おじろよんぱく、何者?

月芝

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838 高月という地

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 格上の相手には首を垂れて腹をみせ恭順の意を示し、えらい人には全力で媚びへつらう。
 それはある意味、動物としての生存本能であろう。
 えっ、誇りはどうした? あんまりにも卑屈じゃないか、だと。
 ふん、それがどうした。そんなご大層なものはケツを拭いた紙といっしょに、トイレにでも流してしまえ。
 いいか、よく覚えておけ。
 強い者が生き残るのではない。
 生き残った者こそが強いのだ。
 勝てば官軍、歴史は勝者が作る。
 それが野生の不文律。

 でもって、古墳の主であろう武内宿禰という御方なのだが……。
 たぶんめちゃくちゃヤバい。その辺をふらついている幽霊とは完全に別物。ひょいと指先ひとつで大岩を動かすチカラについては言わずもがな。なんていうか、こう、存在感やらオーラが半端ない。
 きっと神格化しちゃっている。
 もっともおれは貧乏神以外の神さまとはとんと縁がないもので、実際には会ったことがないから、あくまでこれは個人的な感想にすぎないのだけれども。
 あえて知っている中から似ているものをあげるとすれば、鬼族に稲荷や天狗らの高位の者らがわりと近しいか。

 もとより恥も外聞もさほど持ち合わせていない探偵と助手、もとい珍獣とタヌキ娘の組み合わせは、そろって「「ははぁー」」と平身低頭。
 揉み手にて清々しいまでの媚びっぷりに、武内宿禰はちょっと苦笑い。
 おれたちは問われるままに、いまの世について語り、しばし歓談に応じる。
 とはいえ、ここに居てても外の世界のことはある程度わかるらしく、思いのほかに通じている。だからこちらが教えるのは、補足説明みたいな内容となりがちとなる。
 そしてほどよく場が温まり、互いの関係がほぐれてきたところで、おれは意を決してこちらから声をかけた。

「ところで、どうして武内さまのような身分の御方が、高月なんぞにいらっしゃるのでしょうか?」

 中央での権力闘争に破れたのか、はたまた一族の内紛にでも巻き込まれたのか。
 なにせここは菅原道真公を祀っている天満宮の一画だ。優秀すぎるがゆえに道真公も宮中のやっかみを受けて、都より遥か遠い九州は大宰府へと追いやられた身。類は友を呼ぶではないけれども、ひょっとしたら似たような境遇なのではと、おれは推察したのだが……。

「あー、まぁ、たしかにいろいろあったがなぁ。まったく、長生きなんぞはするもんじゃないな。おかげで余計なことを知り、厭なものをたくさん見ることになるし。
 とはいえ、そんなことは些末なことだ。それよりも、どうしてこの地にいるのかであったな?
 それはな、ここが高月であるからだ」

 その「いろいろ」のところがとても気になるんですけどっ!
 あと「ここが高月だから」という答えの意味もチンプンカンプン!
 言葉の真意がわからず、おれと芽衣はきょとん。
 するとそんなおれたちのマヌケ面がよほど面白かったのか、武内宿禰は「くくく」と肩を揺らしつつ言った。

「おまえたちもこの地に住んでいて、いろいろと奇妙に感じていたことがあったのではないのか?」

 あらためて言われてみれば、たしかにその通り。
 まず変態がやたらと多い。
 あー、これは動物がヒトに化けたのが多数住みついているという意味でね。

 でもって次に、変態が多い。
 こちらは怪盗ワンヒールやら怪人インソールダブルエックス、ピンポンレンジャーやその他もろもろの、奇人変人らのことね。

 あとは西国から都への玄関口、地理的にみても重要な場所にもかかわらず、そのわりには素通りされがちなこと。テレビ番組とかで各駅周辺の魅力を伝えるみたいな企画でも、だいたいとばされちゃうぐらいに、スルーされる。よしんば取り上げられたとしても、ほんのちょびっと、お義理程度のみ。

 九州は大宰府天満宮の次に古い歴史を持つのにもかかわらず、世間的にはほとんど知られていない高月の上宮天満宮。そりゃあ、京都や九州のに比べたらゴマ粒みたいなものだけれども、もうちょっと敬われてもよくない?

 日ノ本でも指折りの古墳群地帯にて、市内には五百ヶ所ほども点在していること。
 やたらと寺社仏閣が乱立していること。
 ちょいちょい心霊スポットがあったりもすること。なおそっち系の某雑誌にて「危ない、ここには絶対にいくな!」と太鼓判を押されたトンネルとかも、じつは市内にあったりする。
 というかうちの探偵事務所の入っている雑居ビルの土地も、かなり怪しい。

 駅を挟んで北と南にてツノを突き合わせている兎梅デパートと亀松百貨店。あれはマジで意味がわからん。狭い土地なのに商圏かぶりまくりだろう。

 深海の覇者である人魚帝国の橋頭保である前線基地っぽい巨大物流拠点「不夜城」は、ただただ圧巻。

 UFOの目撃情報が多数あるポンポコ山。
 正体不明のパティシエールがいるケーキショップ「幸蔵」や、美魔女マリーが営む鏡だらけの怪しいお店などなど。

 なにげに怪異案件が多いし、踊る阿呆に見る阿呆とばかりに、ちょいちょい乱痴気騒ぎが起きたりもする。
 他にもあれやこれや。

 ふむ。あらためて指折り数えてみるとなかなかにひどいな。とんだ魔境じゃないか!
 我が街のことながら、おれが心底呆れていると武内宿禰がにやり。
 その意味深な笑みにおれは、はっ。

「えっ、まさか……ひょっとして、たまたまじゃなかったのかよ!」


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