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722 黒羽と白羽
しおりを挟む用心しつつ森の奥へと足を踏み入れたおれたち。
じきに聞こえてきたのは、キンコンカンという金属同士がぶつかり合う不穏な音。
何者からが武器を手に争っている!
近づくほどに濃厚となる戦いの気配。
おれと芽衣は最寄りの繁みの中へ身を隠し、ほふく前進にてじりじり接近。
するとそこでは黒と白の忍び装束に身を包んだ者らが、武器を手にして飛び跳ねていた。
シュバッ、シュタッ、タタタタタタ。
軽快な動きにて木々の合間を駆ける黒い忍び。
これを追う白い忍び。
すると追われていた黒いのがおもむろに近くにあった木の幹を蹴飛ばす。反動を利用しての跳躍。宙にてくるん。
これにより追っていたはずの白いのが、背後をとられる格好となり、立場が逆転。
完全に虚を突かれた白いの。無防備な背中へと突き入れられたのは小太刀。
ずぶりと容赦のない一刀、身体を貫通し、切っ先が胸元から顔をだす。
覆面の目元が細まり、ほくそ笑む黒い忍び。
が、次の瞬間、刺されたはずの白い忍びの姿が丸太に代わり、ごろんと地面に転がった。
空蝉(うつせみ)の術っ!
謀られたと気づいた黒いのが消えた敵の姿を求めて、周囲をキョロキョロ。
するとその足下からにょきっと腕が生え、いきなり黒い忍びの足首をむんずと掴んだかとおもえば、あっという間にその身が地中に引きずり込まれてそれきりとなった。
◇
そこかしこにて繰り広げられている忍びたちの戦い。
どうやら黒い勢力と白い勢力が争っているようなのだが……。
「なぁ、芽衣。あの黒い連中、なんだか見覚えがあるような」
「奇遇ですね、四伯おじさん。わたしもそんな気がしていました」
あれはかつて絶海の孤島にて宮本めざしとお宝をめぐって争奪戦をくり広げたときのこと。やつが旗下に連れていたムササビの忍者軍団がいた。
たしか名前を羽茶組(はさぐみ)といったっけか。
「どうやら今回の一件、聚楽第が関与しているとみてまちがいなさそうだな」
「はい。でも肝心の宮本めざしも、クノイチのかげりの姿も見当たりませんね」
繁みの陰にて探偵と助手がごにょごにょ。
その時のことであった。
「吠えろ、青龍」
凛とよく通る女の声がしたとおもったら、出現した蒼い炎の龍が黒い忍びたちを次々に呑み込んでいくではないか!
あの蒼い炎……。ツルツルの切り株をこさえたのは、どうやら彼女であったようだ。
三人ばかりやられたところで、「くっ、退け」との指示が飛び、黒い忍びたちはみな一斉にどろん、その姿がかき消えてしまった。
忍び同士の戦いは、とりあえず白い側の勝利に終わった。
まるで時代劇さながらの戦いっぷりに、おれと芽衣を目をぱちくりさせるばかり。
けれども気軽な観客でいられたのはここまで。
「そこに隠れている者、いますぐ姿をあらわせ。さもなくば」
南の海を彷彿とさせる蒼い刀身の小太刀、その切っ先をこちらが潜んでいる繁みにぴたりと向けて恫喝してきたのは、戦いを収束させた白いクノイチ。
乱戦のどさくさにまぎれての接近にもかかわらず、しっかり把握されていたらしい。
このクノイチ、相当にデキる。
でもっていつの間にやらおれたちが潜んでいた繁みが、すっかり白い忍びたちに囲まれていた。
おれと芽衣は互いに顔を見合わせてうなづくなり、おとなしく相手の言う通りにする。両手をあげた格好にて繁みから姿をあらわし、敵対する意志がないことを示す。
◇
おずおず名刺を差し出しつつ、おれはこちらの事情をかいつまんで説明する。
すると意外にも素直に刃をおさめてくれたクノイチ。
「おウワサはかねがね。我らは白羽にて、私はこれを預かる燐火という」
白羽とは忍びの誇りと本分を忘れて、技と欲に溺れ堕落した者らをとっちめるのを任務としている忍びたちのこと。
そしてその堕落した連中のことを黒羽と呼ぶ。
だから羽茶組なんぞはまるっと黒羽に分類されている。
ちなみに討伐対象リストの中でも最上位に位置しているは、オコジョクノイチのかげり。もう不動のランキング一位にて、ぶっちぎりなんだとか。
まぁ、あれだけ暴れていれば当然だろう。
「気まぐれにあっちこっちに出没するもので、追う我らはたいへんなのです。活動予算も限られているというのに。ったく、あいつは昔っから本当にしようのない」
燐火さんの口ぶりからして、個人的にかげりとはひとかたならぬ縁があるようだ。
なおそんな燐火さんの正体はオコジョである。
かげりと同じオコジョにて、同じクノイチで知ったような口ぶり……。同門とか姉妹弟子とかかな?
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