933 / 1,029
933 獣王武闘会本戦 準々決勝第四試合 半成り
しおりを挟む鬼の第一形態。
角が生えて瞳の色が変わって、牙がにょき。鬼としてのチカラは二割ほど解放。
鬼の第二形態。
角がより大きく、瞳の色味も強く、牙はかわらず。でも肌が人肌から鬼肌へとかわる。青鬼の一族ならば青肌に、赤鬼の一族ならば赤肌にといった具合に。鬼としてのチカラは五割ほど解放される。
鬼の第三形態。
肉体のそこかしこが荒々しくなり、より凶悪な鬼っぽくなる。鬼としてのチカラは八割ほど解放。ただしこの形態になるには一族の長の許可が必須。
鬼の第四形態。
絶対女王である白鬼の七宝院白瑠璃(しちほういんしらるり)が認めたときにのみ至れる、最終形態にして真の鬼の姿。チカラはすべて解放されており、生態系の理から外れた存在となる。けれども強すぎるがゆえに肉体がもたず、解放とともに自壊がはじまる。
鬼の角について。
鬼の角は本数が格をあらわす。
長が一本角、副長が二本角、下っ端が三本角といった風に。
◇
ぼこぼこと膨れ盛り上がる筋肉、ごきりごきりと不気味に鳴るのは骨の音であろうか。
絵巻物などに登場する、猛々しい鬼が出現する。
乾班目は、いきなり第三形態となった。
元副長である乾斑目の額より生えた角は二本、ただし、どちらも半ばにて折れていた。
それに肌の色もおかしい。緑鬼の種族であるはずなのだが、限界まで煮詰めた抹茶のごとき濃さ――。
芽衣から向けられる怪訝そうな目つきに、乾が自嘲する。
「角は錫城に折られた。そしてこの肌の変化こそが、黒鬼へと至る途中であるという証。私はいま半成りなんだよ」
次の黒鬼となる過程に生じる変化。いずれはすべてが黒に染まり、新たに一本角が生えてくる。そうすれば黒鬼化が完了する。
ゆえに半成りは中途半端ということでもあった。
もっとも半端ゆえに弱いわけではないということは、すぐにわかった。
「がぁあぁぁぁぁぁぁぁーっ」
半成り鬼が猛り吠える。
びりびりと闘技場内の空気が震えた。
乾が一歩を踏み出す。たったそれだけでズシンと重たい音がして、地面がへこみ上下する。
右目が妖しい緑光を宿す。
左目が黒いオニキスのように艶めかしい光沢を帯びている。
不意に乾の両腕の肘から先がかき消えた。
瞬間、芽衣は地面に張りつくようにして身を低くする。
その頭上を通り過ぎたのは、斜め十字の風刃であった。
腕が消えたように見えたのは、動きが早すぎて目で追えなかったせい。そして瞬速に振られた腕から発せられたのが、先の攻撃だ。
似たような技を使う者は、本戦出場者の中にも大勢いる。
けれどもそのどれとも似て非なるものであったのは、乾が放ったそれは攻撃でもなんでもなかったこと。ただのウォーミングアップ、形態変化直後で強張った肩や腕まわりの筋肉をほぐそうと、ぶるんとさせただけのことであったのだ。
太い首を左右に傾げ、ごきりごきりとさせるなり、急に乾の気配が薄まっていく。
全身より垂れ流されるままであった闘気が収束されたせいだ。
素早く立ち上がった芽衣が警戒していると、乾が動く。
両の拳を持ち上げてファイティングポーズをとったとおもったら、もう芽衣のすぐ目の前にいた。
乾の戦闘スタイルはキックボクシングに近いもの。
左右の豪腕が唸りフックによる二連打、芽衣は上体をそらしこれをかわす。
すかさず踏み込んで反撃を芽衣は試みるも、それはかなわない。前に進もうとしたところに膝が浮き上がってきた。かとおもえば、膝がのびて蹴りになり振り抜かれ、さらにはカカト落としへと繋がる。またこれらに伴って風圧が暴れて、場が荒れる。乾を中心にして風が渦を巻く。
これに軽量級であるタヌキ娘の身がわずかに流された。
猛攻をかわし、避けようと跳び退ったさいに両足が地面から離れたところを、強風に煽られた。体勢こそは崩さなかったものの、ほんの少しとはいえ宙に浮くことになる。
そこを狙われた。
斜め上空より振り下ろされた乾の拳が、芽衣を捉える。
芽衣はとっさに腕で防御し直撃こそは回避するも、鬼の豪腕はその防御ごと打ち抜く。
タヌキ娘の身が地面に薙ぎ倒された。
ドンッ! 衝撃音とともに砂煙が盛大にあがる。
芽衣の小さな体が転々と二度跳ね、宙を舞う。
それをさらに乾が追撃する。ボレーシュートのごとき蹴りにて粉砕しようとする。
だが、その蹴りは空を切った。
猛然と迫る鬼の太い足、これを鉄棒の要領にてくるん、逆上がりしてかわした芽衣が、乾の蹴り出した足を己の足場として跳躍し接敵、顔面に向けて「狸是螺舞流武闘術、突の型、釣り鐘砕き」を放つ。
しかし、不発に終わった。
向かってくる拳に対して、頭突きをすることで間合いを潰された。
そこで芽衣はすかさず次の拳を繰り出そうとするも、その刹那、乾の右目が妖しく光る。浮かび上がった緑炎が揺らめき、瞳術が発動した。
0
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
