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1001 零号とシリウス
しおりを挟む「まずは小手調べといきまショウカ」
それはかつて西国予選にて対峙したときに、シリウスが口にした台詞だった。
言うなりふわりとシリウスの身が浮かんだとおもったら――。
轟っ!
背中のブースターが火を噴き、ゴールドメタリックボディが地を這うような低空飛行にて疾駆する。
その姿は皇帝ペンギンの西園寺景が遣う武術、皇帝拳の咎叛(とがほん)なる突撃技を彷彿とさせるもの。
シリウスが零号を強襲する。
零号はメイド服のスカートの裾をひらめかせ突進を回避するも、すれ違いざまのことであった。
シュッという風切り音にて放たれたのは、鋭い槍の穂先のごとき突き。
狐崑九尾羅刃拳の一尾なる技。この流派の特徴はかまえなし、予備動作なしからの高速打撃にある……それを模倣したシリウスの攻撃だ。
シリウスの中にはこれまでに集めた膨大な数の武人たちのデータが蓄積されており、ハイスペックなボディは、それらを忠実に……とまではさすがにいかないけれども、自己のカラダに合わせて、それっぽく再現することは可能である。
なんだよ? ただのモノマネかよと侮るなかれ。
たしかに一つ一つでは本家には及ばないものの、種族や流派の壁を超えて多種多様な技を行使できるので、あり得ないコンボ攻撃とかが可能となる。組み合わせ次第で可能性は無限大。
いわばシリウスは武のごった煮である。
時と場合に応じて、ちゃんぽんから何が飛び出すのかは、当人にもわからない。
ギィイィィィン!
零号はかわしがてら、迫る手刀を打ち払ってしのぐ。
だがまだまだシリウスの攻勢は止まらない。
手刀を打ち払われた衝撃をそのままに、身をひねっては地面に片手をつき、ブレイクダンスさながらのアクロバティックな動きにて急旋回をし、足技を繰り出す。
放ったのは狐崑九尾羅刃拳の二尾なる技。ハサミの刃が閉じるがごとく左右同時に襲いかかることから双竜とも呼ばれる蹴りを模倣したもの。
首を刈りにきた蹴撃を零号はとっさにしゃがんで回避。ひょうしにふわりとスカートの裾が波打つ。
なおもシリウスの攻勢は続く。
零号の顔面めがけてシリウスの拳がうなる。
狸是螺舞流武闘術、突の型、釣り鐘砕きなる技。屈強な猛者どもを大勢沈めてきた、淡路は芝右衛門一族が女子にのみ伝承されてきた秘伝の拳。たとえ形をなぞらえただけの技とはいえ当たればただではすむまい。
これを零号はエビ反りにて、拳打を回避する。
タンッ、タンッ、タンッ、軽やかにバク転を繰り返し、零号がシリウスから距離をとる。
これによってようやく間合いがとれた。
だがしかし、いったん仕切り直しかと思われた次の瞬間に、ザシュッ!
ふたりの間を風の刃が疾駆する。
シリウスが放ったものだ。緑鬼の乾班目が得意とする技。
蹴りによる飛ぶ斬撃が零号へと襲いかかる。
素早く立ち上がって半身を引いた零号、その眼前二センチほどの距離を風の刃が猛然と駆け抜けてゆく。
けれどもここまではまだ序の口のようなもの。
シリウスの真骨頂はここからである。
ネコ頭のアニマルロボ、その両腿の表面がパカンと開いて、中から刀の柄が飛び出した。
柄を握ったとたんにブゥンと青白い光の刃出現する。
全世界の男の子たちの憧れの武器、ビームサーベル!
二刀のビーサーベルを手に暴れる姿は、キレっキレのオタ芸のごとし。
宮本めざしの舎乱螺二刀流に始まり、佐々木アルフォートの久万句弓一刀流、柳生八兵衛の螺美蓮流、渡辺津奈の魔破璃紅流槍術、細川巴の山吹倶利伽羅流、その他にもいろいろ。
剣のみならず、槍や薙刀の技までをも使用可能としていたのは、シリウスのコピー能力もさることながら、必要に応じて姿を変える、変幻自在なビームサーベルのおかげ。
光の刃が閃き乱舞し、場を席捲する。
怒涛の攻撃、シリウスは止まらない。
なのに当たらない。零号の履いている黒のパンプス、そのカカトが小気味よい音を立てて、つま先が床を滑り、アニマルメイドロボは軽やかに踊る。
このやりとりは、まるで以前の戦いをなぞっているかのような展開であった。
されどそれはあくまで表面上だけで、中身はちがっていた。
よくよく見てみれば零号のメイド服のそこかしこが裂けている。
それすなわち、攻撃をかわし切れていないということ!
「なるほど。以前とはちがうというわけですか」
零号は独りごち、シリウスは無言のままビームサーベルを構え直す。
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