おじろよんぱく、何者?

月芝

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929 獣王武闘会本戦 準々決勝第三試合 水天一碧

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 三身一体の先制攻撃が不発に終わり、深海の逆襲チームはひとり脱落した。
 これにより三対二となって、俄然、優勢になったかにおもわれたロストブラッドであったが、ここにきて盾持ちの男人魚が本領を発揮する。
 チームメイトの戦斧持ちの援護を受けて、すみやかに盾の回収に成功すると、一転して守りの姿勢を固める。
 次々と繰り出される景親と重衡、蛾舎泰造の猛攻を、一身に受けて、これをさばく。
 固い守りにロストブラッド側が攻めあぐね、お世辞にもうまいとはいえない連携のズレ、空白が生じたところで、動くのは男人魚の戦斧による斬撃である。
 守りは盾持ちが、攻めは戦斧持ちが担当する戦闘スタイル。
 それはまるで一個の存在であるかのように、連動し、互いをバックアップしては、ときに手堅く、ときに果敢に攻め立てる。
 その姿は高く強固な城壁に、砲台を持つ城のごとし。
 どうにかしてこれを攻略しようと攻め寄せる敵勢に、容赦なく砲台が火を吹く。

 いかに蛾舎泰造が手綱を握っているとはいえ、タスマニアタイガーの景親とフォークランドオオカミの重衡は、獣人化の副作用によりじょじょに狂化が進行中、かつ連携なんぞはきちんと訓練したこともない。
 個としての武勇はあっても、集団としてのチカラはまた別物である。
 いかにリーダーが強固であろうとも、それを十全にまとめてより効率よく運営するのは、至難であった。以心伝心とはいかず、どうしても間に言葉や身振り手振りを交えることになり、その分だけタイムラグが生じる。ワンテンポ遅れる。それを察して、先読みして自主的に動くには、いかに卓越した戦闘能力を持とうとも、若いふたりはあまりにも経験不足であった。

 一方の男人魚たちは、逆に数が減ったことでバランスが格段に増した。
 もともと仲が良かったのかもしれないが、戦斧と盾の相性が素晴らしい。
 盾で受けて、斧で攻撃する。
 戦法がシンプルになったことにより、また各々の役割りが鮮明化したことにより、自分の仕事に専念でき、一切の無駄が排除されたことで、目の前の敵に集中できる。
 また全力で振るわれる戦斧の威力が、これにより一段上がった。
 すべてが上手く回っている。
 その回転に巻き込まれ、翻弄されるロストブラッド。

 焦らず、じっくり、じっとり……。
 自分たちのスタイルを崩すことなく、深海の逆襲チームはチャンスが訪れるのを待つ。
 そして、ついにその時がきた!
 術中にはまって、捕まったのは、ついムキになるあまり、ひとり突出してしまった景親であった。
 獣人化しているタスマニアタイガーの景親が、猛り吠え、突進からの手刀にて固い守りをこじ開けようとしたところを、スイと盾が受け流した。
 受け流した方向は足下へと向けて……、これにより景親はやや前のめり気味につんのめることになる。
 だが、獣人化しているがゆえに肉体が強化されていることで、ぎりぎりで踏ん張り、すぐさま体勢を建て直そうとした。
 が、そこへ振り下ろされたのが戦斧である。
 横合いから、まるで首を落とすかのようにして落ちてきた戦斧の刃。
 骨が砕けようが、肉がひしゃげような、手足がもげようが、すぐに元に戻る超回復力と再生力を誇る人造再生動物たち。
 はたして、首を落とされても、復活できるのであろうか?
 少なくとも血を流しすぎれば、再生力がぐんと落ちて、活動限界を迎えることは、先のタッグ戦にて女人魚たちが、身を呈して証明している。
 よしんば、復活するとしよう。
 けれども、だからとてそれを平然と受け入れられるかは、別の問題である。
 肉体は平気でも、心はそうはいかない。
 生き物である以上は、生存本能がある。
 危機的状況となったとき、当人の意識とは関係なしに、カラダは動く。
 とっさにカラダが硬直し、首をすくめて守る動作をとる。
 それを制御し、いかに抑えるのかもまた、武術の課題のひとつなのだが、あいにくとロストブラッドの若者たちは、そんな鍛錬を積んでいない。
 東日本の予選会を制したのは、あくまでその身に宿る特異性の賜物である。
 素養はある。武器もある。だが、ここは本戦の場、それも準々決勝だ。驕った者や怠惰な者なんぞはひとりもいやしない。
 そして、勢いだけの未熟な若者を見逃してくれる甘い者もいなかった。

 ズンっ!

 振り下ろされた戦斧の一撃。
 景親の首は繋がったまま。
 だがしかし、その身は地面に縫い留められたような格好で這いつくばっている。首根っこを戦斧の刃と柄の接合部によって、抑えられて、身動きがとれない。
 無防備に晒されることになった背中。そこに盾持ちの奥義が炸裂する。

「真海流溟渤盾式(まかいりゅうめいぼつたてしき)、水天一碧!」

 水天一碧(すいてんいっぺき)……。
 それは、朝凪(あさなぎ)の時間帯によく見られる美しい光景のこと。空と海の境目が分からないほど、見渡す限りの青。風が止み、波が穏やか、海と空がひと続きになり、世界のすべてが青々としている様子のことをあらわす言葉である。
 その言葉をつけられた奥義、しかし意味とは裏腹に、放たれた衝撃は凄まじいものであった。

 叩きつけるかのようにして落ちてきた盾による、プレス攻撃。
 ともなうのは天が落ちてきたのかと錯覚するほどの重みをともなった圧力。刹那、技を受けた者の世界がひしゃげ、ぎゅっと押しつぶされた。そしてずんと下がったのは地面である。
 事実、盾を中心にして半径五メートルほどの地面がへこんでいた。
 ただし、クレーターのように抉れるのではなくて、真っ直ぐにハンコでも押したかのように。
 まるで生きながらにプレス機にかけられたかのような状況。
 全身に均等な強圧力を受けて、景親は声にならない悲鳴をあげた。


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