おじろよんぱく、何者?

月芝

文字の大きさ
上 下
965 / 1,029

965 獣王武闘会本戦 準決勝第一試合 幻惑の剣ヶ原

しおりを挟む
 
 足下より微かに伝わっていた振動が止んだ。
 訪れた不気味な静寂の中、突如として膨れ上がり湧き起こったのは巨大な殺気!
 かとおもえば、地面の下より刀の切っ先が飛び出してきた。
 危うく串刺しにされるところを、寸前で佐藤晋太郎は跳び退りかわす。
 けれども逃れたとおもった矢先のこと。
 今度は火柱が轟っと立ち昇り行く手を遮る。
 ありえないことに、宮本めざしは地面の下を移動しては、攻撃を仕掛けているのだ。
 だが、しょせんは苦し紛れの一手であろう。
 モグラじゃあるまいし、いつまでも地面の下に潜っていられるものではない。それに落ち着いて対処すれば充分に避けられる。
 佐藤晋太郎はそう考えて、努めて冷静に事態を見極めようとした。
 だがしかし、この局面で宮本めざしの木花咲耶が牙を剥く。

 木花咲耶はしおらしい見た目をしている美刀だが、こうみえてけっこうな激情家である。身の内を焦がす熱が陽炎のごとき幻影を産み出す。
 すべてを燃やし尽くし、ときには天候すらをも左右する炎龍の剣に比べたら、とても控え目なチカラ。
 炎龍の剣を暴虐の覇王とするならば、木花咲耶の刀は男を惑わす魔性を秘めた深窓の姫君。でもその地味さこそがおそろしい。刹那の攻防のさなか、虚な影がひらりひらり。きれいな見た目に見惚れていたら、たちまちグサリ。

 幻影の刃が次々と姿をあらわす。
 十、三十、五十、百……。
 ついには闘技場内が剣ヶ原と化した。
 うち本物は一刀のみ、しょせんは幻に過ぎない。
 なのに佐藤晋太郎はこれらを無視できない。
 理由は、すべての幻影に凄まじい殺気が乗せられていたため。
 優れた武人であることが仇となった。他者から発せられる害意や殺意に敏感に反応してしまう。
 木花咲耶は「武人殺し」の異名を持つ。
 刹那の攻防のさなかに、虚実を織り交ぜ、閃き踊る凶美刃。
 それだけでもやっかいだというのに、よもやこのような使い方があろうとは誰が想像しえたであろうか。

 無数の刃に囲まれて、佐藤晋太郎は戸惑いおもうように動けない。
 そこへ容赦なく火走りが襲いかかる。
 宮本めざしの炎龍の剣による攻撃。さらに地面の下より噴き出す焔がこれに加勢する。
 続く猛攻、反撃しようにも相手は地に潜ったまま。
 幻惑の剣ヶ原に囚われた佐藤晋太郎は、どうにかかわし続けるので精一杯となった。
 とはいえ、攻勢を強める宮本めざしに余裕があったかといえば、さにあらず。
 佐藤晋太郎が早々に看破したとおり、彼はネコであってモグラではない。無茶を続けているがゆえに肉体にかかる負担が尋常ではなかった。
 地中では炎龍の剣が放つ熱が篭り、さながら燃え盛る焼き窯の中のようになっていたのである。
 そんな場所に長いこと身をおけば、いかに猫剣豪とてただではすまない。
 ゆえに宮本めざしはここで勝負をかけた。

「舎乱螺二刀流、螺嵐!」

 闘技場内に激震が走り、剣ヶ原の幻影がふつりと消えたかとおもえば、噴き出したのは巨大な竜巻ふたつ。
 ひとつは紅蓮をまとった竜巻、これは炎龍の剣によるもの。
 いまひとつはまるで桜吹雪でも舞っているかのような竜巻、これは木花咲耶の仕業だ。
 それらが周囲を薙ぎ払いながら移動を開始し、佐藤晋太郎へと迫る。
 だが、それで終わりではなかった。
 ふたつの竜巻がひとつに交わり、さらなる変化が生じる。

