おじろよんぱく、何者？

968 動きだす者たち

　
　準決勝第一試合、新生パンドラの姫路アニマルキングダム選抜の試合は、きっと荒れるとにらんでいた。
　なにせ西国予選での因縁がある。
　だがまさか、先鋒戦からあんなことになるとは……。

　宮本めざしの炎龍の剣と木花咲耶によって出現した火災旋風によって、闘技場内は炎獄と化した。
　にもかかわらず対峙する佐藤晋太郎は、逃げるどころかみずから相手の懐に飛び込む始末。
　双方ともに、どうしようもない阿呆だ。
　そのせいでついに闘技場の方が先に根をあげるだなんて、いったい誰が予想し得たであろうか。

　底が抜けてあらわとなったのは、まるで地の底にまで通じているかのような深い深い竪穴である。
　数多の工作員や忍びたちが潜入を試みるも、みな消息を断ち誰ひとり戻ってこなかった場所。せのうみドームの暗部。ずっと謎のベールに包まれていた聚楽第の秘密施設が、いま白日の下に！

　不測の事態だが、絶好の好機でもある。
　意外にもこの状況で、真っ先に動いたのは尾白探偵事務所チームの面々であった。
　あれこれと深く考えない能天気は最強なのである。

「ひゃっほぅ、突撃ーっ！」
「腕が鳴る。やってやるぜぇ」
「今度こそ借りを返す」
「レッツ、エンジョイ、ハッキング」
「わっ、おまえら、ちょっと待て。まだ心の準備が～」

　タヌキ娘を筆頭に、次々と穴に飛び込むヘビ娘、トラ女、メイドロボ、探偵……。
　これに客席に残っていた獅子王・千石京志郎（せんごくきょうしろう）が率いるチーム獣空手のメンバーら、屋島太三郎狸の直系のお嬢様タヌキである平多紀理（たいらたぎり）が率いるチーム四国連合のメンバーら。
　他には個別参加にて、チーム天狗道からは女天狗の飯綱考標（いづなたかすえ）が「ダーリン、いまいくから！」と竪穴に消えた佐藤晋太郎を追い、チームワールドベアーズからはパンダの張林（ちゃんりん）と北極クマの緒太守兜来（おたすつくる）が「まだまだ暴れ足りねえ」「ケンカ祭じゃーっ」と雄叫びをあげ飛び入り参加、チーム益荒男からは佐々木アルフォートが長刀を引っさげ「助太刀いたす」と颯爽と尾白たちの跡を追っていった。
　なにげにケダモノ率が高いのは、毛玉たちは基本的にお祭り騒ぎが大好きだから。

　でも、それ以外にも動く者たちがいた。
　隠れるようにしてこそっと動くスーツ姿もちらほら。
　泣く子も黙る国税局八番課の面々だ。
　国税局八番課は、かつての陰陽寮の成れの果て。所属するメンバーたちは全員が術者にて、その怪しげな術を駆使しては、情け容赦なく動物や妖相手に納税の義務を果たせと迫り、逃げれば地獄の果てまで追いかけては、尻の毛まで毟る。
　車屋千鶴（くるまやちずる）の他数名が竪穴の奥に消えた。おおかた聚楽第の隠し資産でも探るつもりなのだろう。

　それらを見送りながら「ちっ」と軽く舌打ちにて安倍野京香がサングラス越しに隣へ目を向ければ、無言にてコクンとうなづいたのは共闘関係にある燐火であった。
　彼女たちもまた動き出す。
　ただし、向かうのは尾白たちとは逆の方だ。
　下ではなくて上、目指すは貴賓室だ。
　それすなわち芝生綾奪還作戦を決行するということ。

「ちょいと予定が狂ったが、これを見逃す手はねえ。行くぞ！」
「ええ」

　カラス女の檄に応じつつ、燐火は羽織っていたコートをばさりと脱ぐ。
　とたんに白の忍び装束となったオコジョくのいち、右手をかざせば、そこかしこに潜んでいた影がさっと消えた。みな白羽一派の者たちである。
　これに続き、安倍野京香と燐火も駆け出した。