537 / 1,029
537 秘密の部屋
しおりを挟む停電により闇に支配された洋館にて、突如として鳴り響いたのは乙女の悲鳴!
すわっ、ついに事件が起きたのか?
急いで声が聞こえた方へと向かう探偵と助手。
現場は二階廊下の突き当り、ひと際立派な両扉がある書斎。
開け放たれた扉をくぐると、まず目に飛び込んできたのは床に転がるペンライト、そこから少し離れたところにて姫ちゃんとお供二人がそろって腰を抜かしているではないか。
ざっと見た限りでは外傷の類は見当たらない。とりあえず彼女たちは無事なよう。
芽衣が小さく「チッ」と舌打ちしたのには気づかなかったフリをして、おれは姫ちゃんらに駆け寄る。
「おい、どうした? いったい何があったんだ」
するとイヤイヤと顔をそむけながらも、姫ちゃんがとある方を指差す。
彼女が指し示していたのは部屋の反対側に設置されてあった本棚。壁面全体が棚になっているタイプ。本好きならば一度は憧れる「ザ・書斎の本棚」である。
その右端にちょうど人がひとり通り抜けられるぐらいの穴がぽっかり開いていた。
「隠し通路か……」
山奥の不気味な洋館に相応しい、怪しさ満点の仕掛けが登場。
着々と整いつつある舞台。
うーん、ミステリー風味がどんどんと増していく。
さりとて姫ちゃんたちの怯えっぷりがちょいと尋常ではない。
あの奥にいったい何があるというのか。
その時、おれの袖をつまんでチョンチョンと引っぱったのは助手の芽衣。
「ねえねえ、四伯おじさん。わたし、とってもイヤな予感がするんですけど」
「奇遇だな、芽衣。おれもだ。そしてなんとなくその正体というか、原因に心当たりがあるんだが」
そもそもの話として、この別荘の洋館は誰の持ち物なのか?
ということを考えれば、真相はおのずと見えてくる。
洋館の持ち主は、光瀬菜穂。
高月の地に生息する数多の変態の中でもトップクラスの真性のど変態。
フェロモンむんむんなクールビューティー。爆乳白衣姿の破壊力が抜群の美人女医。
しかしその正体はウシ女にして、解剖マニアのマッドサイコドクター。
はっきり言って、頭のネジがいろいろイっちゃっている女である。
そんな女が人里離れた僻地にかまえた別荘。ただの閑静な別荘なわけがなかったのである。
床に転がっているペンライトを拾い、探偵と助手は隠し通路の奥へと踏み込む。
進んだ先にあった光景をまのあたりにして、おれと芽衣はそろって嘆息。
「……あーあ、やっぱり」
「……ですよねぇ」
悪の秘密結社がさらってきた人間を改造するのに使うような、風情ある手術室。
怪しげなホルマリン漬けがびっちり飾られた戸棚は、さながら光瀬女医の秘蔵コレクションとでも称すべきか。やたらと充実の品揃え。
どうやら姫ちゃんたちはこれらを見てびっくり! 腰を抜かしてしまったらしい。
まぁ、それも無理からぬこと。
光瀬菜穂という人物のことをよく知るおれと芽衣からすれば、この場所はあってしかるべきシロモノ。
けれどもまったく知らない第三者からすれば、ただのヤバい施設である。
加えて彼女たちは今どきの若者。感受性豊かにて、周囲の影響を受けやすく、思い込みがやや強めの傾向があることからして、きっとホラー映画やらゲームに小説、アニメなんかのスプラッタな妄想をモンモンとたくましくしていることであろう。
秘密の部屋の登場により、状況がいっそうややこしくなった。
探偵と助手は「なんてこったい!」とおおいに頭を抱える。
「よりにもよってこのタイミングで存在が発覚するとは、なんて間の悪い」
「困りましたね。彼女たちのあの怯えっぷりからして、めちゃくちゃ誤解してそうですよ」
「とはいえ正直に話したところで誰が信じる?」
「………………下手をするとこっちまでマッドの仲間だと認定されかねませんね」
「誤解の果てに疑心暗鬼がつのってパニックにでもなったら、最悪、おれたちに矛先がきかねんぞ」
「返り討ちにするのはたやすいですけど。どうします、四伯おじさん?」
「うう~ん、そうだなぁ」
おれは腕組みをして、ムムム。なるべく穏便にことをすます方法を思案することしばし。
◇
隠し部屋から書斎に戻ると、悲鳴を聞きつけた一同がその場に会しており、案の定、この屋敷の持ち主の関係者とおぼしきおれたちへの詰問が始まりかけたところで……。
「すまんが、わからん。おれたちも知り合いの伝手を頼って、ここをたまさか借りただけだからな」
「そうなんですよぉ。いやぁ、びっくりしたなぁ、もう」
おれと芽衣はぬけぬけと空とぼけた。
この特殊な状況下において、いらぬことを口走ったところで相手に疑念を抱かせるだけのこと。ならば毒を喰らわば皿まで。知らぬ存ぜぬを貫く。
しかしこの開き直りがじつに堂にいっていたもので功を奏す。どうにか誤魔化すことに成功した。
