おじろよんぱく、何者?

月芝

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821 アタッチメント

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 組み合ったことにより硬直状態へと陥った戦い。
 一分、三分、五分……。
 ひたすらマシンパワーに物を言わせたぶつかり合いが続く。
 だがこのままでは双方のモーターが焼き切れてしまう。その証拠に、はやくもボディのあちらこちらから白煙があがり、嫌なニオイもぷ~ん。心なしか出力も低下しているような。

 ならば双方、いったん離れてからの仕切り直しか。
 おれが伯魅に指示を出そうとした矢先のことであった。先に動いたのは相手機体。
 ふいに愛葉会のアスタコのキャタピラが停止し、突っ張っていた左の長椀もチカラを失ってへにょり。それにあわせて機体もすっと半身を引くようにして回頭。
 でもそれはずっと押し合いへし合いをしていた、こちらにとってはいきなりハシゴをはずされたようなもの。
 くっ、巧い! 絶妙なタイミングでチカラを抜かれた。
 これによりおれたちの赤い機体は前のめりとなった格好にて、たたらを踏んだ状態に。重心が滑って、上体が流され踏ん張りがきかない。

 押して、引いて、まるで波の動きのごとし。
 これは柔道の投げ技、二十一ある足技のうちのひとつ「支え吊り込み足」なる技。
 相手の足首に自分の足を当て、支点にすると同時に、相手を釣り手で釣り上げ、引き手で支え、両手の動きを連動、ハンドルを回す様に回転させ、そのまま足を払って投げる。
 なんてこったい。相手の操縦者はそれを足のないメカザリガニで再現しやがったっ!
 もちろん機体には足がないので、これを引っかけること出来ない。
 だが剛力を誇る二本の長椀がそれを補ってあまりある。

 ついにキャタピラの後輪部分が浮き、赤い機体がいよいよ前のめりに傾いていく。
 重量のある機体は、バランスを崩すと一転して安定を失う。そうなったらもう成すすべなし。無様に地べたを這いつくばることになる。
 傾斜角度がいよいよ限界値へと近づいてきた。
 このままでは横転事故を起こす。そうなれば中にいる伯魅も無事ではすまない。焦ったおれは、いっそのこと化け術を解くべきか判断に迷う。
 けれどもその伯魅が首を横に振って、「パパ、わたしにまかせてっ!」とレバーを操作。

 とたんに赤い機体の右のハサミが開いて、組み合いを解消。
 そうして自由になった右の長腕を、伯魅はおもむろに床へと振り下ろす。
 ズドンと衝撃。みずから足下を強打することにより、その反動でもって傾きかけていた自身の体勢を強引に戻すことに成功する。
 とっさの機転により窮地を脱したわけだが、これがおもわぬ福音をもたらす。
 両腕を巧みに操って、ハンドルを回すようにして投げを放った愛葉会のアスタコ。
 しかし現在はその一方の腕の拘束がはずれており、片手投げの状態。そこに敵機であるおれたちの重量がごそっと乗っかった格好となったもので、腕にかかる負担が半端ない。
 通常のアスタコの重量は十三トンぐらい、自衛隊などで使用されている特別機はひと回り大きくて二十トンといったところ。
 現在、戦っている両雄はその中間ぐらいのサイズにて、推定十五トンといったところか。
 そんな重さがまるっとのしかかる。
 いかに解体用のパワー重機とはいえ、片腕で支えられるものじゃない。

 メキャリ!

 明らかな歪み音を立てたのは、黄と黒のスズメバチカラーの愛葉会の機体の右長腕の肘関節のひとつ。局所にかかる圧力と、捻じれが、ついに限界に達したのだ。
 これによって右腕の性能が著しく低下した愛葉会側。
 一方で体勢を完全に建て直したおれたちにとっては、好機到来である。

「ここで決めるぞ、伯魅」
「わかったよ、パパ」

 いよいよ雌雄を決しようかという局面で、おれはさらに「変化っ!」と化け術を敢行。ただし今度のはカラダの一部のみを変える部分重ね化け。
 そうして赤い機体の右腕に出現したのは、どでかい杭のような突起がついたシロモノ。
 コンクリートやアスファルトを砕く圧砕機、いわゆるパイルバンガーである。
 このアスタコの優れているところは、長腕の器用さのみにあらず。アタッチメントを変えることで用途を自在に変えられること。
 ふつうはいちいち取り外しては、つけかえてという作業が必要となるが、おれが化けることにより、その手間がごっそりはぶけるという次第。

 その理不尽さは、ロボットアニメの主役級のごとし。
 愛娘のために自重という文字を海に投げ捨てた、親バカパワー全開っ!

「「うおぉぉぉぉぉぉぉっ」」

 父と娘の雄叫びが重なり、振り抜かれたパイルバンガー。右フック気味に放たれた一撃が敵機の横っ腹に突き刺さって、ドカンと一発。
 これにて敵機は沈黙し、勝負あり!


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