おじろよんぱく、何者?

月芝

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1011 世の理からはずれし者

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 傾星の儀計画の要である機械は止められない。
 ならばぶち壊すのみ!
 でも、こんな大きなシロモノどうやって壊したら……。
 おれが焦っていると、ズンッ!
 不意に大きな地響きが鳴った。
 天井から細かな岩の破片が降ってくる。
 周囲の灼熱の湖面が激しく波打つ。

「なっ、なんだ? いったい何が起きた?」

 あわててふり返ったおれは、目に飛び込んできた光景に絶句する。
 地面が丸くへこんでいる。
 直径二メートルほどの範囲が、まるでプレス機にでもかけられたかのようにして、ぐんと一段落ち窪んでいる。
 その中心には潰された芽衣の姿があった。
 いや、実際に潰れているわけじゃない。より正しくは、もの凄い圧力にてぎゅっと押しつけられて埋もれているのだが、にしてもここは柔らかい地面じゃない。灼熱の湖の中に浮かぶ小島だ。当然ながら地面はとても固い岩肌である。
 それが粘土を指でぐりぐりしたかのようになっているではないか!
 芽衣はピクピクしているので、くたばっちゃいない。

 冗談みたいな光景に、おれは「はぁ?」
 零号も事態が呑み込めずに黙ったまま。
 けれどもその背におぶられているシリウスはくつくつ笑う。

「くくく、当然だな。なにせウル総帥はカブトどもをたやすく粉砕し、英円を片手でひねるほどの実力者だからな」

 カブトは家事全般から事務仕事に各種工事に戦闘にと、幅広く活躍する量産型アニマルロボである。没個性化により類まれなる汎用性を得た機体だ。
 けれども量産型と侮ることなかれ。
 個にして全、全にして個。情報を共有しフィードバックすることで、瞬時に事態に対応する適応力は、いざ敵対するととてもやっかいだ。
 また個体性能もけっして低くはなく、その身は頑強でもある。チカラもちょっとした重機並みにある。口径の小さな銃弾ならば苦もなくはじく。並みの武人ではまるで歯が立たないほどに固くて強い。
 英円(はなぶさまどか)は銀禍との異名を持つトラ狂女である。
 行く先々で気ままに猛威を振るうハリケーンのような存在だ。
 それらを一蹴する。
 実力主義の聚楽第において、どこからともなくあらわれたとおもったら、瞬く間にトップの座につき、これに君臨し続けてきたのは伊達ではない。

 かつて高月の地でまみえた時、ウルはおれにこう言った。

『我は蘇った亡霊。本来であればこの時代にいるはずではない者。ゆえに、現代を生きる者たちの目には、正しく認識されないのだ』と。

 それからこうも言っていた。

『おまえは我と似たニオイがする』とも。

 ともに世の理の輪からはずれた者……。
 だからとて怪異とはちがう。れっきとした動物である。

 おれこと尾白四伯は珍獣である。
 光瀬菜穂によれば、いまのところ遺伝子情報を同じくする生物は確認されておらず、他に類をみない唯一の個体らしい。
 でもって、おれの昔の記憶はあいまいだ。世にいうところの記憶喪失である。
 淡路島の浜辺に打ち上げられているところを、芽衣の祖父で先代芝右衛門である一成に拾われて、いまに至る。
 そのせいであろうか。どこか存在があやふやで、いまいち芯が定まっておらず、ふらついたところがあるのは。ゆえに真っ直ぐな好意などを向けられると、どうしていいのかわからなくなって、つい尻込みしてしまう。無意識のうちに一線を引き、人と微妙に距離をとることがある。
 もっとも化け術の師匠でもあった一成に言わせれば「あほんだら、おまえがだらしないのは産まれ持っての性分じゃ。カッコつけんなボケ」ということにて、その孫娘の芽衣からすれば「ただのヘタレ」らしい。

 おれたちがにらんでいると、ウルが自身のローブのフードに手をかけた。

「ここまで来れたご褒美だ。我の正体を教えてやろう」

 フードがおろされたとたんに、ずっと滲んでいたやつの輪郭が明確となり、存在が固定されてゆく。
 そしてあらわとなったのは――。


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