おじろよんぱく、何者?

月芝

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926 獣王武闘会本戦 準々決勝第三試合 血煙

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 そのまま色香でたぶらかしていれば、楽に勝てたものを……。
 セクシー美女な人魚のお姉さまたちが、いらぬことを言った。

「ふふふ、もしも私たちに勝てたら、いいことをしてあ・げ・る」

 そのひと言で若者たちに火がついた。
 ギラリと目の色を変えた好古と為朝が、そろって獣人化して、野生の本性を目覚めさせ、ガルルルルル。
 唸る獣人たちが、女人魚たちへと駆け寄る。
 人造獣人たちによるチカラまかせの怒涛の攻撃。
 これを受けて女人魚たちも、たちまち魅惑のマーメイドから戦士の顔となった。

「真海流風波剣式(まかいりゅうかぜなみけんしき)、紅尾!」

 剣を手にした人魚族の女が華麗に舞い踊る。剣が疾駆した軌跡の残光が、まるで夜のハイウェイを疾走するクルマのテールライトのように赤い尾を描き、周囲のすべてを切り刻む。

「真海流鱗式(まかいりゅうりんしき)、鱗群渦!」

 言うなり鞭がばらけて大量の鱗の山となる。人魚族の女の指の動きに合わせて、その鱗たちがふわりと宙に浮き、まるで魚群のように動き、一斉に相手へと襲いかかった。

 ギィン! ギャン! キンッ! ガッ! ザシュ!

 獣人の爪と人魚の武具がぶつかる音が鳴る。
 血煙があがる。激しい応酬となった。
 両チームともに初手から大技を放ち、試合はいきなりクライマックスの様相を呈する。
 そんな戦いであったが、じりじりと追い詰められていたのは、深海の逆襲チームのほうであった。
 原因はロストブラッド側の持つ、不死に近い異状な耐性と超回復である。
 斬る、突く、攻撃との相性の問題だ。
 どれだけ切り刻んだどころで、瞬時に回復する獣人たち。
 なまじ攻撃が鋭く切れ味が優れているがゆえに、断面がきれいすぎて、それが回復の一助となってしまう。
 人造獣人にぶつけるべき攻撃は、面、あるいは破砕をともなうもの。
 女人魚たちには、それが無い。

 ついに片手剣を持つ女人魚がエゾオオカミの為朝に捕まった。
 獲物を前にして獣性が牙を剥く。
 もとより獣人化しているせいで、半ば理性が飛んでいる為朝に加減なんぞという配慮はない。
 このままでは仲間が殺られる!
 パートナーの女人魚が救うべく駆け寄ろうとするも、それをさせじとニホンオオカミの好古が邪魔をする。
 結果として、四人が団子となった。
 距離をほぼほぼ潰された状況は、深海の逆襲チームにとっては死地にも等しい。
 いずれはごり押しされる。

「「ならば!」」と彼女たちが選択したのは……。

 タイミングを見計らって片手剣が地面に突き立てられる。
 その切っ先がずぶりと刺さり、捉えていたのは好古と為朝の重なった足の甲であった。
 これにより一時的に縫い留められる格好となった獣人たち。ぶちぶちと傷口が広がるのもおかまいなしに、すぐに強引に拘束を解こうとするも、そこへ間髪容れずに放たれたのは、「 真海流鱗式(まかいりゅうりんしき)、鱗群渦」であった。
 一枚一枚が鋭利な刃物のごとき大量の鱗たちが、魚群のように飛び交い、渦となり、四人を呑み込む。

 ギュルギュルと回る鱗たち。
 その渦が止んで、すべての鱗たちがチカラを失い、ぽとぽとと落ちたのは、技が発動されてから三分ほども経ってからのことであった。
 あらわとなったのは、倒れ伏している女人魚たちと、立ち姿の獣人らであった。
 これにより試合はロストブラッドの勝利かとおもわれたのだが、直後にエゾオオカミの為朝がガクリと両膝をつき、その身が傾いだ。ひょうしに隣にいたニホンオオカミの好古をも巻き込み、ふたりともに倒れてしまう。
 そんなふたりの顔色はすっかり血の気を失って真っ青になっていた。
 超回復の上に胡坐をかいて、あまりにも多くの血を流しすぎたのだ。
 そしてこれこそが女人魚たちの狙いであった。


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