おじろよんぱく、何者?

月芝

文字の大きさ
上 下
789 / 1,029

789 カノポスの壷

しおりを挟む
 
 全身全霊にてこびへつらったおかげで、王妃さまのミイラは機嫌を直した。
 そこでおれは本題に入る。

「じつは……」

 かくかくしかじか、怪異に悩まされている事情を説明し「下々の者がたいそう困っているので、どうかお慈悲を」
 すると王さまのミイラ、「えー、こほん」
 わざとらしい咳にて存在をアピールしつつ「よかろう。許す。存分に調べるがよい」と言ってくれた。王妃さまの方も鷹揚にうなづいてくれたもので、おれと芽衣は小さくガッツポーズ。

 了承を得たところで、いざ調査を開始!
 当初、二体のミイラの妖気にあてられて怪異が起こったのかと思ったのだが、いざこうして接してみると、「なんかちがうかも」とおれは内心で首を傾げる。
 いろいろと問題のある夫婦だが、さりとて元凶らしくないというか、陰が陰でも妙にカラっとしているというか、ジメっとした厭らしさがないというか。

「それってミイラだからでは? もとからカラカラですし」と芽衣。

 でもおれは首をふる。

「いや、そういう意味じゃなくて……。なんていうかなぁ、怪異でもうちのしらたきさんみたいにしっとり馴染む系から、怪本どもみたいなおちゃらけ系もいれば、あきらかにこれはヤバいって気配がぷんぷんのもいるだろう? でもって悪さをするのは基本的にそのヤバいやつだ」
「あー、たしかに。そういった意味では、あのふたりはそんな感じじゃありませんよね。いろいろ溜め込んではいますけど、ケンカをすることで適度にガス抜きしているみたいですし」
「だろう? 本当におっかないミイラだったら、駄犬どもなんざいまごろ縊り殺されている」
「……ということは、原因は他にあると四伯おじさんはにらんでいるですね」
「まぁな」

 探偵と助手は話をしながら、それっぽい物がないかを探してきょろきょろ。

「にしても、ちょっとレプリカ多くね?」
「というかほとんどレプリカですよ。まぁ、素人目には本物も贋物も区別はつきませんけど」
「黙ってればわかりゃしないのに。それをわざわざ明記しちゃうところが、いかにも亀松百貨店らしい。派手さはないけど顧客たちから長く愛される理由が、なんとなくわかる展示の仕方だ」

 ぐるりと会場をまわるも、おれたちはそろって「うーん」と腕組みにて眉間にしわを寄せることになる。
 ぶっちゃけ、さっぱりわからん。
 なにせ珍獣とタヌキ娘だからな。
 そこでおれは資料にあらためて目を通し、これまでの調査のおさらいをする。

 地下の食料品売り場では、動くアフロと消える食べ物。
 一階では女子トイレの扉がぱかぱか。
 二階では徘徊するマネキン。
 三階では不良在庫どもの百鬼夜行。
 四階ではオモチャどもが大暴れ。
 五階ではミイラの夫婦喧嘩。
 でもって屋上の遊技場では、少女の白い影がでるらしい。

 千祭の野郎が五階に降りてきているということは、少なくとも屋上の怪異については目途ついたということ。

「あれ? ひょっとして勝負はうちの勝ちじゃねえのか」
「微妙なところですね。それに原因をどうにかしないと、たぶん依頼完了になりませんよ。最悪、依頼料を払ってくれないかも」
「フム、それは困る。とはいえなぁ……」

 ぼりぼり頭をかきつつ、資料とにらめっこしていたおれは「うん?」
 あることに気がつき、なんどもページをめくっては、資料の中を行ったり来たり。
 そして「なるほど、そうだったのか」とにやり。

「わかったぞ。たぶん、原因はアレだ!」

 ビシっと指で差し示した先にあったのは、カノポスの壷なる展示物。
 ちっこい木棺みたいな箱にて、これはミイラを造るときに除去されたブツを入れておくためのもの。とどのつまり死者の内臓を納めた木箱である。
 では、どうしておれがカノポスの壺だと断言したのか?
 それは各階で発生した怪異の位置にある。ものの見事にすべてが縦に重なっていた。
 資料に載っている館内地図を眺めていて気がついた次第。

