おじろよんぱく、何者?

月芝

文字の大きさ
上 下
904 / 1,029

904 獣王武闘会本戦 準々決勝第一試合 続・先鋒戦

しおりを挟む
 
 試合開始とともに、闘技場中央にて黒い疾風が起こった。
 一閃したのは黒刃。
 細川巴の薙刀である。ただし柄の端っこ、石突のところから鎖がじゃらりと伸びていた。
 伸びた鎖の分だけ間合いが届く。

「山吹倶利伽羅流、椿」

 ポトリと散るさまが、まるで首を落とされるようだと武士たちから厭われた花。
 その花にちなんだ技はまさしく一刀の下、相手の首を刈るもの。

 山吹倶利伽羅流(やまぶきくりからりゅう)。
 薙刀に体術が組み合わさった流派。動きは意外にアグレッシブ。とにかく足癖が悪い。可憐な花の名前にちなんだ技はどれも殺傷能力充分。そもそもの話、この流派には峰打ちなどという概念がない。数多の古戦場を経て磨かれてきた武は殺人剣の流れを汲む。

 刀と薙刀の勝負となった先鋒戦。
 いきなり仕掛ける細川巴。
 が、次々と繰り出される幅広かつ肉厚な薙刀の刃を一歩も動くことなく、受け、はじき、かわし、流していなし、平然としていたのは鞍馬山三千代。しかもいまだに刀は鞘の中!
 薙刀が首や胴を薙ぎにきたところを、鞍馬山三千代は柄頭や鞘の先にてちょんと平刃を小突くことで軌道をそらしていたのである。
 とんでもない見切り!
 かの二刀流の剣豪は額につけた米粒のみを切らせるという、一寸の見切りを会得していたというが、それを遥かに上回っている。

 キィン! ギャン! チンッ! ジャッ! ガッ!

 鋭い衝突音が続く。
 けれどもよくよく見てみたら両者の間合いがじりじり狭まっていた。
 鞍馬山三千代が薙刀の猛攻下にあって、少しずつ前進していたのである。
 そして両者の距離が三メートルほどにまで近づいたところで、おもむろに閃いたのは鞍馬山三千代の剣。身を低くしてゆっくりと刀を抜いたように見えたが、放たれた剣は神速。
 届かぬはずの距離だというのに、鞍馬山三千代の放った切っ先が細川巴の腹を裂かんとする。

 ひらり――。

 宙を舞ったのは細川巴。まるで棒高跳びの背面跳びのように斬撃をかわす。
 だがそこへさらなる鞍馬山三千代の追撃。翻った切っ先が逃げたナキハクチョウを猛追。これを打ち落とさんとする。
 しかし繰り出された刃はふたたび空を切る。

 はらり――。

 それは風を受けた軽やかな羽毛のような動きであった。
 逃げ場のない中空にて、さらにもう一段上へと舞い上がった細川巴。それを可能にしていたのは自身の得物。長柄の薙刀を杖代わりにしての跳躍。

 ならばと鞍馬山三千代が放ったのは刺突。
 空中にいる相手を串刺しにせんと狙う。
 それに前後して、手にした鎖を引き、突き立っていた薙刀を手元に戻した細川巴。
 期せずして天と地で対峙することになった両者。

「山吹倶利伽羅流、梅」

 心の胸をひと突き、胸元にて赤い梅の花のような傷が残る突き技。
 突きと突き、両者の刃の切っ先がぶつかった。
 刹那、咲いたのは火花。
 もともとの武器の重量、刃の大きさ、天から地へと向かう勢い、すべてにおいて上にいる細川巴が優勢であったはず。なのに押しきれない。ばかりか押し返された!
 この状態で打ち負けたことに驚きつつも、その時に生じた衝撃を利用して、いま一度、空へと舞い上がったナキハクチョウ。その表情には若干ながらも焦りの色が見え隠れ。理由はことここに至っても、相手が奥義らしい奥義をひとつも披露していないから。

 そんな細川巴の心情を察したのか、鞍馬山三千代がくすりと笑みにて言った。

「出し惜しみなんてしていませんよ。そもそも鞍馬流には奥義などというものが存在しないのですから」

 かの源義経も学んだという鞍馬流剣術には、派手な必殺技は皆無。
 ただ剣を剣として扱う。あるのは基本的な動作のみ。だがそれゆえにすべてが洗練され、高められている。裏を返せばすべての所作が必殺にて、すべての刃が奥義と同等の威力を持つということ。
 敵を屠るのに大袈裟な技なんぞは必要ない。急所をちょんと突くか払えばそれで済む。
 加えて現状では大地をも味方につけており、存分に踏ん張れる。
 すべてを剣の切っ先の一点に集中できる。
 それが薙刀の刃がたやすくはじかれた理由であった。

 宙にて身を翻した細川巴、両手にてしっかり薙刀を持ちなおし、これを振り下ろす。

「山吹倶利伽羅流、曼殊沙華」

 疾風怒涛の連続斬り。パッと彼岸花が咲いたように血が舞――わない?
 迎え討った鞍馬山三千代の剣嵐が吹き荒れ、迫りくる薙刀の刃、そのことごとくを正面から受け止め、次々と撃破していく!
 入り乱れる刃、凄まじい応酬に剣戟が鳴りやまない。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

柳鼓の塩小町 江戸深川のしょうけら退治

月芝
歴史・時代
花のお江戸は本所深川、その隅っこにある柳鼓長屋。 なんでも奥にある柳を蹴飛ばせばポンっと鳴くらしい。 そんな長屋の差配の孫娘お七。 なんの因果か、お七は産まれながらに怪異の類にめっぽう強かった。 徳を積んだお坊さまや、修験者らが加持祈祷をして追い払うようなモノどもを相手にし、 「えいや」と塩を投げるだけで悪霊退散。 ゆえについたあだ名が柳鼓の塩小町。 ひと癖もふた癖もある長屋の住人たちと塩小町が織りなす、ちょっと不思議で愉快なお江戸奇譚。

JOLENEジョリーン・鬼屋は人を許さない 『こわい』です。気を緩めると巻き込まれます。

尾駮アスマ(オブチアスマ おぶちあすま)
ホラー
ホラー・ミステリー+ファンタジー作品です。残酷描写ありです。苦手な方は御注意ください。 完全フィクション作品です。 実在する個人・団体等とは一切関係ありません。 あらすじ 趣味で怪談を集めていた主人公は、ある取材で怪しい物件での出来事を知る。 そして、その建物について探り始める。 あぁそうさ下らねぇ文章で何が小説だ的なダラダラした展開が 要所要所の事件の連続で主人公は性格が変わって行くわ だんだーん強くうぅううー・・・大変なことになりすすぅーあうあうっうー めちゃくちゃなラストに向かって、是非よんでくだせぇ・・・・え、あうあう 読みやすいように、わざと行間を開けて執筆しています。 もしよければお気に入り登録・イイネ・感想など、よろしくお願いいたします。 大変励みになります。 ありがとうございます。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】エロ運動会

雑煮
恋愛
エロ競技を行う高校の話。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...