 炎と風が交わり、渦となり、勢いを増し、熱波をまき散らしては天を焦がす。
 高密度にて折り重なり、練り合わさった末に、うなりをあげたのは火災旋風であった。
 大地震のとき、あるいは大規模な山火事、もしくは戦時下での大空襲、原子爆弾の投下された時にも確認されたという。
 その内部には秒速百メートルもの嵐が吹き荒れ、その身に宿すは優に千度を超える灼熱……。
 絶望が地上に顕現し、いままさにすべてを呑み込まんとしていた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

手切れ金

のらねことすていぬ
BL
貧乏貴族の息子、ジゼルはある日恋人であるアルバートに振られてしまう。手切れ金を渡されて完全に捨てられたと思っていたが、なぜかアルバートは彼のもとを再び訪れてきて……。 貴族×貧乏貴族

高槻鈍牛

月芝
歴史・時代
群雄割拠がひしめき合う戦国乱世の時代。 表舞台の主役が武士ならば、裏舞台の主役は忍びたち。 数多の戦いの果てに、多くの命が露と消えていく。 そんな世にあって、いちおうは忍びということになっているけれども、実力はまるでない集団がいた。 あまりのへっぽこぶりにて、誰にも相手にされなかったがゆえに、 荒海のごとく乱れる世にあって、わりとのんびりと過ごしてこれたのは運ゆえか、それとも……。 京から西国へと通じる玄関口。 高槻という地の片隅にて、こっそり住んでいた芝生一族。 あるとき、酒に酔った頭領が部下に命じたのは、とんでもないこと! 「信長の首をとってこい」 酒の上での戯言。 なのにこれを真に受けた青年。 とりあえず天下人のお膝元である安土へと旅立つ。 ざんばら髪にて六尺を超える若者の名は芝生仁胡。 何をするにも他の人より一拍ほど間があくもので、ついたあだ名が鈍牛。 気はやさしくて力持ち。 真面目な性格にて、頭領の面目を考えての行動。 いちおう行くだけ行ったけれども駄目だったという体を装う予定。 しかしそうは問屋が卸さなかった。 各地の忍び集団から選りすぐりの化け物らが送り込まれ、魔都と化しつつある安土の地。 そんな場所にのこのこと乗り込んでしまった鈍牛。 なんの因果か星の巡りか、次々と難事に巻き込まれるはめに!

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?七本目っ!少女の夢見た世界、遠き旅路の果てに。

月芝
児童書・童話
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。 ひょんなことから、それを創り出す「剣の母」なる存在に選ばれてしまったチヨコ。 辺境のド田舎を飛び出し、近隣諸国を巡ってはお役目に奔走するうちに、 神々やそれに準ずる存在の金禍獣、大勢の人たち、国家、世界の秘密と関わることになり、 ついには海を越えて何かと宿縁のあるレイナン帝国へと赴くことになる。 南の大陸に待つは、新たな出会いと数多の陰謀、いにしえに遺棄された双子擬神の片割れ。 本来なら勇者とか英傑のお仕事を押しつけられたチヨコが遠い異国で叫ぶ。 「こんなの聞いてねーよっ!」 天剣と少女の冒険譚。 剣の母シリーズ第七部にして最終章、ここに開幕! お次の舞台は海を越えた先にあるレイナン帝国。 砂漠に浸蝕され続ける大地にて足掻く超大なケモノ。 遠い異国の地でチヨコが必死にのばした手は、いったい何を掴むのか。 ※本作品は単体でも楽しめるようになっておりますが、できればシリーズの第一部~第六部。 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!」 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?二本目っ!まだまだお相手募集中です!」 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?三本目っ!もうあせるのはヤメました。」 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?四本目っ!海だ、水着だ、ポロリは……するほど中身がねえ!」 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?五本目っ!黄金のランプと毒の華。」 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?六本目っ!不帰の嶮、禁忌の台地からの呼び声。」 からお付き合いいただけましたら、よりいっそうの満腹感を得られることまちがいなし。 あわせてどうぞ、ご賞味あれ。

【R18】清掃員加藤望、社長の弱みを握りに来ました!

Bu-cha
恋愛
ずっと好きだった初恋の相手、社長の弱みを握る為に頑張ります!!にゃんっ♥ 財閥の分家の家に代々遣える“秘書”という立場の“家”に生まれた加藤望。 ”秘書“としての適正がない”ダメ秘書“の望が12月25日の朝、愛している人から連れてこられた場所は初恋の男の人の家だった。 財閥の本家の長男からの指示、”星野青(じょう)の弱みを握ってくる“という仕事。 財閥が青さんの会社を吸収する為に私を任命した・・・!! 青さんの弱みを握る為、“ダメ秘書”は今日から頑張ります!! 関連物語 『お嬢様は“いけないコト”がしたい』 『“純”の純愛ではない“愛”の鍵』連載中 『雪の上に犬と猿。たまに男と女。』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高11位 『好き好き大好きの嘘』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高36位 『約束したでしょ?忘れちゃった?』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高30位 ※表紙イラスト Bu-cha作

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?五本目っ!黄金のランプと毒の華。

月芝
児童書・童話
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。 ひょんなことから、それを創り出す「剣の母」なる存在に選ばれてしまったチヨコ。 そのせいでこれまでの安穏とした辺境暮らしが一変してしまう! 中央の争乱に巻き込まれたり、隣国の陰謀に巻き込まれたり、神々からおつかいを頼まれたり、 海で海賊退治をしたり…… 気がつけば、あちこちでやらかしており、数多の武勇伝を残すハメに! 望むと望まざるとにかかわらず、騒動の渦中に巻き込まれていくチヨコ。 しかしそんな彼女の近辺に、海の彼方にある超大な帝国の魔の手が迫る。 天剣と少女の冒険譚。 剣の母シリーズ第五部、ここに開幕! お次の舞台は商連合オーメイ。 あらゆる欲望が集い、魑魅魍魎どもが跋扈する商業と賭博の地。 様々な価値観が交差する場所で、チヨコを待ち受ける新たな出会いと絶体絶命のピンチ! ※本作品は単体でも楽しめるようになっておりますが、できればシリーズの第一部~第四部。 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!」 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?二本目っ!まだまだお相手募集中です!」 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?三本目っ!もうあせるのはヤメました。」 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?四本目っ!海だ、水着だ、ポロリは……するほど中身がねえ!」 からお付き合いいただけましたら、よりいっそうの満腹感を得られることまちがいなし。 あわせてどうぞ、ご賞味あれ。

モブだった私、今日からヒロインです!

まぁ
恋愛
かもなく不可もない人生を歩んで二十八年。周りが次々と結婚していく中、彼氏いない歴が長い陽菜は焦って……はいなかった。 このまま人生静かに流れるならそれでもいいかな。 そう思っていた時、突然目の前に金髪碧眼のイケメン外国人アレンが…… アレンは陽菜を気に入り迫る。 だがイケメンなだけのアレンには金持ち、有名会社CEOなど、とんでもないセレブ様。まるで少女漫画のような付属品がいっぱいのアレン…… モブ人生街道まっしぐらな自分がどうして? ※モブ止まりの私がヒロインになる?の完全R指定付きの姉妹ものですが、単品で全然お召し上がりになれます。 ※印はR部分になります。

こちら第二編集部!

月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、 いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。 生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。 そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。 第一編集部が発行している「パンダ通信」 第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」 片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、 主に女生徒たちから絶大な支持をえている。 片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには 熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。 編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。 この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。 それは―― 廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。 これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、 取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。

処理中です...