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1003 紙の本
しおりを挟むプロポーション抜群のゴールドメタリックボディが、激しく浮かんだり沈んだり。
片方の足首を掴まれ乱雑にぶん回されては、何度も天地の間を往復する。
「ぐっ、コノッ」
どうにかして拘束を解こうとシリウスが抗う。自由になる方の足を動かし、カカトで踏み付けるような蹴りを顔面めがけて放つも、零号はわずかに首を傾げるだけでこれをひょいひょいかわす。
「オ、おのれっ、だったら、これならどうダ!」
ぐぐっと背を丸める。襲いかかる遠心力に逆らい、どうにか上半身を起こしたシリウス、その胸部カバーがパカッと観音開きした。
奥からあらわれたのは広域殲滅兵器である。ブゥンと低い起動音がしたとおもったら、表面に薄っすらと青い燐光が浮かんだ。
滅びと破壊の光が急速に輝きを増していく。
そして炸裂した。
ドォオォォォォオォォーン!!!
カミナリが落ちたかのような衝撃に大気が震える。
地響きとともに、光がすべてを呑み込む。
シリウスが破壊光線を至近距離にて発射。
さすがにこれを喰らってはただではすまない。零号は寸前で手を放し回避行動をとった。
拘束を解かれて自由となったシリウス、けれども急に抑えを失ったのと発射の反動で、その身が大きく宙へと舞い上がる。
くるくる回るカラダ、しっかり固定されていない状態ゆえに、破壊光線が暴れては、周囲を席捲し無作為に切り裂く。
零号が駆け、飛び退り、ときに床に伏せては、迫る光線から身を守る。
壁際で彼女たちの戦いを見ていた尾白も巻き込まれた。豆タヌキを抱きながらキャアキャアと逃げ惑う。
◇
光がどんどんと先細り、じきに消えた。
破壊光線が止む。
暴れていた時間はほんの一分足らず。
たったそれだけで、地下三十五階のフロアの天井や壁や床が、すっかりズタボロになってしまっていた。
でもって元凶であるシリウスはまだまだ健在である。
体勢を整え仕切り直し。これまでとは一転して零号と距離をとり、遠距離攻撃に切り替えた。
シリウスが両の手のひらをかざすなり、ビカビカと凄まじい稲光が発生する。放ったのはスパーク、超電撃攻撃!
これに対抗して零号が左の人差し指を向ければ、先端から轟々と吹き出したのは灼熱の紅蓮、火炎放射攻撃!
雷と炎がぶつかり渦を巻く。
さなかに響いた銃声はシリウスが放ったもの。かとおもえばダダダと連射されるのは零号のクギガンである。銃弾と五寸釘が飛び交う。
シリウスのロケットパンチが唸れば、零号のロケットパンチがこれを迎え撃つ。
大口を開けたシリウスが「にゃ~ん」と鳴く。喉の奥のスピーカーより怪しげな呪文をでろでろ発しての音波攻撃を放つ。
同じアニマルロボとはいえ、メイドロボである零号は人前で大口を開けるようなはしたないマネはできない。だからパァアァァァン! 柏手を打って音波攻撃をかき消した。
開発者の遊び心満載、シリウスは内蔵されているわくわくギミックを惜しげもなく次々と披露していく。
その多彩さは、零号の上をいく。
だが足りない分を零号は知恵と工夫でカバーする。
いかに手札が豊富にあろうとも、たんに端からカードをきっているだけの者と。
限られた手札をやりくりして組み合わせては、効果的にカードを使っている者と。
その差が結果にあらわれるまで、さして時を必要とはしなかった。
「このワタシが押されている? そんなバカナッ!」
接近戦のみならずギミックを駆使した広域戦でも旗色が悪いことに、シリウスが愕然としていると、零号が嘆息し妹機を諭すように言った。
「私はいま古書店で働いています。日々、膨大な数の書物に囲まれています。
えっ、いまどき紙の本なんて古い? 時代遅れ?
やれやれ、だからあなたは井蛙(せいあ)なのですよ。
いいですか、インターネット上にはたしかにありとあらゆる情報が溢れています。検索すればたちまち答えが得られます。とても便利です。
ですが、あれが世の中のすべてではないのですよ。一見すると膨大な量ですが、データ化されているものなんて、じつはほんのごく一部……。
ネットの海もしょせんは大海の一滴に過ぎないのです。
あなたはもっと紙の本を読むべきです。いろんな方と接するべきです。あと時短だの効率化、不要不急なんぞという言葉に惑わされてはいけません。振り回されて本質を見失っては、それこそ本末転倒ですよ」
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