おじろよんぱく、何者?

月芝

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582 巨人兵ベータ

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 化石燃料も電力も不要にて排ガスもゼロという、ダンボールカーに揺られ連れて行かれたのは、高月北部の山間部某所にある大型のプレハブ倉庫。

「ここは?」

 おれがたずねると紫苑は「わたしの工房のひとつ。大きい作品になると、商店街のところじゃさすがに手狭だから」と答えた。

 紫苑はその特技を活かして会社を経営している。
 なんでもかんでもダンボールで再現するということを、大真面目に行っているだけなのだが、卓越したセンスにより産み出される製品はバカ売れ。
 特に災害時に活躍する折りたたみベッドや、トイレ、プライベートスペースを確保するための仕切りなどが高く評価されて、世界中から注文が殺到しており、会社の業績は創設以来ずっと右肩あがりを続けている。

 だものでおれは以前にこう言ってやったものである。

「ハイゼルコバ帝国の連中、全員、雇用してやれば、仲良くシティサバイバー生活から卒業できるんじゃねえの?」と。

 けれども紫苑は「うーん、それはたぶん無理」と首を横に振った。

「だって、あれは信条とか生き方の話だから。彼らはああいう暮らしが気に入っているの。お金とか住まいだけの問題じゃないのよ」

 せっせと拾い集めたダンボールにてハウスを作り、ベッドをこさえての路上キャンプ生活。寒空の下、適度に街のおこぼれを頂戴しては、自由を謳歌しつつ、日々をのんべんだらりと過ごし、たまに南の連中と合戦ごっこに明け暮れる。そして気が向けば山に戻って、自然を満喫したりもする。
 そんなお気楽極楽なサルたちに、いまさらネクタイ締めての会社勤めなんぞができるわけもなく……。

  ◇

 見上げるほどの倉庫のシャッターがゆっくり開いていき、あらわとなる内部。
 そこはまるでロボットアニメに登場する基地のようであった。
 片膝をついた形にて鎮座しているのは、ダンボール巨人兵。
 だが以前の戦役時に大暴れしていたものに比べると、ふたまわりほど小さい。

「ロボットがいる、なんで!」
「かっこいい!」

 わけがわからないうちに山奥へと連れてこられたら、ダンボール製のロボットが待っていたもので、子どもたちは興奮するやら目をぱちくりさせるやらで、大忙し。おれもあんぐり。
 そんなこちらの反応にしてやったり顔の紫苑。フフンと鼻高々にて解説を始める。

「この子の名前は巨人兵ベータ。前回の反省を踏まえて小型軽量化したのみならず、水にも強い撥水塗料にて三重コーティングも施してあるから、雨だろうが老朽化した水道管が破裂しようがへっちゃら。
 でもね、改良されたのは外見だけじゃないのよ。
 新開発したダンボールギアを組み合わせることにより、動かすのに必要なエネルギーも大幅カットに成功した。これにより従来の猿力駆動式の半分ほどで、戦場を縦横無尽に駆け回る機動力を実現したの。
 ふふふ、これで戦の様相は一変するわ。
 ダンボール戦役は新たな時代を迎えるのよ」

 お手製のダンボールの防具を身にまとい、ダンボールの武器を手にサルどもが苛烈な肉弾戦をくり広げるダンボール戦役。
 過酷な戦場を、鉄の七か条を胸に誇り高く駆けるダンボール戦士たち。
 勇猛果敢な彼らの独壇場であった戦場に、新型が投入されると聞かされて、おれはおもわずゴクリとツバを飲み込んだ。

  ◇

 巨人兵ベータの周りでは作業着姿のスタッフたちが、せっせと働いている。
 それを眺めながら、振る舞われた番茶をすすり、塩せんべえをかじりながら待つことしばし。

「紫苑さま、準備完了しました。これより搭乗します」

 そう言って、ビシっと敬礼してきたのはフルフェイスのヘルメットを小脇抱え、パイロットスーツを着た青年。

「あれ? 平成じゃねえか。おまえが乗るのかよ」
「はい、尾白さん。ご無沙汰しております」

 彼の名は結城平成(ゆうきひらなり)。
 表向きはやや陰気な青年にしてクラフトワークスの社員。しかしてその実態はハイゼルコバ帝国、最強のダンボール戦士にて、伝説の聖剣・エックスカリバーを授けられた暗黒騎士である。
 父は帝国と敵対しているケヤキ自由連合の大将軍である結城現代(ゆうきげんだい)、妹は反戦主義をかかげるレジスタンスのメンバーである結城明星(ゆうきあけぼし)というややこしい背景を持つ男なのだが……。

「ねえねえ、探偵さん。このお兄ちゃんと知り合いなの?」

 パイロットという存在に羨望の眼差しを向けながらたずねてくる愛ちゃん。
 おれはこっそり「あぁ、このお兄ちゃんは、紫苑におんぶに抱っこのヒモ野郎だよ。あとガチのロリコンだから半径一メートル以内に近づいちゃダメ」と教えてやる。
 とたんに幼女はスンとした能面となり、道端に落ちているイヌのクソでも見るかのような目になった。
 望にいたっては紫苑と結城平成を何度もキョロキョロ見比べては「わからない。ぼくにはわからない。男と女っていったい……」と困惑していた。

 結城平成は紫苑とイチャコラしてから、機体胸部にあるコクピットへと乗り込む。
 巨人兵ベータ、起動!


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