おじろよんぱく、何者?

月芝

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558 手のひらの上でダンシング

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 気を失っている慈景信彦を引きずって、詐欺集団が拠点としている部屋へと向かうとすでに制圧が完了しており、芽衣とタエちゃんが倒した相手を縛りあげているところであった。

「ついでにこいつも頼む」

 主犯の身柄を芽衣たちに預けて、おれが愛用のガラケーにて連絡をとったのはカラス女。

「まとめてふん縛っておいたから、あとはよろしく」
「了解、十分後に踏み込むから、その前に立ち去れ」

 というわけで、あとは警察にまかせて探偵と助手および助っ人は、すみやかに撤収。

  ◇

 強襲作戦が実行された翌日。

「ありがとうございます、ありがとうございます」

 と何度も頭を下げているのは依頼人の岩原里美。騙し盗られた現金が戻ってきて感謝感激といったところ。
 付き添いの友人である近柄雅子も「やるじゃない、さすがはワンヒールさまのライバルなだけあるわ。ちょっと見直したかも」とちっともうれしくない誉め言葉を口にする。
 かくして依頼は無事に完了。
 依頼人たちはホクホク顔で事務所をあとにする。
 先に外へと出た岩原里美、それに近衛雅子が続こうとしたタイミングで、おれは声をかける。

「毎度毎度、ひとの事務所に変装してやってくんじゃねえよ、怪盗ワンヒール」

 立ち止まった近衛雅子がゆっくりとふり返る。
 先ほどまでのやや勝ち気な女子大生という雰囲気が霧散しており、まるで別人のような気配を漂わせている。

「おや、バレていましたか。我ながら完璧に化けたとおもっていたのですが、いったいいつから気がついていたのですか、尾白探偵」

 容姿はそのままに、声音が女性のそれから男性のモノへと変わっていた。

「怪しいと思ったのは最初っからだ。ファンが集う掲示板経由で紹介されたとかいう話。おまえのところのサイトじゃあ、おれは毎回、コテンパンにしてやられる三枚目の引き立て役だからな。掲載されている記事や、二次制作の小説とかに目を通したら、ふつうはおれのところになんて依頼には来ないよ」
「それほど自分を卑下しなくとも。少なくとも私は貴方の実力や人柄を高く評価しているのですがねえ」
「そいつはどうも。で、念のために詐欺グループを調べるついでに依頼人関連の背景もざっと洗ってみたら、あら不思議? 現在、近衛雅子はスペイン旅行の真っ最中ときたもんだ。だとすれば誰かが彼女になりすましていることになる。だが単なるなりすましじゃねえ。完璧に化けて、近しい友人の目すらをも欺いている。そんな器用なマネが出来るヤツをおれは一人しか知らない」
「なるほど、そうだったのですか。さすがです、尾白探偵」
「ふん、それよりもわからねえのが、どうしておまえがそこまでしたのかってことだよ」
「あぁ、それですか。なぁに至極簡単な話ですよ。私の活動のよき理解者である娘さんがとても困っていらっしゃったのを、たまさか聞きつけましてね。とても見過ごすことは出来ないと義侠心にかられまして」
「義侠心ねえ。まぁ、そういうことにしておいてやる。だがおれを巻き込んだん理由は? おまえなら忍び込んでまんまと盗み出すことも可能だったんじゃないのか」
「はい。ですが、それでは連中は野放しですから。私、キライなんですよね。ああいう連中」
「同感だな。おれもすかん」
「だと思いました。そこで尾白探偵にご出馬を願ったというわけです。貴方のことだから、きっと安倍野京香さんに渡りをつけてくれると」
「ちっ、全部が全部折り込み済みってわけか。あいかわらずイケ好かねえヤツだぜ」

 まんまと手のひらで踊らされていたとわかって、おれがガシガシ自分の頭をかきむしったところで、表から聞こえてきたのは「あれ、近衛さんどうかしたの?」という岩原里美の声。
 先に事務所を出て階段を降り始めたはいいものの、あとから来るはずの友人がいっこうに姿をみせないゆえの呼びかけ。
 これに怪盗ワンヒールが変装している近衛雅子が女性の声音にて「ううん、大丈夫。すぐ行くから」と返事。
 そのやりとりを前にして、おれはシッシッと手を振り「とっとと行け」と言った。
 すると怪盗ワンヒールは「では、また」とにこりと微笑む。
 が、去り際に気になるひと言を残していく。

「そういえば彼らが全国遠征を終えて帰ってくるそうですよ」と。


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