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980 挟撃
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ウ~! ウ~! ウ~!
ウ~! ウ~! ウ~!
耳障りなサイレン音が通路内に鳴り響く。
天井近くに等間隔に設置されてある警報ランプたちが一斉にくるくる回り、いく筋もの赤い斜光がこの場に集った者らへと注がれる。
第三ゲート前にて勃発した警備隊との争い。
不意打ちにて先手をとり、押していたのも序盤だけのこと。強固な陣と数の利を活かし、じょじょに盛り返され、いまでは一進一退となりつつある。
攻防のさなかのことであった。
カチッ、カチッという空音(からおと)。
引き金にかけた指先が虚しい。
右手に持つデザートイーグルが情けない声で鳴いた。
弾切れである。
敵味方が入り乱れての大混戦、次から次へと襲いかかってくる警備隊の者たちのせいで、新たなマガジンを装填している余裕がない。
そんな安倍野京香へ、ここぞとばかりに敵兵が距離を詰めてきた。
正面から向かってくる相手を癖の悪い足にて一蹴。直後に横合いから振り下ろされた警棒の一撃はひらりとかわし、すれ違いざまにデザートイーグルのグリップの角でこめかみをチカラまかせにぶん殴る。
「やれやれ、これでようやく」
と、安倍野京香は安堵できない。
倒した者らと入れ違いに新手があらわれ、猛然と迫ってきたからだ。
だから左手の中にあるトカレフで牽制しようとするも、こちらもカチリと空鳴き。
サングラスの奥の目元が険しくなり、安倍野京香は「ちっ」と軽く舌打ちする。
らしくない……ふだんの自分ならば、こんなヘマはけっしてしないというのに。
しようがないので手の中の武器はいったん放棄して、新たな拳銃を取り出そうとしたところで、一陣の風が吹く。
風とともに蒼の一閃が走り、迫っていた者どもを打ち払った。
青龍の小太刀を手にした燐火である。
「さぁ、いまのうちに」
「悪い、マジで助かった」
素早くマガジンを輩出し、安倍野京香は新しいのと入れ換える。
その作業が済むなり、いきなり後方へと両腕を突き出しては、デザートイーグルとトカレフの二丁の引き金を同時にひいた。
射出された二発の弾丸が撃ち抜いたのは、後方にて控えている芝生綾と仁科加奈たちの方へと向かっていたアニマルロボ甲の二体の後頭部であった。
相手がロボットなので手加減は無用、容赦なく脳天をぶち抜く。
「くそっ、連中、綾ちゃん先生に目をつけやがった」
安倍野京香は素早く視線を走らせ、周囲の状況を確認する。
これまでは単純にふたつの勢力がぶつかっていただけであったが、ここにきて敵勢の一部が隙あらば芝生綾の方にちょっかいを出し始めた。
良くも悪くも彼女はキーパーソンである。
奪われたらチェックメイト。
ゆえにこちらとしては、どうしても気を配る必要がある。
けれども相手にとってはちがう。なにも本気で奪う必要はない。ちらちら手を出すふりをするだけでいい。ただそれだけで、こちらを牽制し、行動の自由を封じることがある程度可能となる。
「脱出を焦るあまりしくじったな。いや、どのみち騒動が起きた時点で、中央から連絡が入るから、遅かれ早かれバレていたか。だがそれよりも……」
ちらりと左腕にはめている腕時計を見る。
すでに第三ゲートでの戦いが始まってから二十分近くが経とうとしていた。
想定していたよりも時間がかかり過ぎている。
このままでは――。
芝生綾たちへと向かう敵兵らを一掃しつつ、味方の援護射撃もしていた安倍野京香であったが、その時のこと。
最前線にて獅子奮迅の働きをしながら、味方を鼓舞していた燐火がハッとふり返った。
白い忍び装束、覆面からのぞく目が鋭い。
尋常ではないその様子に、釣られて安倍野京香も首をひねって後方を確認したところで、その理由を知った。
カツン、カツン、カツン、カツン……。
規則正しい足音が重なり連なる。
アニマルロボ軍団が整然とした行軍にて、こちらへと近づいてくる。
第二ゲートからの援軍であった。
前後からの挟撃、想定していた中で最悪の展開に、「まいったね」とぼやきつつ安倍野京香は新たにくわえたタバコに火をつけた。
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