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578 我が街のSDGs
しおりを挟むSDGsとは、持続可能な開発目標を指す言葉。
人類がこの星で暮らし続けるために達成すべきこと。
目標は十七項目。
その一、貧困をなくそう。
その二、飢餓をなくそう。
その三、すべての人に健康と福祉をご提供。
その四、みんなが質の高い教育を受けられるようにする。
その五、ジェンダー平等の実現。
その六、安全な水とトイレを世界中に標準装備。
その七、エネルギーの恩恵をみんなに、そしてクリーンに。
その八、経済成長して、働きがいも創出しよう。
その九、停滞は淀みを産む原因。産業と技術革新の基礎をつくろう。
その十、人や国の不平等をなくそう。
その十一、だらだら住み続けられる街づくり。
その十二、作る責任、使う責任。
その十三、気候変動に負けないぞ!
その十四、海を守ろう!
その十五、陸も守ろう!
その十六、平和と公正な世界を目指そう。
その十七、パートナーシップで目標を達成しよう。
ちょっと項目、多くない?
さすがに無理があるだろう。欲張り過ぎじゃね?
新聞紙面での初見時に、おれなんぞはおおいに首をひねったものであった。
あと、動物サイドの率直な感想としては「自分たちで散らかしておいて、いまさら後始末を手伝えと言われても困る」である。
とはいえ世間では、社会を変革すべくエス・ディー・ジーズの活動が盛り上がりをみせている。
国もようやく重たい腰をあげようとしている。
ただし成功するかどうかは怪しいところ。だってこの手の活動って勢いがあるのは最初だけで、尻すぼみにて自然消滅ってのがパターンなんだもの。
◇
ではどうしてSDGsの話題をおれが急に口にしたのかというと、原因は目の前に座るお子ちゃま男女二人連れにある。
探偵事務所の来客用ソファーにちょこなんと座る幼児たち。
賢しらな鳥の巣頭の男子は、白妙望(しろたえのぞむ)。
金髪リーゼントのヤンキーヘビ娘であるタエちゃんが溺愛している小学二年生の弟くんだが、その性格や容姿は姉とは真逆の優等生である。
その隣にて出されたオレンジジュースを美味しそうに飲んでいるのは、瀬尾愛(せおあい)。
かつていまは亡き父親より貰ったというブローチを失くしたときに、捜索依頼を受けたのが縁で知り合った女の子。こちらはショートボブの髪型がよく似合い、性格も素直な子。
ちなみにおませな望は愛ちゃんにベタ惚れ。ことあるごとに彼女の周辺をうろちょろしてはアピールしているのだが、いまのところはまだ仲のいいお友だち止まり。
いくら算数が得意な優等生であろうとも、恋の方程式だけはいかんともしがたいのである。
まぁ、それはさておき。
「はぁ? エス・ディー・ジーズの活動実態について、調べたいので協力して欲しいってか。へー、最近の学校ではそんなややこしい宿題も出されるのか。いまどきのガキはたいへんだなぁ。
でも、そんなもの、インターネットで調べて、それっぽい情報をコピーとペイストの継ぎ接ぎ、ちょちょいのちょいなんじゃねえの? わざわざ街に繰り出して調べるまでもないだろうに」
なんだかとてもめんどうくさそう。
なのでおれは適当にお茶を濁そうとするも、すかさず「ダメだよ」「ダメ!」と幼児二人から責められタジタジとなる。
「今度、班ごとに発表会があるから、いい加減なことはできないよ。きちんとしないと」とマジメな望。
「一番に選ばれたら、メダルがもらえるの」とは愛ちゃん。
担任の先生特製の「よくできましたメダル」は、子どもたち垂涎の品。
折り紙なんぞでこしらえたチャチな品ではない。
趣味のハンドメイドを活かした金属鋳造により、型から作る本格仕様。五百円玉サイズのメダルの表面には、生徒のオリジナル似顔絵イラストが刻まれる。それがカメオの彫刻ばりに繊細かつ美麗にて、「いっそのこと教師やめてこっちの道で食べていけば?」と唸る出来栄えなんだとか。
先生に褒められ、認められないかぎりは絶対に手に入れられない品。
それをいくつ所持しているかが、クラス内ヒエラルキーにも直結するとのこと。
なおテストで連続十回百点満点という前人未踏の偉業を成し遂げた望は、すでに自分のメダルを所持している。
しかし愛ちゃんはまだ持ってない。
いろいろとがんばってはいるけれどもあと一歩およばず。メダル獲得には至っていない。
そんな時に降ってわいたのが、今回の発表会の件。
愛ちゃんはチャンスだと思った。「個人ではダメでもチーム戦ならば」と期待を寄せる。
そして彼女にメロメロな望は「愛ちゃんに協力していいところをみせられる」とはりきっている。
くしくも利害が一致したところで調査活動スタート。
活動に際して望はまず班を二つにわけた。内向きにネットや書籍から情報を集める者と、外向きに活動実態を調べる者とに。
そしてしめしめ、ちゃっかり愛ちゃんと二人きりで外回りをすることになったものの、幼児らがいきなり押しかけて「SDGsどうですか?」とたずねたところで、ろくに相手をされるわけがない。適当にあしらわれるのがオチだ。
そこで二人が思いついたのが街の探偵屋さん。
高月の地に精通し、無駄に顔が広い彼を頼れば、調査もサクサク進むはずと考えた次第。
幼児らから仲介役を頼まれて、おれは腕を組み思案する。
望の頼みを断われば、姉のタエちゃんがきっとぶち切れる。そうなれば芽衣やらミワちゃんなど周囲にも怒りが波及して、おれの立場は極めて悪くなるだろう。
一方で愛ちゃんだが、彼女はおれのことを妙に買いかぶっている。尊敬の眼差しをつねに向けてくるのが少々プレッシャー。ではあるが反面クセになる心地良さがあるのも事実。
「しゃーねえなぁ」ぼりぼり頭をかいたおれは重い腰をあげる。「とりあえず商店街でもまわってみるか」
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