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1019 マンモスとタヌキ 急
しおりを挟む自分の拳はヤツに通用する!
たしかな手応えとともに、攻勢に転じようとする芽衣であったが、その動きがはたと止まった。いや、止められたというのが正しいか。
それもウルのひとにらみによって、である。
両膝が落ち、地面に手をついたウルの目だけが動き、芽衣をぎろり。
とてつもない殺気と怒気がまざった視線に射抜かれて、芽衣は踏みとどまった。
それはけっして怯えからではない。武人としての直感が、「このまま調子に乗って突っ込んだらヤバい」と強く警鐘を鳴らしたからである。
直後のこと、芽衣の足下が急にぐらつき、視界がいっきに高くなった。
ウルの仕業だ。
出現した長大な白い突起物、杭のようなマンモスの牙による、豪快な掘り返し!
巨大な牙が固い岩盤をものともせずに抉り、もろとも芽衣の身を上空へと打ち上げる。
まるでちゃぶ台返しでもするかのようにして、石塊ごと高らかに放り上げられ、芽衣の身が宙を舞う。
小島と岸を繋ぐ一本道からはじき出されてしまった!
このままではマグマに落ちてしまう。
だから舞い上げられた石くれを足場にして、すぐに戻ろうとするもそこへウルの追撃が迫る。
ズシンと地響き、マグマの湖を波立たせて、ウルが跳躍する。
これには芽衣も驚いた。
てっきり戻ろうとする芽衣を迎撃するのかとおもいきや、さにあらず。
よもやこの場面で空中戦を仕掛けられるとはおもわなかったからである。
「「うぉおぉぉぉぉーっ」」
互いの雄叫びが重なり、ウルと芽衣が宙でぶつかる。
打打打打打打、蹴……打、蹴蹴、打打打打打……。
蒼光を足へと集め芽衣が加速する。まとわりついてくる大地の鎖を強引に引き千切っては、稲光が閃き、石くれから石くれへと移動し、接近し攻撃を仕掛け、また離れるをくり返す。
対するウルもまた宙を移動していた。
手足を突き出すほどにボンっと空気が破裂する音がして、ウルの身が右へ左へと宙を舞い踊る。足場が無ければ作ればいいとばかりに、空気を殴り、蹴っては衝撃波にて己自身を射出する。
なんという荒業、悠久の刻を超えて蘇った大古の亡霊は、翼がなくともすでに空を克服していた!
これこそがウルが高所から飛び降りて、いっきにこの最深部にまで降りてこられた秘密であったのだ。
空中戦を制したのはウル。
経験の差と地の利がウルに味方する。
ウルが宙を駆け、移動するたびに、発生する衝撃波により場が暴れた。
マグマの湖からあがる強烈な熱気と相まって、気流の乱れが生じる。
視界が大きく揺れる。煽られ体勢が崩れる。
小兵であるがゆえに芽衣はモロに影響を喰らってしまう。
そこをウルが強襲する。
「ぎゃん」
蹴りを喰らって芽衣が叩き落とされた。
先には煮えたぎる赤いマグマが待ち構えている。
だが落ちる寸前にて、タヌキ娘のカラダがくんと一本釣りされた。
しらたきさんの仕業である。旗色が悪いとみた尾白より頼まれての助っ人であった。長くのびた白い腕の怪異が、むんと芽衣の足首を掴んでこれを引きあげ、間一髪のところで助かった。
タヌキ娘の洲本芽衣と白い腕の怪異であるしらたきさん、尾白探偵事務所の第一と第二助手が合体!
背中から何本もにょろにょろ腕を生やしたタヌキ娘が飛翔する。
かくして立体機動の手段を得た芽衣は、ふたたび空へと舞い上がった。
「おのれっ、なんと面妖な!」
ウルが奇怪なタヌキ娘を罵倒する。
「うるさい、あんただけには言われたくない!」
負けじと芽衣も言い返し、しらたきさんも親指をくいっと下げてのブーイングで応じる。
互いに罵り合ったところで、空中戦第二ラウンドがスタートする。
先ほどよりも、さらに苛烈にぶつかり合う両雄。
その戦いのさなか、ウル越しにチカチカと零号の目が光ったのを芽衣は確認する。
準備が整ったとの合図だ。
それを受けて芽衣としらたきさんは、ウルを射線上に誘導すべく動く。
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