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833 高月上宮天満宮
しおりを挟むヒョウ柄が生息するコンクリートジャングルの大坂と、歴史と伝統に彩られ魑魅魍魎どもが跋扈する京都。
その狭間に位置しているのが高月という土地。
西国から都入りをするのに通る必要があったもので、古来より人や荷や毛玉の往来は多かった。では、栄えていたかといえばさにあらず。
なにせもう少しがんばれば都、もしくは堺の港などに到達できるんだもの。ならばさっさと行く方がいい。微妙な距離が災いして、たいていの者らがこの地を素通りする。
取り立てて名物もなければ名所もない。いちいち足を止めて立ち寄る必要がないのだ。
そんな高月ではあるが、じつは古墳の類がめちゃくちゃ多かったりする。
日ノ本でも指折りの古墳群地帯にて、市内には五百ヶ所ほど!
古墳、遺跡といったモニュメントが随所にあるのだ。
市の公式マスコットキャラも埴輪っぽいし、駅前にも埴輪のレプリカが飾られているし。
もっとも国営放送の某番組のマスコットキャラとくりそつにて、いまだに「パクリ!」と後ろ指を差されては、物議を醸しているキャラだけれども。
まぁ、それはさておき。
そのわりに高月が世間的に知名度がいまいちなのは、教科書に掲載されるようなビッグネームな古墳がないから。とどのつまり数は多いけど、重要度はさほどでもないということ。
だから発見されても、おざなりの調査だけで済ませて、あとは埋められちゃうケースがほとんど。
現存しているのは草ぼうぼうの小山みたいなのばかりだから、とっても地味。バリエーションにも乏しく、いまいち愛着もわかない。
「あれって古墳なんだよ、知ってた?」
と聞かされても「へー、すごいねえ」と鼻をほじりながら気のない返事をするぐらいの反応の薄さ。
あげくには地元の園児や小学生らに「古墳って昔の人のお墓なんでしょう? そんなのがいっぱいあるとか、なんか気持ち悪い。まるで霊園じゃん。ちょっとイヤかも」とか言われちゃったりもする。
行政側はどうにかこれを観光資源にして、市の活性化に繋げようと四苦八苦しているものの、肝心の地元がいまいち盛り上がっていないのが現状。
すんごいカラフルな壁画とか、ファラオの宝ばりのお宝でも出てこないかぎりは、ちょっと難しそう。
でもってそんな高月の地ではあるが、寺社仏閣もまた多かったりする。
正確な数は把握していないが、たぶん百は超えてるかも。
人口比率やら密度、土地の重要度を考えると、これはかなり過密だったりする。
そしてそんな市内の寺社仏閣の中でもトップクラスを誇るのが、北部にある上宮天満宮である。
九州は大宰府天満宮の次に古い歴史を持つのが高月の上宮天満宮。
格だけならば京の都の北野天満宮よりも上で、歴史も古い。もっともそれ以外は規模、立派さ、集客数、その他もろもろ、すべてコールド負けだが、素朴なたたずまいが地元で愛されており、北の天神さんと親しまれている。
上宮天満宮は駅から真っ直ぐ北へと向かったドン突きに位置している。小高い丘の上に立っている。
丘の斜面は急にて、いい若い者でも「ひぃふぅ」息切れするほど。たぶんスケボーで滑り降りたら死ねると思う。
そんな天神さんの周辺にも古墳や遺跡がちらほら。
そしていつの頃からか、こんなウワサがまことしやかに囁かれるようになっていた。
『じつは天神さんの丘って古墳で、その下には地下迷宮があって、その迷宮の奥には財宝を守っている怪物がいるんだってさ』
まるでクレタ島に実在していた古代の王宮「クノッソス宮殿」にて、そいつをモデルにしたというミノタウロスのラビュリントスのようなお話。
もちろんあくまでウワサレベルの都市伝説にて、「あったら面白いよね」というシロモノ。
いちおうは過去にざっと地下空間の有無について、どこぞの大学の研究チームが大袈裟な機材を持ち込んでの音波検査を敢行したらしいのだが、なんら成果は得られなかったと聞いている。
その結果も踏まえて、市内の有識者たちの間では「天神さんは古墳っぽいけど、ただの小山。さすがに昔のえらい人の墓の上に、神社とか建てないでしょ」という認識で落ちついているとのこと。
だがしかし、その定説がいまくつがえされようとしていた!
◇
木の洞、地面の下に巣を作ったスズメバチ。
そいつをせっせと駆除していた探偵と助手。いきなり足下が崩れてともに地下へと……。
「ぎゃーっ、若い身空で生き埋めはイヤーっ!」
「くっ、こうなったら変化して」
おれと芽衣はプチパニックとなり、じたばた。
が、じきにそろって「「あれ?」」となる。
おれたちはたしかに地面に呑み込まれて落ちた。
けれども、すぐに足がついた。ストンと落ちたのは落ちたのだが、せいぜい二メートルか三メートルといったところ。
ウワサの地下迷宮は、地表近く、くっそ浅いところにあったのである。
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