おじろよんぱく、何者?

月芝

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 蒼光が疾駆し、繰り出される拳。
 芽衣は先の戦いと同じく、初っ端から唯我独尊を発動しては、全力全開で立ち向かう。
 対するウルもまたローブの裾をはためかせて駆け出した。

「いい顔になったじゃないか、小娘。蛾舎老に揉まれて、すこしは目が醒めたか」

 言われて「なにおっ!」と芽衣はいきり立つも、片眉をぴくりとさせる。
 なぜならウルが他者に老(ろう)などという敬称をつけていたからである。
 このことからウルは蛾舎泰造(がしゃたいぞう)には、少なからず敬意を抱いているようだ。

「狸是螺舞流武闘術、断の型、まな板透し!」

 手刀にて一閃する技、その切れ味は凄まじく、まな板の上の鯉どころか下の台をも両断する。
 シュッと風切り音。続けて赤い輝きが起こる。摩擦熱により炎が発生したのだ。
 唯我独尊にて強化された状態で放たれた技。瞬間的に威力と速度が通常時の数倍に達しているからこそ生じる現象。
 それを芽衣は突きにて相手の顔面めがけて放つ。
 槍の刺突のごとき一撃にて蒼光が閃き、一条の光が突き抜けた。
 だがウルはわずかに身をゆらし、これを当たる寸前でたやすく払いのける。
 軌道をそらされ、はずれた一撃。
 けれども、ウルもまったくの無傷ではなかった。
 ビリッと音がして、裂けたのはウルが被っているローブのフードのところ。
 完全に見切っていなしたはずの芽衣の手刀だが、見切れていなかった。

 かつて高月の駅北にある兎梅デパートの屋上にて対峙したときには、洲本芽衣、弧斗羅美、出灰桔梗ら名立たる猛者たちが囲んで攻め立てるも、かすりもしなかった。
 しかしながら、それが当たった。
 ほんの少しかすっただけとはいえ、零と一とでは雲泥の差がある。

「ほう、このわずかな期間でここまで成長したか。ぬるい時代でもそれなりに場数を踏めば、マシにはなるようだな」
「なにおう! まるで自分だけはちがうみたいに。気取ってんじゃないよっ」
「ふふふ、べつに気取っているわけではない。そのままの意味なのだがなぁ」
「?」

 至近距離にて芽衣は左右の腕にて手刀を次々と放つ。一打ごとに薄く、速く、よりコンパクトにして、回転を上げていく。
 その戦いざまは、出灰桔梗の狐崑九尾羅刃拳の動きを取り入れたもの。自分の流派は大事にするが固執はせず。若さゆえに柔軟な発想で、いいモノはじゃんじゃん真似しちゃう。
 足さばきや、間合いの取り方などは平多紀理(たいらたぎり)の屋島蓑山流四十八霊(やしまみのやまりゅうしじゅうはちれい)を参考に。
 幾多の激闘を経て成長を続ける芽衣、それはいまもなお止まらない。現在進行形にて、これと対峙することになったウルは、決定打こそは受けないもののローブの端々を切り裂かれることが多くなっていく……。

  ◇

 聚楽第総帥ウルと洲本芽衣の戦いが始まった。
 それを横目におれとスクラップ寸前のシリウスを背負った零号は、こそこそと脇を抜けていく。
 途中、ウルがちらりとこちらに顔を向けたような気がしたが、とくに邪魔はされなかったので、たぶん気のせいだろう。

 天から地へと繋がるおおきな管、中からごぉうんごぉうんと音がする。
 おそらくこれが地球さんにぶっ刺された特大お注射の針なのだろう。
 この管を通じて、せのうみドームで集めた膨大なエネルギーを注ぎ込んでいるはず。
 となれば、まずはその流れを止めなければならない。
 芽衣が奮闘してくれているうちに、おれたちはコントロールパネルに張り付き、操作を行おうとした。
 とはいえ、いまだにガラケーを使い、書類は手書き、パソコン関連はすべてしらたきさんに頼っているおれに、複雑な機械のことなんぞはわかるはずがない。

「というわけで零号、頼んだ」
「わかりました。やってみます」

 メカのことはメカに頼るのに限る。
 けっして丸投げではない。適材適所なのだ。
 だがしかし、ここで大ハプニングが発生!

「……すみません、尾白さん。駄目みたいです」
「なんだと? パスワードでロックでもかかっているのか」
「いいえ、そんなものはありません。セキュリティうんぬんの話ではなくて、どうやらはじめから解除プログラムが組み込まれていないようです」
「はぁあぁぁぁぁぁーっ! そんなのアリかよ」

 とどのつまり、このオモチャはブレーキなんぞは積んでおらず、走り出したら止まらないということ。
 いかに優秀なアニマルメイドロボとはいえ、無い袖は振れない。
 どおりでウルがすんなり通してくれたわけだ。
 やられた――お手上げ状態におれは愕然とする。


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