黒の鎌でスパッと空間を裂いても、裂いたはしからピタッとつながってどうしようもなかった。
いつのまにやら退路を断たれた状況。
決断を迫られたわたしたちは、引き返すよりも先を目指すことを選ぶ。
◇
ふくらはぎがプルプル。下腹がカチコチ。まるで鉄の棒でも突っ込まれたみたいに、腹筋の奥がなんだかヤバいことになっている。
膝が笑い、いやな痙攣が起こるようになり、そろそろわたしの体力に限界が訪れようとしていたところで、どうにか絶壁を登りきることに成功。
森があり山があり草原がある。
岩場があり川があり滝があり、大きな湖までもがある。
とりたてて珍しいモノがあるわけじゃない。
なのにすべてが澄んでいる。
べつに清いという意味ではなくて、なんというか……穏やかな自然?
台地の下とはちがって、緑も柔らかく、ここには殺伐とした雰囲気が微塵もない。
すべてがあるがままにて、無駄にぶつかることもなく、片意地を張らずに生きている。
とてもキレイな場所。
知らず知らずのうちにわたしがつぶやいていたのは「楽園」という言葉。
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