おじろよんぱく、何者?

月芝

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687 古沢の民俗

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「ダメ、ぜんぜんヒットしない」

 両手をあげての降参ポーズなのは芽衣。
 スマートフォンにて「古沢の民俗」なる書籍の情報を検索してもらったのだが、目を皿にして百以上も検索ページをめくりまくるも該当するデータなし。
 で、しらたきさんにも事務所のパソコンを使ってがんばってもらったのだが、こちらの成果も芳しくない。
 いちおうは同じ市内の土地を題材とした本ということで、地元の図書館のデータベースもあたってみたけれども、こちらも空振り。寄贈本の一冊でも残っていればと期待したのだが。
 どうやら「古沢の民俗」という本は、無名の郷土史家が自費出版による品らしく、発行部数もかなり少ないっぽい。
 車屋千鶴も大学の図書館ではなくて、大学の近所にあった古書街にて、たまさか目にしたとの話であったことだし……。

「って古書店か。ならば餅は餅屋、本のことなら本に詳しい母玄のじいさんに相談してみるか」

 高月中央商店街の一画に軒を連ねる古書店「知恵の森」の店主・母玄福郎(もぐろふくろう)。紙の書籍をこよなく愛し、日々紙の書籍に埋もれ、紙のインクのニオイに酔いしれ、活字の海に溺れることを至福としている。これを粗略に扱う者には容赦しない。問答無用でぶ厚い辞典の角アタックをぶちかます、物知りの老爺。ちなみにその正体はフクロウである。ほぅほぅ。
 目下の悩みは後継者問題と若者の活字離れ。
 でも前者の方は有力候補が出来たので解決しそう。
 なお現在、その古書店にはネコ耳メイドロボの零号が住み込みのバイトとして居ついており、たぶん世界一の防衛戦力を保有している古本屋といっても過言ではなかろう。そんな零号こそが「知恵の森」の次世代を担うエース候補であったりもする。

  ◇

 というわけでご近所なので、あっという間に古書店「知恵の森」の店先へとやってきました探偵と助手。

「こんにちわー」と声をかける芽衣。
「ちわーっす。じいさん、まだ生きてる?」とはおれ。

 するとレジカウンターにて鎮座していた零号が「いらっしゃい」と会釈した瞬間を狙ったかのように、奥から零号の頭越しに飛来する物体ふたつ。
 芽衣のところには、どこぞのお土産品っぽい茶色の温泉饅頭。
 おれのところには、ぎゅるぎゅる鋭く縦回転する表紙固めの園芸雑誌。

 パシっと軽く受け止めた芽衣は、すばやく包装紙を解くなり、饅頭をモグモグ頬張る。
 両手にて挟み込むようにして真剣白刃取り、鼻先にて辛くも雑誌を受け止めたおれは、しかめっ面にて「この差はなんだ? 若い娘にばかり甘い顔をするとは、とんだスケベじじいめ」と悪態をつく。
 すると新たにもう一冊、園芸雑誌が飛んできた。今度はフリスビーばりの横回転。
 おれは「なんのこれしき」といまさっき手に入れたばかりの園芸雑誌にて叩き落として返り討ちにしてやる。
 その二冊ともに同じところから発行されたもの。
 紙の本を大事にする母玄福郎らしからぬ雑な扱い。
 理由はどうやら雑誌に掲載されている「いけてる園芸王子さま特集」っぽい。

「突然、あの名物コーナーを打ち切ったかとおもえば、くだらんもんに貴重な紙面を浪費しおってからに。ばかもんめがっ!」と母玄福郎はたいそうご立腹。「もう定期購読はやめだ」

 打ち切られたのは「我が家の自慢のお庭」というコーナー。
 読者投稿により選ばれたお宅へと取材陣が訪問し、エピソードトークを交えつつ投稿者が手塩にかけて育てた自慢のお庭を拝見するという内容。
 地味だが雑誌創刊以来、三十年近く続いていた骨太人気企画。
 それをばっさり打ち切り、新たに始まったのが園芸王子さまなんちゃらという華々しいけど、中身スッカスカのもの。
 みるみる下がる発行部数と売上。このままではマズイと見かねた出版社。座して廃刊を待つよりかはと一念発起。編集部の顔ぶれを一新し、大胆な舵きりを敢行したそうなのだが、明らかに人選ミスであろう。
 ご新規を取り込むことに必死になるあまり、ご贔屓筋を蔑ろにしてはいかんよ。
 結果として、昔馴染みからまでそっぽを向かれているので、みずから首を締めて寿命を縮めているのだから、笑えない話。

 まぁ、そんなことはさておきかくかくしかじか。
 おれは母玄のじいさんにかいつまんで事情を説明する。
 するとじつにあっさり「その本ならうちにあるぞ」との回答。
 これでいっきにご神体の正体に迫れると、おれと芽衣は「ひゃっほう」
 だが、世の中そうは甘くない。
 続けて母玄のじいさんはこう言った。

「ただし居場所がわからん。店にないのだけはたしかだ。たぶん家の倉庫のどこかにあるはず」


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