 というわけで、早速、元凶とおもわれる品へと。
 おそるおそる近づけば、箱がカタカタ小刻みに震えていた。
 箱そのものが震えているのか、中身が動いているのか。

「ちっ、レプリカなら叩き壊しちまうのもアリだったのに。ネームプレートの横にハテナマークがついてやがる」
「真偽不明ってことですか。だとしたらうかつに手が出せませんよ」

 とりあえず中身を確認してから、隔離処理が妥当か。
 さりとて勝手に中身を覗くのは、いささかはばかられる。
 だからいちおう持ち主にお伺いを立てようと、おれが「あのう、すみません」と声をかけたら、王妃さまのミイラは「あら? それ、うちのじゃないわ」

 ここにあるミイラは彼女たちのみ。
 ふたりの物ではないということは、まったく赤の他人の内蔵を納めた箱ということになる。

「だったら遠慮しなくていいよね」

 おもむろに木箱の蓋をぱかんと開けるタヌキ娘。
 雑食だから乾燥したホルモンごときへっちゃら。
 のはずが、すぐさまパタンと蓋を閉じた。
 そして芽衣はギギギと首を回し言った。

「何かいる! ごわごわした毛むくじゃらなのが……」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

手切れ金

のらねことすていぬ
BL
貧乏貴族の息子、ジゼルはある日恋人であるアルバートに振られてしまう。手切れ金を渡されて完全に捨てられたと思っていたが、なぜかアルバートは彼のもとを再び訪れてきて……。 貴族×貧乏貴族

高槻鈍牛

月芝
歴史・時代
群雄割拠がひしめき合う戦国乱世の時代。 表舞台の主役が武士ならば、裏舞台の主役は忍びたち。 数多の戦いの果てに、多くの命が露と消えていく。 そんな世にあって、いちおうは忍びということになっているけれども、実力はまるでない集団がいた。 あまりのへっぽこぶりにて、誰にも相手にされなかったがゆえに、 荒海のごとく乱れる世にあって、わりとのんびりと過ごしてこれたのは運ゆえか、それとも……。 京から西国へと通じる玄関口。 高槻という地の片隅にて、こっそり住んでいた芝生一族。 あるとき、酒に酔った頭領が部下に命じたのは、とんでもないこと! 「信長の首をとってこい」 酒の上での戯言。 なのにこれを真に受けた青年。 とりあえず天下人のお膝元である安土へと旅立つ。 ざんばら髪にて六尺を超える若者の名は芝生仁胡。 何をするにも他の人より一拍ほど間があくもので、ついたあだ名が鈍牛。 気はやさしくて力持ち。 真面目な性格にて、頭領の面目を考えての行動。 いちおう行くだけ行ったけれども駄目だったという体を装う予定。 しかしそうは問屋が卸さなかった。 各地の忍び集団から選りすぐりの化け物らが送り込まれ、魔都と化しつつある安土の地。 そんな場所にのこのこと乗り込んでしまった鈍牛。 なんの因果か星の巡りか、次々と難事に巻き込まれるはめに!

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?七本目っ!少女の夢見た世界、遠き旅路の果てに。

月芝
児童書・童話
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。 ひょんなことから、それを創り出す「剣の母」なる存在に選ばれてしまったチヨコ。 辺境のド田舎を飛び出し、近隣諸国を巡ってはお役目に奔走するうちに、 神々やそれに準ずる存在の金禍獣、大勢の人たち、国家、世界の秘密と関わることになり、 ついには海を越えて何かと宿縁のあるレイナン帝国へと赴くことになる。 南の大陸に待つは、新たな出会いと数多の陰謀、いにしえに遺棄された双子擬神の片割れ。 本来なら勇者とか英傑のお仕事を押しつけられたチヨコが遠い異国で叫ぶ。 「こんなの聞いてねーよっ!」 天剣と少女の冒険譚。 剣の母シリーズ第七部にして最終章、ここに開幕! お次の舞台は海を越えた先にあるレイナン帝国。 砂漠に浸蝕され続ける大地にて足掻く超大なケモノ。 遠い異国の地でチヨコが必死にのばした手は、いったい何を掴むのか。 ※本作品は単体でも楽しめるようになっておりますが、できればシリーズの第一部~第六部。 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!」 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?二本目っ!まだまだお相手募集中です!」 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?三本目っ!もうあせるのはヤメました。」 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?四本目っ!海だ、水着だ、ポロリは……するほど中身がねえ!」 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?五本目っ!黄金のランプと毒の華。」 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?六本目っ!不帰の嶮、禁忌の台地からの呼び声。」 からお付き合いいただけましたら、よりいっそうの満腹感を得られることまちがいなし。 あわせてどうぞ、ご賞味あれ。

