おじろよんぱく、何者?

月芝

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900 獣王武闘会本戦 幕間 地下施設

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 熱戦に次ぐ熱戦、これに闘技場内はもとより外のパブリックビューイング会場も盛況! せのうみドーム全体が大盛り上がりのうちに、一回戦全八試合を消化し初日を終えた獣王武闘会本戦。
 大会二日目、準々決勝の組み合わせは以下の通り。
 第一試合、姫路アニマルキングダム選抜VS天狗道。
 第二試合、獣空手VS新生パンドラ。
 第三試合、ロストブラッドVS深海の逆襲。
 第四試合、五鬼VS尾白探偵事務所。
 どの試合も激闘必至にて目が離せない。

 しかしそんな華やかな舞台の裏では、密かに闇の攻防が繰り広げられていた。このことを知るのはほんのわずかな者ばかり。
 動物界、鬼界、天狗界、人間界、この地に集ったさまざまな種族の手の者らが探っていたのは、聚楽第およびこの地の秘密について。
 動物至上主義を掲げる聚楽第。そんな連中が巨額の投資をしてまでこんなイベントを主導する真の目的とはいったい?
 煌めくメトロポリスの下で各組織のスパイどもが蠢く。みな陰に生き陰に死す者ら。陽の光の下を歩けぬ手練れ揃い。
 まさに裏武闘会とも言えるそんな渦中にあって、ひときわ活発な動きをしていたのが黒羽と白羽の両陣営。
 黒羽は忍びの誇りと本分を忘れて、技と欲に溺れ堕落した者らの総称。聚楽第の傘下にあるムササビ忍軍・羽茶組(はさぐみ)やオコジョくのいちのかげりなどが筆頭格である。
 白羽とはそんな黒羽連中をとっちめるのを任務としている忍びたちのこと。現在、この地に潜入している組を率いているのは、燐火(りんか)というくのいち。ちなみに彼女はかげりとは同門にて姉弟子、そしてその正体はオコジョである。

 ホテルの廊下や室内、非常階段や屋上、地下駐車場、あるいは町中のビルとビルの間、公園の繁みの奥、トラックの車体脇、路地裏、大通り、店の中、ときには周囲に大勢の目がある中で誰にも悟られることもなく……。
 顔を合わせたら即ファイトみたいな展開にて、黒羽と白羽が熾烈に戦い続けている。その姿はまるで互いの羽をぶちぶちむしりあっているかのよう。
 だがそうやって黒羽を狩る一方で白羽陣営が進めていたのが、聚楽第の総帥ウルの居所の特定と、ここせのうみドームの地下にある施設の調査。中でも特にチカラを入れていたのが、闘技場の真下に位置する区画。しかし守りが厳重にて、ムササビ忍軍のみならず量産型アニマルロボ甲(かぶと)が大量に投入されており、なかなかむずかしい。

 けれどもそんな厳重なセキュリティを突破して、ついに白羽のひとりが潜入を果たした。
 彼女が闘技場の地下深くで目にしたのは、建築現場で見かけるボーリング調査のような光景。穴を掘って地盤状況や地層境界の深度などを調べるアレだ。
 ただし規模が桁ちがい! 使用されている鋼管杭だけでも直径十メートルは優にあろうか。そんなとんでもないシロモノがごぉうんごぉうんと唸り、地下深くへとゆっくり回転しながら突き進んでいる。
 鋼菅杭の周囲の壁にはまるで毛細血管のようにパイプが張り巡らされており、ときおりどくんと脈打っては、中を何かが流れて地下へと吸い込まれていく。

「なんなのよこれ? 地球の裏側までトンネルでも掘るつもりなのかしら」

 呆気にとられおもわずつぶやいたのは白羽の潜入者。
 すると直後のことであった。

「知りたいか? これが何なのか……」

 背後からの声。
 はっとした白羽の潜入者はふり返りざま、腰の小太刀を抜いて刃を走らせる。一瞬の躊躇もなく首を刈りにいく。まったく気配を感じなかった。忍びの勘が激しく警鐘を鳴らし、その声にカラダが反応する。
 だがそんな必殺の刃はあっさり止められてしまった。
 それも片手、人差し指と親指にて摘まむかのようにして!
 とめた相手は――よくわからない?
 姿形がぼやけてにじんでおり、至近距離にもかかわらず判別不能。
 目を見開く白羽の潜入者。びくともしない小太刀を手放すなり、放ったのは煙玉。
 ぼふんと白煙が広がり、たちまち一帯を埋め尽くす。
 視界が消える刹那、棒手裏剣を得体の知れない相手に投げつけ、逃亡をはかる白羽の潜入者。
 だがしかし……。

「ぐっ」

 白煙の中、苦悶の声がして倒れたのは白羽の潜入者。
 これを見下ろし「いい動きだ。思い切りもいい。さすがはここまで潜入しただけのことはある」と感心したのは得体の知れない者。倒れた白羽の潜入者の首根っこを掴み、引きずっていく。

  ◇

「博士、ネズミがまぎれ込んでいたぞ」
「おや? もうここまで入り込まれましたか。なかなかやりますねえ」

 博士と呼ばれた女性は聚楽第の研究部門を統括する暮来真理(くれこまり)。
 そして話しかけていたのは聚楽第の総帥ウルである。

「計画は順調か」
「はい、いまのところ問題はありません。綾ちゃん先生効果さまさまですねえ。彼女がこの地にいるだけで、毛玉どもの興奮指数がぐんぐん急上昇! おかげで化けチカラが溜ま溜まる。この調子ならば予定を少し前倒しにしてもいいかも」
「そうか……、まぁ、その辺りのことは任せる。好きにやってかまわない」
「了解しました」

 動物が人や物に化ける時に必要とされるのが、化けチカラ。
 動物はこれを体内で練り上げ昇華することで変化をしている。
 そして他の種族も似たようなもの。動物にとっては昔から馴染みのあるエネルギーだが、現代文明を牽引する人間社会にとっては未知のモノ。それを大量に集めて聚楽第はいったい何を目論んでいるのか?


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