柳鼓の塩小町 江戸深川のしょうけら退治
月芝
歴史・時代
花のお江戸は本所深川、その隅っこにある柳鼓長屋。
なんでも奥にある柳を蹴飛ばせばポンっと鳴くらしい。
そんな長屋の差配の孫娘お七。
なんの因果か、お七は産まれながらに怪異の類にめっぽう強かった。
徳を積んだお坊さまや、修験者らが加持祈祷をして追い払うようなモノどもを相手にし、
「えいや」と塩を投げるだけで悪霊退散。
ゆえについたあだ名が柳鼓の塩小町。
ひと癖もふた癖もある長屋の住人たちと塩小町が織りなす、ちょっと不思議で愉快なお江戸奇譚。
後宮の記録女官は真実を記す
悠井すみれ
キャラ文芸
【第7回キャラ文大賞参加作品です。お楽しみいただけましたら投票お願いいたします。】
中華後宮を舞台にしたライトな謎解きものです。全16話。
「──嫌、でございます」
男装の女官・碧燿《へきよう》は、皇帝・藍熾《らんし》の命令を即座に断った。
彼女は後宮の記録を司る彤史《とうし》。何ものにも屈さず真実を記すのが務めだというのに、藍熾はこともあろうに彼女に妃の夜伽の記録を偽れと命じたのだ。職務に忠実に真実を求め、かつ権力者を嫌う碧燿。どこまでも傲慢に強引に我が意を通そうとする藍熾。相性最悪のふたりは反発し合うが──
生贄の花嫁~鬼の総領様と身代わり婚~
硝子町玻璃
キャラ文芸
旧題:化け猫姉妹の身代わり婚
多くの人々があやかしの血を引く現代。
猫又族の東條家の長女である霞は、妹の雅とともに平穏な日々を送っていた。
けれどある日、雅に縁談が舞い込む。
お相手は鬼族を統べる鬼灯家の次期当主である鬼灯蓮。
絶対的権力を持つ鬼灯家に逆らうことが出来ず、両親は了承。雅も縁談を受け入れることにしたが……
「私が雅の代わりに鬼灯家に行く。私がお嫁に行くよ!」
妹を守るために自分が鬼灯家に嫁ぐと決心した霞。
しかしそんな彼女を待っていたのは、絶世の美青年だった。
このたび、小さな龍神様のお世話係になりました
一花みえる
キャラ文芸
旧題:泣き虫龍神様
片田舎の古本屋、室生書房には一人の青年と、不思議な尻尾の生えた少年がいる。店主である室生涼太と、好奇心旺盛だが泣き虫な「おみ」の平和でちょっと変わった日常のお話。
☆
泣き虫で食いしん坊な「おみ」は、千年生きる龍神様。だけどまだまだ子供だから、びっくりするとすぐに泣いちゃうのです。
みぇみぇ泣いていると、空には雲が広がって、涙のように雨が降ってきます。
でも大丈夫、すぐにりょーたが来てくれますよ。
大好きなりょーたに抱っこされたら、あっという間に泣き止んで、空も綺麗に晴れていきました!
真っ白龍のぬいぐるみ「しらたき」や、たまに遊びに来る地域猫の「ちびすけ」、近所のおじさん「さかぐち」や、仕立て屋のお姉さん(?)「おださん」など、不思議で優しい人達と楽しい日々を過ごしています。
そんなのんびりほのぼのな日々を、あなたも覗いてみませんか?
☆
本作品はエブリスタにも公開しております。
☆第6回 キャラ文芸大賞で奨励賞をいただきました! 本当にありがとうございます!
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
あやかし狐の身代わり花嫁
シアノ
キャラ文芸
第4回キャラ文芸大賞あやかし賞受賞作。
2024年2月15日書下ろし3巻を刊行しました!
親を亡くしたばかりの小春は、ある日、迷い込んだ黒松の林で美しい狐の嫁入りを目撃する。ところが、人間の小春を見咎めた花嫁が怒りだし、突如破談になってしまった。慌てて逃げ帰った小春だけれど、そこには厄介な親戚と――狐の花婿がいて? 尾崎玄湖と名乗った男は、借金を盾に身売りを迫る親戚から助ける代わりに、三ヶ月だけ小春に玄湖の妻のフリをするよう提案してくるが……!? 妖だらけの不思議な屋敷で、かりそめ夫婦が紡ぎ合う優しくて切ない想いの行方とは――
天界アイドル~ギリシャ神話の美少年達が天界でアイドルになったら~
B-pro@神話創作してます
キャラ文芸
全話挿絵付き!ギリシャ神話モチーフのSFファンタジー・青春ブロマンス(BL要素あり)小説です。
現代から約1万3千年前、古代アトランティス大陸は水没した。
古代アトランティス時代に人類を助けていた宇宙の地球外生命体「神」であるヒュアキントスとアドニスは、1万3千年の時を経て宇宙(天界)の惑星シリウスで目を覚ますが、彼らは神格を失っていた。
そんな彼らが神格を取り戻す条件とは、他の美少年達ガニュメデスとナルキッソスとの4人グループで、天界に地球由来のアイドル文化を誕生させることだったーー⁉
美少年同士の絆や友情、ブロマンス、また男神との同性愛など交えながら、少年達が神として成長してく姿を描いてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる