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704 未来型ママチャリ
しおりを挟む表が静かになったところで、おれたち三人は外へと。
が、路地裏から商店街へと出ようとしたところで、いきなり敵勢とおぼしき小集団があらわれた。げっ、こっちに向かってくる!
おれはすぐさま「変化っ」
化け術にてドロン、変じたのは自動販売機の箱だけバージョン。
娘ふたりを狭い所に押し込めるのは、いささか気が引けるものの、緊急事態につきしかたがない。
「ちょ、ちょっと尾白さん、いきなり強引すぎます」
「すまんが、あいつらをやり過ごす間、しばらく我慢してくれ」
「すぅ、はぁ、すぅ、はぁ、お姉さまと密室でふたりきり」
やや困惑気味の桔梗、平謝りのおれ、なぜか興奮している夜光。
「おい、いたか?」
「いいや、こっちにはいなかった」
「なんなんだこの辺りは? どうしてこんなに無駄に入り組んでいるんだよ」
「さあね。陸のやつらは自由にできる土地が限られているからじゃないのか」
「ええい、無駄口はいいから、はやく探すんだ。もしもターゲットを見失ったら、右魏さまからどんなお叱りを受けることになるやら」
「それはイヤだ。どうせ叱られるのならば、せめて陽尾さまがいい」
「おれもおれも」
なんぞとガヤガヤ、騒がしく即席自動販売機の前を通り過ぎていく小集団。
こちらのことを「陸のやつら」と言っている時点で、連中が海からきたのは明白。でもって、そんな敵勢を率いているのが「右魏(うぎ)」と「陽尾(ひお)」という人物らしい。さっきバーの隠しカメラの映像で見た、ヤバげな美男美女たちがたぶんそれだろう。
まんまとやり過ごしたところで変化を解いて、すたこらさっさ。
地元の利を活かし、あちらこちらに散らばっている連中の目をかわしつつ、といきたかったのだが……。
「いたぞっ!」
あっさり見つかってしまった。
なにせ多勢に無勢。要所要所を張られて、人海戦術をとられたら、たちまち追い詰められてしまうというもの。
加えてこっちには芸能事務所がこぞってスカウト合戦を繰り広げているような黒髪美少女がいる。夜光だってなかなかのもの。そんな二人を冴えないおっさんが連れ歩いている時点で、目立つなというのが無理っ!
そして物見高く、お祭りどんちゃん騒ぎ好きで、ウワサやらスキャンダルが大好物な、おっちゃんおばちゃんどもが多数生息し徘徊している、高月中央商店街という土地柄もこちらに不利に働く。
追跡者どもから「こんな三人組、見なかった?」と問われるままに「ああ、それならあっちに行ったわよ」とか「さっき向こうの路地に入るのをみた」とか教えちゃうものだから、たまらない。情報駄々洩れ。
ばかりか「尾白が逃げ切るか、借金取りに捕まるか、さぁ、張った張った」と即席で賭場まで開かれる始末。
これにはさすがにおれもキレたね。それはもうキレッキレに。
だから連中のそばを駆け抜けざまにビシッとこう言ってやったさ。
「おれは自分が逃げ切る方に二千円賭ける。おまえら、あとで覚えておけよっ、ぜってーにほえ面をかかしてやるからなっ!」
とんだアウェイゲーム。
よもやこんな形でホームに裏切られようとは……。
「ちっ、どいつもこいつも他人事だとおもって愉しんでいやがる。しかしこのままだとジリ貧だ。いっそバイクかクルマにでも化けて強引にでも囲みを破りたいところだが」
ちらりと桔梗を見れば「すみません」としゅん。
高校生の彼女はどちらの免許もまだ持っていない。そして良家のコンコンなキツネお嬢さまは、うちのポンポコリンなタヌキ娘とはちがって、無免許運転で爆走なんぞは絶対にしないのだ。
おれはいろんな物に化けられる。ゆえについたあだ名が「百化けの尾白」、だがしかしせっかくいろんな乗り物に化けたとて、それを運転してくれる者がいなければ、ほとんど動けやしないという欠点がある。
すると夜光がこともなげに言った。
「だったら免許がいらない乗り物になればいいじゃない」と。
◇
黒い艶髪をたなびかせ、制服のスカートからおみ足がちらちらするのにもかまわず、シャーッと猛スピードで商店街を突っ切るのは、ママチャリに乗る出灰桔梗。後部座席には夜光がいて、しっかりとお姉さまの腰に腕を回しては、その背に顔を押しつけて、ハァハァしている。
でもってこの自転車に化けているのがおれこと尾白四伯。
見た目はただのママチャリ。電動式ではない。なのにやたらとスピードが出ているのには、桔梗の脚力のみならず自転車そのものにもちょっとしたカラクリがあるから。
じつはこれ、見た目こそは地味なママチャリだが、シリコーンギア搭載。
ギアの内部にシリコーンを配置することで、圧縮と反発を利用してアシストする。これにより漕ぐ力が格段にアップし、なおかつスムーズな乗り心地を実現。さらには走行時の振動や衝撃までおさえて、腰や膝、お尻のデリケートゾーンにも優しいという、とってもエコな未来型ママチャリなのだ。
この前、テレビで見かけて、おれはひと目で「これだっ!」とおもったね。
だからさっそく自分の化け術に取り入れたのである。
「こらーっ! 商店街内は自転車の乗り入れ禁止だっ」
という商会長の怒鳴り声は聞こえないふりをして、おれたちはひた走る。
「待てーっ」という追跡者らを振り払い、ずんずん進み、いよいよ商店街を抜けるというところで、前方に立ちふさがるのは人間の壁。
横並びにて「ここまでだ」と立ちふさがる面々が出現。
しかし桔梗は止まらない。漕ぐ足に力を込めて、さらにグンと加速。
そのままの勢いにて、連中をボーリングのピンのように跳ね飛ばすのかとおもいきやさにあらず。
ダンッ! と跳ねる自転車。
地面にあったわずかな出っ張りを踏み台に利用しての大跳躍。
各方面に多大な才能を持つキツネ娘、まさかのモトクロス系においてもその才をいかんなく発揮。とてもぶっつけ本番とはおもえない華麗なジャンプにより、見事、壁を突破!
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