おじろよんぱく、何者?

月芝

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740 白羽と弟ネコ

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 四方から投げつけられた棒手裏剣が巨漢へ次々と突き立つ。
 放ったのは燐火さんら白羽の忍びたち。
 受けたのはサーバルキャットの弟ボーン。
 飛び道具を前にして頭を両腕でおおってかばうボーン。そこへ容赦なく投擲がくり出される。
 十二本にもおよぶ棒手裏剣。そのすべてが的の胴体部分へと吸い込まれる。
 だがしかし、ボーンが大きく息を吸ったとおもったら、その身がひと回り膨らんでボヨン、刺さっていたはずの棒手裏剣がすべて抜けてしまった。

 いかに肉厚で太っちょの体躯とはいえデパートの屋上に浮かぶバルーン風船じゃあるまいし、これはありえないこと。
 それを可能にしていたのは、彼が持つぶ厚い皮下脂肪とその身を包んでいる特殊なスーツ。優れた伸縮性と耐久性を持つ素材にて作られた特注品にて、ボーンがまとうことで防御力が格段に跳ねあがるシロモノ。
 ちなみに開発したのは聚楽第が誇るマッドなサイエンティスト、暮来真理(くれこまり)である。

 棒手裏剣が効かない。それすなわち刺突系の攻撃が通らないということ。
 そして打撃も肉壁に吸収されてほとんど効果はないだろう。
 ならばと仲間に合図をおくった燐火。
 すかさず飛んだのは鎖分銅。ボーンの両手両足をじゃらりと絡めとる。
 こうして動きを封じたところで、駆け出した燐火。接敵しつつ腰の小太刀を抜く。
 あらわとなる南の海を彷彿とさせる蒼い刀身。

「吠えろ、青龍」

 燐火の声に応じて刃が蒼炎をまとう。
 刺撃や打撃が効かないのであれば、斬撃にて決める。そう考えての突進。
 けれどもその時のことであった。
 動き出したのはボーン。身をよじり、まるでダダをこねる幼子のように手足をジタバタさせる。とたんに引っ張られたのは白羽の者ら。
 怪力にものをいわせて強引に拘束を解いたばかりか、ボーンは鎖分銅にて繋がっている白羽の者らをもぶん回す。
 うねり暴れる鎖により行く手を阻まれた燐火。
 足が止まったところに横合いからぶつかってきたのは仲間のカラダ。避ければ仲間が床へと叩きつけられてしまう。
 だからこれを受け止めるも、勢いが強く支え切れず。いっしょになって吹き飛ばされてしまう。
 そして青龍の小太刀は不発に終わり沈黙。しばしのインターバルへと入り、使用不可の状態になってしまった。

  ◇

 手鎖状態にて猛り暴れるボーン。
 考えなしの行動であるがゆえに、規則性は皆無。まるでふらふら進路を定めない迷惑な台風のよう。それだけに手がつけられない。
 ちらり彼方を見ればタヌキ娘とトラ狂女が正面から殴り合っており、尾白四伯はワイヤーでぐるぐる巻きにされて床に転がされている姿が目に入る。
 助手の方はともかく探偵は大ピンチ!
 だからすぐにでも救援に向かいたいところではあったが、ボーンがそれを許さない。

「おもいのほかにやりにくい。いや、先のトロンの突出ぶりからして、最初からこの状況を狙ってのことか。なんとしたたかな」

 うかつさを後悔する燐火。後手後手に回っている。忍びにあるまじきなんたる不手際。
 敵は暴虐の徒で有名な「銀禍」の一党。凶悪さのみならず、奸計でもって数多の追手をしりぞけ返り討ちにしてきた連中であると、重々わかっていたはずなのに……。

「どうやら九龍城の阿呆な悪ノリに付き合っているうちに、すっかり影響を受けてしまっていたようだな。だがそれももうしまいだ」

 これはゲームじゃない。そして試合でもない。
 忍びには忍びの戦い方がある。
 己が何者であるのかを取り戻した燐火は、パチンと指を鳴らす。
 それを合図として、サッとさがった白羽の者たち。ボーンよりいったん距離をとる。
 続けて「チチチ」と小鳥のさえずりのような声。
 これは白羽同士の通信手段。音の高低、一音ごとの幅、調子、全体の長さにより命令を伝達する。いわば口で行うモールス信号のようなもの。
 燐火が仲間たちに伝えたのは忍び道具を使用する旨。

 白羽の者ら。ふたりが投擲によりボーンの注意をそらす役割を担う。
 その隙に背後から別の者が放ったのは巾着袋。手のひらにおさまるぐらいの小さなもの。
 目敏く気づいたボーン、ふり返りざまこれを無造作に叩き落とそうとするも、触れたとたんにポン!
 袋が破けて中身が飛び出した。
 赤や黄色が混じった細かな粉末は、たちまち散り煙り、巨漢の顔へとまとわりつく。
 するとボーンが「ぎゃあ!」と悲痛な声をあげた。

 巾着袋の中身は特別に配合された目つぶしの粉。ヒグマなどの猛獣すらも裸足で逃げ出すという劇物成分たっぷりにて、うかつに吸い込めばノドや鼻もやられる。
 これを間近で受けたボーンは痛みによりヒイヒイ。
 そんなボーンの耳元にて続けて響いたのは鋭い炸裂音。
 音玉と呼ばれる忍び道具にて、爆竹の強力版みたいなもの。攪乱陽動にも使えるが、直接ぶつけると耳がキーンとなり、しばらく聴力が麻痺してしまう。

 目と耳と鼻をふさがれ、暗闇での無音状態へと追いやられたボーン。
 最後に感じたのは舌先にじんわりと広がる甘さ。
 甘露なる毒。その正体は痺れ薬。使用量をあやまれば死ぬ危険性もある。
 これにより身体の内から触覚や痛覚をも奪われたボーンは、ついにみずから膝を屈し、そのまま倒れ伏した。


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