【R18】清掃員加藤望、社長の弱みを握りに来ました!

Bu-cha
恋愛
ずっと好きだった初恋の相手、社長の弱みを握る為に頑張ります!!にゃんっ♥ 財閥の分家の家に代々遣える“秘書”という立場の“家”に生まれた加藤望。 ”秘書“としての適正がない”ダメ秘書“の望が12月25日の朝、愛している人から連れてこられた場所は初恋の男の人の家だった。 財閥の本家の長男からの指示、”星野青(じょう)の弱みを握ってくる“という仕事。 財閥が青さんの会社を吸収する為に私を任命した・・・!! 青さんの弱みを握る為、“ダメ秘書”は今日から頑張ります!! 関連物語 『お嬢様は“いけないコト”がしたい』 『“純”の純愛ではない“愛”の鍵』連載中 『雪の上に犬と猿。たまに男と女。』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高11位 『好き好き大好きの嘘』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高36位 『約束したでしょ?忘れちゃった?』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高30位 ※表紙イラスト Bu-cha作

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?五本目っ!黄金のランプと毒の華。

月芝
児童書・童話
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。 ひょんなことから、それを創り出す「剣の母」なる存在に選ばれてしまったチヨコ。 そのせいでこれまでの安穏とした辺境暮らしが一変してしまう! 中央の争乱に巻き込まれたり、隣国の陰謀に巻き込まれたり、神々からおつかいを頼まれたり、 海で海賊退治をしたり…… 気がつけば、あちこちでやらかしており、数多の武勇伝を残すハメに! 望むと望まざるとにかかわらず、騒動の渦中に巻き込まれていくチヨコ。 しかしそんな彼女の近辺に、海の彼方にある超大な帝国の魔の手が迫る。 天剣と少女の冒険譚。 剣の母シリーズ第五部、ここに開幕! お次の舞台は商連合オーメイ。 あらゆる欲望が集い、魑魅魍魎どもが跋扈する商業と賭博の地。 様々な価値観が交差する場所で、チヨコを待ち受ける新たな出会いと絶体絶命のピンチ! ※本作品は単体でも楽しめるようになっておりますが、できればシリーズの第一部~第四部。 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!」 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?二本目っ!まだまだお相手募集中です!」 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?三本目っ!もうあせるのはヤメました。」 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?四本目っ!海だ、水着だ、ポロリは……するほど中身がねえ!」 からお付き合いいただけましたら、よりいっそうの満腹感を得られることまちがいなし。 あわせてどうぞ、ご賞味あれ。

モブだった私、今日からヒロインです!

まぁ
恋愛
かもなく不可もない人生を歩んで二十八年。周りが次々と結婚していく中、彼氏いない歴が長い陽菜は焦って……はいなかった。 このまま人生静かに流れるならそれでもいいかな。 そう思っていた時、突然目の前に金髪碧眼のイケメン外国人アレンが…… アレンは陽菜を気に入り迫る。 だがイケメンなだけのアレンには金持ち、有名会社CEOなど、とんでもないセレブ様。まるで少女漫画のような付属品がいっぱいのアレン…… モブ人生街道まっしぐらな自分がどうして? ※モブ止まりの私がヒロインになる?の完全R指定付きの姉妹ものですが、単品で全然お召し上がりになれます。 ※印はR部分になります。

こちら第二編集部!

月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、 いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。 生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。 そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。 第一編集部が発行している「パンダ通信」 第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」 片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、 主に女生徒たちから絶大な支持をえている。 片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには 熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。 編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。 この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。 それは―― 廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。 これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、 取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。

処理中です...