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599 強襲、強襲、強襲
しおりを挟む洲本芽衣と出灰桔梗の挟撃により、ウルを足止め。
隙を見て孤斗羅美が死角より強襲、渾身のスマッシュを叩き込んでのカチあげ。
高らかとウルのカラダを空へと吹き飛ばしたところで、安倍野京香による狙撃にて牽制および誘導。
周囲に被害がおよばない射線上へとウルが重なった瞬間、零号の雷龍の宝珠に蓄積されたエネルギー砲が炸裂する。
三段どころか五段構えによる連撃!
高月の空を縦断した雷光。
聚楽第の総帥ウルの身は光に呑み込まれて消えた。
目まぐるしい展開に思考がついていけない。おれが唖然と見上げているうちに、極太な怪光線がみるみる細くなり、収束していく。そしてついには細い糸のようになり、残光もろともふつりと失せた。
だというのにである。
芽衣、桔梗、トラ美は警戒を解いていない。
そして駐車場屋上には、いまなお重い空気が垂れ込め、不快な緊張感が張り詰めたまま。
「……やったのか」
おもわずそんな台詞をこぼしそうになるのを、おれは寸前で止めた。こういうのをフラグといって、お約束の展開を引き寄せてしまうらしいので。
だが、フラグがあろうがなかろうが、起こるべきことは起こるもの。
尻もちをついているばかりの情けないおれの背後にて、唐突に気配が膨れあがった。ついでにプスプスと肉が焼けるちょっといいニオイも。
いちいちふり返るまでもない。ウルだ。
ヤツがおれのすぐうしろに立ち、こちらを見下ろしている。
芽衣たちも気がつき、こちらに駆け寄ろうとするも、すぐにピタリと止まる。
ウルがおれに向けて手をかざしたのを目にしたからだ。「おっと、それ以上近寄ればわかっているな?」との無言の牽制。
カラス女が狙撃しないのは、おそらく射線が重なっているから。ウルはそれすらも計算に入れてこの場所に立っている。
おれは首だけをひねり、背後に立つ男に話しかける。
「おいおい、冗談はよしてくれ。アレをモロに喰らっても平然としているとか、マジでなんなんだよ、あんた……」
するとウルはくつくつ肩をふるわす。
「いや、まったくの無傷ではない。さすがにアレには驚かされた。だが周囲への被害を恐れたのか、派手な見た目に反して威力がイマイチだった。もしもフルで放たれていたら、我が身とてどうなっていたか」
言いながらウルが顔を亀松百貨店の屋上へと向け、ギンとひとにらみ。
「ほぅ、アレが大江一門の秘宝のひとつを受け継いだという、からくり人形か。なるほど、うちのポンコツどもとはちがって優秀そうだな。暮来博士にはもっと頑張ってもらわないといけな……」
唐突にウルの言葉が途切れる。
そうさせたのは長剣による斬撃。問答無用にて首へと斬りかかってきたのは、目が覚めるような美剣士。
市内在住の佐々木アルフォート。
その正体は久万句弓一刀流(くまくていっとうりゅう)免許皆伝の猛者。ハスキーとドーベルマンのミックス犬にて、やせマッチョに銀の毛並みを持つ。四肢も鼻筋も長い美しい愛玩犬である。
闇堕ちし聚楽第へと傾倒する前の宮本めざしと切磋琢磨し、幾たびも刃を交えた剣豪。
彼もまた芽衣たち同様に、ウルが放った超ド級のどす黒い殺気を感じて、すぐさまお世話になっている宅を飛び出し、兎梅デパートへと駆けつけていたのである。
そしてそれは彼のみにあらず。
立体駐車場の最上階に張られたフェンス越しに、躍り出る人影が多数。
それらの正体は得物を手にしたサルたち。
高月の北部を縄張りとするシティサバイバー集団であるハイゼルコバ帝国と南部を縄張りとするケヤキ自由連合、双方が誇る勇猛なダンボール戦士たちが、いつものダンボール製の武器ではなくて、本物の白刃を手に参戦。帝国最強の暗黒騎士の姿もあった。
自然の中のみならず都会のコンクリートジャングル内をも自在に動けるサルたち。伊達に日頃から戦争ごっこに明け暮れているわけじゃない。圧倒的機動力を活かし素早く外壁をよじ登り、強襲を敢行する。
佐々木アルフォートの長剣が閃き、サルどもが四方八方から突き入れた切っ先が、ほぼ同時にウルへと襲いかかる。
逃げ場のない全方位攻撃。
これを受けて聚楽第の総帥の身がその場にて回転する。まるでマントをバサリと翻すかのような優雅な動き。
次の瞬間、長剣が半ばより折れ、佐々木アルフォートの身が吹き飛び、近くに駐車してあったワゴン車のフロントガラスを粉々に砕く。
暗黒騎士やダンボール戦士たちも全員が一蹴された。
いかに威力を抑えていたとはいえ、零号の怪光線の直撃を受けてもなお、他を圧倒するウル。
なのに、なおも果敢に挑む者が続く。
吹き飛ばされた面々と入れ替わるように突撃したのは、ヒグマの玄さん。草野球チーム「リアルベアーズ」の一員にして、獣空手の有段者。ふだんはトラック野郎として働き、妻と子を養っている。かつて「禍つ風」と名乗り猛者狩りをしていた出灰桔梗に破れたのを機に一念発起。おかげですっかりたるんでいたお腹まわりがふたまわりほどサイズダウンしている。
「チェストォォオオオォォォーッ!」
腹の底から絞り出した雄叫びとともに放たれたのは正拳突き。基本技にしてシンプルかつ、もっとも実戦的な一撃。
練り込まれた気がこもった拳がウルの顔面にヒットっ!
たまらずのけぞったウル、だがしかしすぐさま体勢を戻し、頭突きにてヒグマの玄を無造作に打ち倒す。
どうと横倒しになる玄さん。
しかし倒れる直前、玄さんがおれの方を見てニヤリ。
玄さんの目が語っていた。
「おいおい、尾白よ。いつまで呆けていやがるんだ? そろそろこの野郎に一発キツイのをかましてやれよ」と。
その刹那、おれは自分にまとわりつく呪縛がプツプツ切れていくのがわかった。
下腹にて化けヂカラがギュルギュル回転し唸りをあげる。
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