おじろよんぱく、何者?

月芝

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705 チャリンコ狂騒

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 クルマとバイクと自転車。
 どれが一番速いかといえば、そりゃあクルマが速い。
 お次がバイクだ。唸るモーターエンジンが産み出す推進力は凄まじい。
 比べて自転車だが、たしかにクルマやバイクに比べれば見劣りする。
 だがしかし、それを差し引いてもあまりある利点がある。
 それは小回りの良さ。こと入り組んだ街中となれば自転車こそが王者。
 チリンチリン、そこのけ、そこのけ、ママチャリが通る。

 桔梗が駆る自転車が商店街を抜け、隣接する住宅地へと突入する。
 商店街と国道に挟まれるようにして存在するこの区画は、市内屈指の旧街。それゆえに今風な住みよい都市設計とは無縁なもので、建物がぎゅうぎゅうと密集しており、路地は細く、迷路のごとく入り組んでおり、中途半端な階段やら袋小路がそこいら中にあって、とにかくややこしい。加えて隠されるようにして「一旦停止」やら「一方通行」の標識が配置されているといういやらしさ。宅配便や郵便局員泣かせの場所でもある。
 けれども、だからこそ自転車が最大限の威力を発揮する。

 おれがナビゲーションをししつつ、桔梗を誘導。
 このままいっきに国道を越えて市内を縦断、南下を目指す。
 だが敵もしぶとい、まだまだ諦めない。
 シャーッと駆けがてら、ちらりと脇見をすれば、路地の向こうをサッと横切る赤い影。
 こちらの通りと平行している一本筋ちがいのところ。そこを猛追しているのは、赤いママチャリにまたがった野郎ども。

「なっ、あれはレンタサイクル! 連中も自転車での追跡に切り替えやがったみたいだ」

 真っ赤なボディに、サドル下には黄色のシールがトレードマーク。
 高月の駅近くにて運営されているレンタルサービス。駐輪場代込みにて月極で借りるもよし、サイクリング日和に気軽に借りてそこいらを散策するもよし。
 自転車はあるとたしかに便利だけれども、わざわざ買うほどでも。登録料とか、管理維持も地味に面倒だし。
 という利用層より支持を受けて、ぐんぐん業績をのばしているレンタサイクル。
 かなり好調らしく、ここのところ市内では赤いママチャリ族がずんずん絶賛増殖中。

 身分証を提示し、料金さえ払えば誰でも借りられるシステム。
 それを活かしての追跡。

「ちくしょう、見境なしに貸し出しやがって。みるからに不審者どもじゃねえか。少しは危機感を持てよっ。だがしかし、いくら数を揃えようとも、しょせんはノーマルママチャリ、おれたちの敵じゃない。なにせこちとら最新式のシリコーンギア搭載だからな。油まみれのごりごりチェーン式ごとき旧型は相手にならんよ、ふふん」

 しかも最高の漕ぎ手である桔梗が操るとなれば、なおのこと。
 うしろのお荷物なんぞはハンデにもならない。
 はずであったのだが……。

  ◇

 はっと気づけば背後より迫る一団があった。
 じりじりと距離を詰め、追い上げてくるのは、赤いママチャリ族。けれども形状が少し他の車体とはちがう。
 あれは……電動アシスト付き自転車っ!

「そんなバカな。あれはあまりにも利用料金が割高すぎて、不人気のあまり早々にサービスが撤廃されたはずじゃなかったのか」

 おれ、愕然。
 どうやら追跡者どもは、札束にて頬をぴしぱし、受付の者をたぶらかして、倉庫に眠っていたあいつらを蘇らせた模様。
 ほったらかしにしていたらバッテリーがダメになるからと、定期的に充電していたことも、連中に利する。

 電動アシスト式自転車。
 そのパワーはけっして侮れない。なにせ太ももぱっつんぱっつんの競輪選手が「もうあかん、ギブ」と匙を投げるほどの急な坂を、平均的な体力しかない一般人がスイスイ……はさすがに無理でも、それなりに進めちゃうのだから。

  ◇

 地球に優しくエコなのはおれが化けているシリコーンギア搭載のママチャリ。
 けれども優しいだけでは生き残れないのが人生というバトルフィールド。
 つねにスタミナを消費し、微々とはいえ疲労が蓄積されていく桔梗。
 対するあちらは電気のチカラで消耗が著しく抑えられている。
 逃げる者と追う者という立場の差。つねに受けるプレッシャーが主に精神を削りにくる。
 いかに桔梗とはいえ、このままでは国道へと出たあたりで捕捉されかねない。
 となれば……。

「桔梗、次の角を左へ」
「わかりました」

 すぐさまシャーッとほとんど速度を落とすことなく左折。華麗なハンドル捌き。うしろに座る夜光が「かっこいい」とキャッキャ。
 けれども少し進んだ先にてあらわれた左カーブに桔梗は「えっ」
 なぜならこのまま左、左へと曲がれば、戻ることになるからだ。
 戸惑う桔梗におれは「そのまま道なりに行け。考えがある」とだけ告げた。


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