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845 サプライズパーティー
しおりを挟む我ら共通の遊び相手にしてオモチャ……もとい、尾白探偵が何やら大切な戦いの場へと赴くらしい。
ならばここはひとつ、日頃のご愛顧と感謝を込めて盛大に送り出してやろうではないか!
というわけでレッツ、サプライズパーティー!
椅子に縛られ、壇上にてさらし者にされたまま、そんな話を聞かされたおれは当然ながらプンプン抗議の声をあげた。
「だったらふつうに誘えよ!」
すると大袈裟に肩をすくめてみせた怪盗ワンヒールが「そうしたかったのだけど、尾白探偵は照れ屋さんだから、招待状をだしても素直に応じてくれなかっただろう」と言った。
くっ、その通りである。きっと封も切らずにゴミ箱に突っ込んでいただろう。
でもなんだか納得いかねえ。
「にしても、そのためにわざわざ姉ちゃんたちを雇ったのかよ? いや、まてよ。ひょっとしてあの姉ちゃんたち、おまえのファンクラブの会員か?」
業腹なことに怪盗ワンヒールにはファンクラブが存在しており、女性ファンがわんさか。少し前には大きくなり過ぎたクラブ内にて派閥紛争が勃発し、おれまで巻き込まれて散々な目にあったものである。
だからそう推察したのだが、怪盗ワンヒールはこれには首を横にふる。
「いや、あの子たちはピンポンレンジャーの関係者だよ」
ピンポンレンジャーは、ピンポンダッシュに命を駆ける五人組の変態。
レッドは身体能力に非常に秀でており、限定的とはいえうちのタヌキ娘をも出し抜く超人ぶりを発揮した猛者。天地無用にてパルクールの選手のように軽快に動く。
ブルーは風を読むことに長け、ハングライダーを自在に操っては街中を滑空する。風乗りが得意な彼は、波乗りもイケる口にて、ついでにスノーボードやらスケートボードなどもお手の物。
グリーンは火薬の扱いに長けており、オリジナル花火を巧みに使いこなしては、場を支配する。煙玉やら臭い玉に閃光玉まで自作する。その気になればそれ以上の危険物も制作可能にて、なにげにチームメンバーの中で一番性質が悪いかもしれない。
イエローは忍者ばりに隠れ身の術を駆使しては気配を消し、こそこそ暗躍する。びっくりするぐらい影が薄く、存在感がない。同窓会に参加したらみんなから「誰?」って顔をされたエピソードは、あまりにも悲し過ぎる。
胸が立派な愛戦士ピンクはBMXにまたがっては颯爽と戦場を駆け、いかなる悪路をもものともせずに突き進む。
かつて屯田団地にて行われた、ピンポンレンジャー対尾白探偵事務所の五番勝負。
三勝二敗にて辛勝したピンポンレンジャーは、勝利の勢いのままに全国遠征へとくり出した。その旅の空の下でレッドとピンクがくっついたり、各地で楽しくイベント交流をする様は、ときおり送られてくる葉書でおれも知っていた。
そんなピンポンレンジャーだが、萩野グループが資本提供して建造されたマンモス級の複合型商業施設、畿内最大級にして全国でも屈指の巨大さを誇り、端から端まで歩くと一キロ近くにもおよぶ「七宝院グランモール」のこけら落としイベントに招聘されて、堂々と凱旋を果たす。
でもって、そんなピンポンレンジャーが増えているのは、その全国遠征のせい。
信じられないことに、各地を巡るうちに支持者が増えたピンポンレンジャー。熱心な者は追っかけとなって、くっついていくほど。
はじめはただのファンの集いみたいであったのだが、あるときレッドが言った。
「いつも見ているだけじゃあつまらないだろう? どうせならいっしょにやろうぜ!」
かくして生まれたのがピンポンレンジャーの派生チームの数々。
まぁ、あれといっしょだな。某巨大アイドルグループみたいなもの。
いまでは各々がローカル色で個性を演出しつつ地元で活動し、ときおり集まっては交流試合や大会を開いたりしているらしい。
ピンポンダッシュがいつのまにやらスポーツ化しつつある。
奇妙な流れにおれはあんぐり。
そこへ挨拶にきたのはピンポンレッドとピンポンピンク。
やや腰回りが太ったような気がするレッド。たぶん幸せ太りというやつだな。
人妻となりますますお色気がムンムンしているピンク。そんなピンクの腕の中には黄金マスクをかぶせられた赤ん坊の姿があった。
どうやら増えたのは同好の士だけではなかったようだ。
「ひょっとしてその子どもは……」
「ええ、私とこの人の子どもよ」
「ほんの少し前に自分で寝返りを打てるようになったんだ。この子はきっといいピンポンレンジャーになるぞ」
幸せオーラ全開のふたり、ついでに親バカも全開のレッド。
その気に当てられて、おれはちょっと心にダメージを負った。
うぅ、独身者に彼らは眩しすぎる。あと子どもの意志はちゃんと尊重してやれ。親のエゴを押しつけるのはよくないぞ。
レッド一家と入れちがいに顔を出したのは怪人インソールダブルエックス。
いちおう壮行会なので、主だった者らがこうやって主賓であるおれのところへ順番に挨拶にくるそうな。
おっふ、おれはすでにお腹いっぱいなんですけど……。
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