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659 七福神めぐり 食い倒れ戦争
しおりを挟むやや駆け足の淡路島観光・七福神めぐり。
当初の予定ではのんべんだらりと観光を愉しむはずだったのに、行く先々にて待ち受ける試練の数々。とんでもイベント盛りだくさん。
前半の四つの霊場をまわって、夕方に宿のホテルへと到着する頃には、おれと芽衣はぐったり。
でもお年寄りたちはみんな元気だ。
各自割り振られたホテルの部屋へと向かったとおもったら、休むまもなく連れだって大浴場へとくり出していく。
ここぞとばかりに湯に浸かりまくるつもりのようだが、あんまり調子にのって湯あたりなんぞをせねばいいのだが……。
夕飯の席。昔ながらの広い座敷での宴席なんぞはなし。
かわりに夜はバイキング形式にて、好きなものを好きなだけ喰らう。
お酒も飲めるけど、より本格的に呑みたい面々は夕飯後に、上階のラウンジにてしっぽり大人の時間を愉しむという趣向。
バイキングといっても、そこはホテル。
ちゃんとした料理人が何人もいて、料理によっては注文を受けてからその場で作ってくれる本格派。
和洋折衷、とりどりの料理にまじって、淡路島の特産を使ったメニューも豊富にて、目移りしちゃう。
そんな中にあって一番人気は淡路ビーフの鉄板焼きのブース。
ずらりと並んでは、プロが華麗なコテさばきにて炎を操るさまと、漂ってくるかぐわしい肉臭に、みな目を血走らせながら腹の虫をぐぅぐぅ鳴らしている。
列の中には芽衣の姿もあり、「わたし、淡路ビーフを食べるのはじめてです。とっても愉しみ!」と舌なめずり。
まあそれも無理からぬこと。
いくら淡路島出身の淡路島育ちとはいえ、郷里の品をなんでも食べて育ったのかといえば、そんなことはない。
というか、たいていの者は自分の故郷の名物をわざわざ高い金を払ってまで食べようとはおもわない。地元を観光をしようとはおもわないのと同じこと。
ちなみに芽衣の実家の洲本家の食卓にのぼる名産品は、タマネギ関連と海苔ぐらいだ。あと芽衣はすっかり忘れてしまっているようだが、淡路牛のコロッケというのを梨歩さんが買ってきてくれたことがあったはず。
ぶっちゃけちがいがさっぱりわからなかった。コロッケはどこまでいってもコロッケである。アレの主役は肉じゃなくてジャガイモ。
なんぞということを考えつつ、おれは職人に握ってもらった寿司をぱくり。口の中に放り込んだとたんにほぐれるシャリ、噛むほどに甘味がでてくる鯛の身、それらが合算してもたらされる至福に目を細めつつ「うん、ウマい」
◇
おもいおもいに夕飯を愉しむ高月商店街の一行。
けれどもおれが途中、トイレへと立った際、たまさか通りがかった調理場の近くにて、ざわついている現場に遭遇する。
なにごとかと、そっと様子をうかがっていると聞こえてきたのが……。
「なっ、やばい。そろそろ肉の在庫が尽きるぞ」
「そんなバカな。一頭分が瞬く間に消えていく、だと」
「話がちがう! 年寄りだらけの一行だと聞いていたのに」
「その爺婆どもが、やたらと肉に群がっているんだよ」
「ちがう。そうじゃない。ひとりとんでもないオカッパ頭がまぎれ込んでいるんだ」
「あの小さい体のいったいどこに……」
「まるでブラックホール」
「やつはバケモノか?」
「くっ、この前、宿泊した相撲部屋の連中すらも退けたというのに」
「名立たる大食いファイターどもを返り討ちにしてきた、うちが負けるなんてありえない」
「ええい、ごちゃごちゃうるさい。どこでもいいから、いそいで他所から借りてこい!」
「チーフっ、デザート部門が悲鳴をあげています。作った端から消えていく。材料はともかく手が足りない。応援を寄越してくれと」
「そんな余裕はない。意地でも堪えろと伝えておけ。それよりも系列のホテルや、休んでいる連中にも緊急招集をかけるんだ。ついでに仕入れ業者にも連絡を」
「ダメです。とっくに営業時間を終了していますから電話が繋がりません」
「だったら直接行ってシャッターを叩いて来いっ」
おれは抜き足差し足忍び足。そろりと修羅場から離脱。
高月中央商店街の面々、どいつもこいつも元をとる気マンマンじゃねえか。さすがはがめつい商売人どもめ。年甲斐もなくいけるところまでいくつもりのようだ。
そして芽衣にかんしては、ある意味いつも通り。
ではあるのだが、よもやおれが優雅に食事を愉しんでいる裏で、食い倒れ戦争が勃発していようとは……。
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