おじろよんぱく、何者?

月芝

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905 獣王武闘会本戦 準々決勝第一試合 次鋒戦

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 天から襲いかかる細川巴の薙刀。
 地にてこれを迎え討つ鞍馬山三千代の剣。
 乱打戦となり、やがて天地が交わりひとつとなった。
 両者接近、こうなると長柄の薙刀の方が分が悪い。一方で変幻自在にうなる剣。
 だがそれでも拮抗が崩れなかったのは、ここにきて細川巴が体術を織り交ぜてきたから。山吹倶利伽羅流はもともとそういう流派にて、足癖が悪いのがとみに有名。斬撃の合間に蹴撃が放たれ、相手を寄せ付けない。
 だがそんな蹴りすらも、わずかな動作にて見切る鞍馬山三千代。
 そして決着の刻は唐突に訪れる。

 ガンッ!

 刀による切り上げ。
 これにより腕ごと持ち上げられた細川巴の薙刀。
 ほんの一瞬、がら空きになった胴。
 刹那、鞍馬山三千代の身が消えて銀閃がほとばしる。
 そしてついいましがたまで向かい合っていた両者の立ち位置が逆となり、互いに背を向ける格好となった。

 チンッ、と鳴ったのは刀を鞘に戻す音。

 それと同時に両膝をついたのは細川巴。
 鞍馬山三千代による胴薙ぎの一閃により、勝負あり。

  ◇

 先鋒戦を制したのはチーム天狗道。
 続く次鋒戦、姫路アニマルキングダム選抜からは、マンドリルの三雲鉄斎(みくもてっさい)。天狗道からは、白峰胡法(しらみねこほう)。
 ともに徒手空拳にて、三雲鉄斎は背はあまり高くなく、ずんぐりむっくり。ただし体はまるでごつごつした岩を集めたかのよう。作家業が忙しい友人の百地繁太郎(ももちしげたろう)に代わっての出場。かなりの高齢なのだが、まるで歳を感じさせない迫力がある。なお彼の近衛師団の位階は十六にて、湖南睡鳥拳(こなんすいちょうけん)の達人である。

 対する白峰胡法は、巨漢にて、鼻っ頭が高く居丈高、じつに天狗らしい天狗である。神奈川県一帯を支配する大天狗・白峰相模坊(しらみねさがみぼう)に帰依しており、こちらも岩を集めたかのようなごつさ。

 無言のまま向かい合う両雄。
 試合開始の合図とともに、ずんずん近づき、いきなり激しい殴り合いを始めた。
 ガン、ガン、ガガン!
 一発張られたら、二発! 二発やられたら倍の四発!
 といった具合に、やられたらやり返す。左の頬を打たれたら右の頬も差し出せ、おまけにボディをくれてやる。なんの、ならばレバーを打ち抜いてやる。
 回避行動はなし。拳と拳にて打ち合うか、打ち払うかのみ。
 けれども攻撃の回転数が速いのは三雲鉄斎の方。ずんぐりむっくりのカラダゆえに、腕の出戻りが速い。
 そしてこの回転率の高さこそが、湖南睡鳥拳の持ち味。
 湖南睡鳥拳はまるで水面に浮かぶ水鳥のように優雅に華麗に……ではなくて、水面下でじたばたしている方の動き。荒々しく激しい。そして必死だ。それは泳ぎの下手くそな小学生がビーチ板にしがみつきながら、必死にバタ足をするかのごとく、ばしゃばしゃと。

 対する白峰胡法も豪快に両腕を振り続けるものの、若干、やりにくそう。
 というのは両者の身長差。ちょうど頭みっつ分ほど白峰胡法の方が大きい。
 似たような体躯ならば、大きい方がチカラも強くリーチも長くて有利そうであるが、こうも密着状態になると逆にちとやりにくい。
 だからとて自分から身を引いて距離をとるなんて無様な真似はできない。なぜなら天狗はとってもえらいからだ。毛玉風情に押されて下がったとあっては天狗の沽券にかかわる。また尊敬する白峰相模坊様に恥ずかしくて顔向けできぬ。
 そんな天狗のプライドをも計算に入れた、三雲鉄斎のしたたかな作戦に気がつかない白峰胡法は、そのまま殴り合いを続ける。

  ◇

 生き物にはすべからく天敵という相手がいる。
 もしくは苦手とするものがある。
 が、こと天狗に限ってはそれがない。いや、ひょっとしたらあるのかもしれないが、いまのところはわかっていない。
 一見するとぽきりと折れそうな長い鼻あたりが弱点では? と考えがちだが、そんな弱点を人前でぷらぷらさらすわけもなく……。
 まぁ、まず折れない。そもそも天狗を天狗たらしめているシンボルゆえに、まず気軽に触れないし、ウワサでは金剛石以上の強度とも云われている。
 なにせかつて黒鬼の角をへし折った先代蒼雷の葵ですらもが、天狗の鼻そのものは折れなかった。べきべきにへし折れたのは連中の鼻っ柱だけだ。
 地方によれば「天狗はサバが苦手」とか「天狗は泳ぎがだめ」という話も伝わっているが、さすがにこれを弱点とするのはこじつけが過ぎるというもの。

 ではいかにして天狗を攻略すべきか。
 考えた末に三雲鉄斎が導き出した答えが、被弾覚悟の消耗戦。
 天狗はたしかに強い。いろんな術にてそれこそ天変地異をも起こす。けれども鬼族ほどタフという話はとんと聞いたことがない。
 強いことは強いのだろう。さりとて超回復は持たぬと判断した。
 加えて現時点で唯一ともいえる弱点である、そのプライドの高さを利用する。
 それゆえの正面切っての殴り合い。
 あえて奥義は使わない。そうすることで相手も使えない。先に手札を切れば追い詰められたと認めることになるからだ。
 心理的に敵の術を封じ、行動に枷をつけ、原始的な戦いを続けることで、泥試合に持ち込む。
 こうなると殴られた経験が多い方と、あまり殴られ慣れていない方と。
 果たしてどちらに軍配があがるやら。


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