0
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
柳鼓の塩小町 江戸深川のしょうけら退治
月芝
歴史・時代
花のお江戸は本所深川、その隅っこにある柳鼓長屋。
なんでも奥にある柳を蹴飛ばせばポンっと鳴くらしい。
そんな長屋の差配の孫娘お七。
なんの因果か、お七は産まれながらに怪異の類にめっぽう強かった。
徳を積んだお坊さまや、修験者らが加持祈祷をして追い払うようなモノどもを相手にし、
「えいや」と塩を投げるだけで悪霊退散。
ゆえについたあだ名が柳鼓の塩小町。
ひと癖もふた癖もある長屋の住人たちと塩小町が織りなす、ちょっと不思議で愉快なお江戸奇譚。
後宮の記録女官は真実を記す
悠井すみれ
キャラ文芸
【第7回キャラ文大賞参加作品です。お楽しみいただけましたら投票お願いいたします。】
中華後宮を舞台にしたライトな謎解きものです。全16話。
「──嫌、でございます」
男装の女官・碧燿《へきよう》は、皇帝・藍熾《らんし》の命令を即座に断った。
彼女は後宮の記録を司る彤史《とうし》。何ものにも屈さず真実を記すのが務めだというのに、藍熾はこともあろうに彼女に妃の夜伽の記録を偽れと命じたのだ。職務に忠実に真実を求め、かつ権力者を嫌う碧燿。どこまでも傲慢に強引に我が意を通そうとする藍熾。相性最悪のふたりは反発し合うが──
このたび、小さな龍神様のお世話係になりました
一花みえる
キャラ文芸
旧題:泣き虫龍神様
片田舎の古本屋、室生書房には一人の青年と、不思議な尻尾の生えた少年がいる。店主である室生涼太と、好奇心旺盛だが泣き虫な「おみ」の平和でちょっと変わった日常のお話。
☆
泣き虫で食いしん坊な「おみ」は、千年生きる龍神様。だけどまだまだ子供だから、びっくりするとすぐに泣いちゃうのです。
みぇみぇ泣いていると、空には雲が広がって、涙のように雨が降ってきます。
でも大丈夫、すぐにりょーたが来てくれますよ。
大好きなりょーたに抱っこされたら、あっという間に泣き止んで、空も綺麗に晴れていきました!
真っ白龍のぬいぐるみ「しらたき」や、たまに遊びに来る地域猫の「ちびすけ」、近所のおじさん「さかぐち」や、仕立て屋のお姉さん(?)「おださん」など、不思議で優しい人達と楽しい日々を過ごしています。
そんなのんびりほのぼのな日々を、あなたも覗いてみませんか?
☆
本作品はエブリスタにも公開しております。
☆第6回 キャラ文芸大賞で奨励賞をいただきました! 本当にありがとうございます!
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
あやかし狐の身代わり花嫁
シアノ
キャラ文芸
第4回キャラ文芸大賞あやかし賞受賞作。
2024年2月15日書下ろし3巻を刊行しました!
親を亡くしたばかりの小春は、ある日、迷い込んだ黒松の林で美しい狐の嫁入りを目撃する。ところが、人間の小春を見咎めた花嫁が怒りだし、突如破談になってしまった。慌てて逃げ帰った小春だけれど、そこには厄介な親戚と――狐の花婿がいて? 尾崎玄湖と名乗った男は、借金を盾に身売りを迫る親戚から助ける代わりに、三ヶ月だけ小春に玄湖の妻のフリをするよう提案してくるが……!? 妖だらけの不思議な屋敷で、かりそめ夫婦が紡ぎ合う優しくて切ない想いの行方とは――
天界アイドル~ギリシャ神話の美少年達が天界でアイドルになったら~
B-pro@神話創作してます
キャラ文芸
全話挿絵付き!ギリシャ神話モチーフのSFファンタジー・青春ブロマンス(BL要素あり)小説です。
現代から約1万3千年前、古代アトランティス大陸は水没した。
古代アトランティス時代に人類を助けていた宇宙の地球外生命体「神」であるヒュアキントスとアドニスは、1万3千年の時を経て宇宙(天界)の惑星シリウスで目を覚ますが、彼らは神格を失っていた。
そんな彼らが神格を取り戻す条件とは、他の美少年達ガニュメデスとナルキッソスとの4人グループで、天界に地球由来のアイドル文化を誕生させることだったーー⁉
美少年同士の絆や友情、ブロマンス、また男神との同性愛など交えながら、少年達が神として成長してく姿を描いてます。
高校生なのに娘ができちゃった!?
まったりさん
キャラ文芸
不思議な桜が咲く島に住む主人公のもとに、主人公の娘と名乗る妙な女が現われた。その女のせいで主人公の生活はめちゃくちゃ、最初は最悪だったが、段々と主人公の気持ちが変わっていって…!?
そうして、紅葉が桜に変わる頃、物語の幕は閉じる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる