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958 獣王武闘会本戦 幕間 新世界
しおりを挟む激闘に次ぐ激闘、ますます苛烈になっていく獣王武闘会本戦。
波乱の準々決勝、全試合が終わったあと。
闘技場の地下深く、秘密の施設にて――。
「ほぅ、鬼と天狗はここで手を引くのか……」
革張りのリクライニングチェアの背もたれをぎしりと鳴らし、つぶやいたのは聚楽第の総帥ウルであった。
「わざと負けたと?」
細かな数値と乱高下しているグラフが表示されている手元のモニターから顔をあげた暮来真理(くれこまり)が尋ねると、ウルがうなづく。
「手を抜いた、とまでは言わん。それなりに本気ではあったろう。だが真から全力であったかといえば、ちがうと断言できる」
「しかしどちらも、ドッカンドッカン、ずいぶんと派手に暴れていましたけど。おかげで補修作業が追いつきませんよ」
ぶーぶー唇を尖らせる暮来真理に「ふふふ」とウルが含み笑い。
「見た目だけはな。天狗どもはなんだかんだで周囲に気を遣っていたぞ。闘技場の外に術の影響がおよばないように加減をしていた」
「えっ! あれでですか?」
「そうだ。だが当然だろう。空飛ぶ災厄、天変地異をも自在に操るとされる天狗のチカラが、あの程度のわけがなかろう。その気になれば暴風雨を招き寄せ、山津波や地震すらも起こす連中だぞ」
「……伊達に畏怖され、人間たちの信仰の対象や伝承にはなっていないということですか」
「そういうことだ。それに鬼たちにしても似たようなものだろう。副将戦をのぞいて、しょせんは第三形態止まりだ。副将戦での第四形態にしても、たったの三分のみ」
その結果、準々決勝を終えて残ったチームは、新生パンドラ、姫路アニマルキングダム選抜、ロストブラッド、尾白探偵事務所だ。
うち新生パンドラとロストブラッドは聚楽第の紐つきである。
決勝トーナメントの組み合わせで、わざとやっかいな連中とは当たらずにすむようにと細工をしたものの、よもや天狗と鬼がそろって自主的に退場してくれるとはウルもおもわなかった。
「どうやらあくまで見届け人を気取るつもりのようだな。ふん、気に入らんな。しょせんは毛玉のすることと侮っているのだろうが、その余裕面……いつまで続くのか見物だな。で、暮来博士、計画の進捗状況はどうなっている?」
「は、はい。エネルギーの充填の方は問題ありません。むしろじゃんじゃん集まり過ぎて処理が追いつかないほどです。それから鋼管杭の方ですが、こちらは少々手こずっております。どうやら固い岩盤に当たったようで。ですが、突破できないほどではないので、あと一両日中には貫通し、目標地点に到達できるかと」
報告を受けて「そうか」とウルは満足げにうなづき、背もたれに深く身を預けて、ふたたびリクライニングチェアをぎしりと鳴らした。
「あと少し……。あと少しで世界は劇的に変革する。くっくっくっ、果たして来たるべき新世界で生き残るのは、天狗か、鬼か、ヒトか、獣か、あるいは別の……」
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