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974 通信教育・棒術
しおりを挟むコンテナからコンテナへと。
芽衣が飛び移っていると、正面より敵機が襲いかかってきた。
宙での交差、膝蹴りで返り討ちにし、叩き落とす。
通路を挟んだ向こう側のコンテナの屋根に芽衣はシュタっと着地する。
が、ひと息つく暇もなく、両サイドから新たな敵影が迫る。
積まれたコンテナの上での戦い。四方から次々とあらわれる敵機を、ポコポコポコ、モグラ叩きゲームの要領でひたすら倒していく。
上から降ってくる者たちを器用にかわしつつ、下で暴れていたのはトラ美であった。
「うぉおぉぉぉぉぉぉーっ」
雄叫びをあげてトラ美がぶん回していたのは、鹵獲したアニマルロボ甲のうちの一体である。むんずと足首を掴んでは振り回し、ガンガンと群がってくる敵勢を蹴散らしていた。
だが猛攻をしのぎ、仲間の屍を超えてくる根性のある個体もちらほら。
しかしなかなか近寄れない。
ダダダダダダダダッ!
左腕に内蔵されたクギガンを連射モードで放ち、トラ美の援護射撃をしていたのは零号である。合間に上で単身暴れている芽衣も援護している。
遠距離攻撃にて仲間のサポートに徹している。
そんな零号を先に黙らせようと動く敵勢には、タエちゃんが対応し撃退していた。
でもって、おれはというと……。
ひゅんひゅんひゅん、風切り音が鳴り、走るは紅き一閃。
朱色の棍棒が唸り、群がる敵をバッタバッタと薙ぎ倒す。
操るのは白い腕の怪異のしらたきさんである。「アチョウ」とカンフー映画ばりに華麗な棒さばきにて、次々と敵機を撃破していく。
ちなみにこの朱色の棍棒はおれが化けたモノである。
聚楽第の施設の地下十五階にあるフロア。
ここはコンテナが山積みにて、ごちゃごちゃしており、ちょっとした迷路のよう。
通路もあまり広くないから、アスタコやらショベルカーなどの重機に化けたとて、ろくに動けやしない。クルマで突っ切ることもむずかしい。
だからとて女たちにまかせて、後方で一服ふかしていては男が廃るというもの。
とはいえ、おれ個人の戦闘力は雑魚並みである。
酔った勢いにてゲームセンターでパンチングマシーンを殴れば、手首がぐきりとなり、拳を痛め、涙目でじたばた悶える体(てい)たらく。
えっ、キックマシーンはどうかだって?
ふっ、冗談はよしてくれ。きっと脛がボキっと折れるね。そしてギプスと松葉づえのお世話になるのにちがいない。
比べて、しらたきさんの頼もしいことといったらないね。
初めて会った時はクルマの運転ぐらいしかできなかったのに、いつの間にやらパソコンを覚えキーボードを自在に操り、事務所のホームページの運営から各種事務仕事も一身に引き受け、だらしないおれの身のまわりの世話を焼き、雑居ビルの管理までこなし、さらにはスナック「昇天」のナンバーワンにまで昇りつめ、はては重機の操作もお手のもの。
でもって、いつの間にか棒術までマスターしていた。
なんでも、通信教育とインターネットの動画サイトで学習したんだとか。
空手の通信教育とかは昔からあったけど、あれで本当に強くなったヤツをおれは知らない。
なのにマスター出来てしまうしらたきさん……。うちの第二助手がすごいのか、それとも時代が変わったのか。
う~ん、おれも何か習い事でもはじめてみようかな。
なんぞと考えつつ、おれはしらたきさんの手の中で踊り続けている。
◇
幾重にも張り巡らされた厚い敵の布陣。
ひとつ突破しても、すぐに新たな壁が立ち塞がる。
疲れ知らずのアニマルロボたち。
止まぬ波状攻撃。
倒しても倒しても、ちっとも数が減らない。
いくら戦力の集中が戦の原則とはいえ、よくもまあ、これだけの数を一か所に投入したものである。
この思い切りの良さ、聚楽第はよほどこの先におれたちを行かせたくないらしい。
とはいえ寡兵の悲しさかな、多勢に無勢、みんながんばってくれてはいるが、包囲の輪がじょじょに狭まりつつあった。
退路の確保もむずかしくなってきた。
「くっ、さすがにこのままでは」
ジリ貧にて、一時撤退もやむをえないか。
おれたちは決断を迫られる。
だが、その時のことであった。
「オーッホッホッホッホッ」
突如として響いたのは、なにやら聞き覚えのある高笑いであった。
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