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680 的中率百パーセントの天気予報
しおりを挟む猛スピードで走り去っていくクルマ。
遠ざかるテールランプ。
ナンバープレートは黒いテープでばっちり隠されてある。
そいつが完全に見えなくなったところで、おれは化け術を解く。
「ふぅ、ちょっとあぶなかった。とっさに丸太に化けなかったら、モロに轢かれているところだったな」
背後からいきなり突進してきたクルマ。
はねられる寸前、ギリギリのところでおれは「変化っ!」とドロン。化け術にてとっさに丸太棒になったことで難を逃れる。ふだんの気を抜いているときだったらヤバかった。
とはいえよもや、こんなに立て続けに仕掛けてくるとは思わなかった。
それだけ敵も尻に火がついているということか……。
このタイミングでジャケットの内ポケットにあるガラケーが、ぷるぷるぷる。
着信相手は芽衣。
「どうした?」
「何か、ヘンな連中が刃物片手に押しかけてきたから、ぶちのめした」
おれは「そっちにもあらわれたか。まとめてふんじばっておけ」と伝えて電話を切る。
やれやれ、ご丁寧なことに診療所の方にまで手を回していたとはおそれいる。その頭の回転の良さやマメさを、もっとべつのことに活かしたらいいのに。とんだ才能の無駄遣いであろう。
ぼやきつつ周囲をキョロキョロ。
「おっ、あったあった。さっき放り出したタバコ。三秒ルールには抵触しているが、今回はしようがない」
拾って、ふーふーふー。息を吹きかけて細かい埃をとってキレイにしてから、口にくわえてライターにてシュボっと火をつける。
えっ、意地汚い?
いいんだよ。だってこちとら動物なんだもの。なかにはわざと生肉を腐らせて喰うやつまでいるんだから、それに比べたら至極健全なもの。
あとタバコ……、高いんだよねえ。
ひと昔前までは一箱二百五十円ぐらいだったのが、いまや倍以上もするってんだから、とんでもないインフレーション! 本当に愛煙家には厳しい世の中だよっ! 一日二箱とか吸ってたら、まじで破産しかねん! それから人に気軽に「一本ちょうだい」と言えないなんて、世知辛いにもほどがあるっ!
ちなみに三秒ルールってのは、いつのまにやら世間に浸透していたもので、落ちた物でも三秒以内に拾えば喰ってもセーフらしい。
もっとも医学的根拠はなくて、大部分のお医者さまたちが「ばっちいからやめとけ」と言っているらしいけど。
◇
「いっそのことタバコやめたら。もしくは電子タバコにするとか」
診療所にておれが不平不満をぶちまけたときに、芽衣の冷ややかな反応がコレ。
「あんなものタバコの代用品とは断じて認めん。というかアレも立派に有害指定を受けてるじゃないか。しかも爆発のリスクまで。手元でボンっとか、よけいに性質が悪いわっ! (※あくまで尾白四伯の個人的見解です。気になる方はグーグル先生に質問してね)」
そんな探偵と助手を尻目に、ひんむいた賊どもを選り分けている女医。光瀬菜穂は「これはいい、こっちはダメ。これはいまいち」とぶつぶつ。
「何が?」とはあえて問うまい。というか知りたくない、聞きたくない。
「で、どうするの、四伯おじさん? おもっていたよりも連中の喰いつきが良すぎるよね。このままだと、雑居ビルに火でもつけかねないんだけど」
「それは非常に困る。火事も怖いが、化石タヌキのリアルかちかち山とかシャレにならん。というわけでとっととケリをつけよう」
敵のアジトはわかっている。
下手に間を置くときっと逃げられる。警察が動くのをちんたら待ってなんぞいられない。
だからいまから強襲、電撃作戦を敢行する。
そのためには戦力がいささか心許ないので、補充が必要。というわけで……。
「芽衣はカラス女に連絡しろ、おれはトラ美を呼ぶ」
「あっ、だったら桔梗ちゃんやタエちゃんにも声をかけていいかな?」
「そりゃあ手を貸してくれるのならありがたいが、ヤンキーのタエちゃんはともかく、お嬢さまは難しいんじゃないのか」
時刻が時刻ゆえに、良い子は家でとっくに寝ている時間。
ましてや呉服屋の才媛ともなればなおさらであろう。
「うーん、たぶん大丈夫。ちょいちょい息抜きがてら家を抜け出しているみたいだし。なにせ、桔梗ちゃんは身が軽いからね。それにダメでもいちおうは誘っておかないと、あとでイジけちゃうから」
タヌキ娘いわく「女同士のつき合いにもいろいろあるのよ」とのこと。
よもやがさつで大喰らいである芽衣の口から、そんな繊細な台詞を聞く日がやってこようとは……。
おれはおもわず己の頬をつねる。
フム。痛い。夢じゃない。
こりゃあ、今夜は槍が降るね。
もっともその前に、悪党どもへと血の雨がザァザァ。土砂降りすることが確定しているけど。
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