おじろよんぱく、何者?

月芝

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537 秘密の部屋

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 停電により闇に支配された洋館にて、突如として鳴り響いたのは乙女の悲鳴!
 すわっ、ついに事件が起きたのか?
 急いで声が聞こえた方へと向かう探偵と助手。

 現場は二階廊下の突き当り、ひと際立派な両扉がある書斎。
 開け放たれた扉をくぐると、まず目に飛び込んできたのは床に転がるペンライト、そこから少し離れたところにて姫ちゃんとお供二人がそろって腰を抜かしているではないか。
 ざっと見た限りでは外傷の類は見当たらない。とりあえず彼女たちは無事なよう。
 芽衣が小さく「チッ」と舌打ちしたのには気づかなかったフリをして、おれは姫ちゃんらに駆け寄る。

「おい、どうした? いったい何があったんだ」

 するとイヤイヤと顔をそむけながらも、姫ちゃんがとある方を指差す。
 彼女が指し示していたのは部屋の反対側に設置されてあった本棚。壁面全体が棚になっているタイプ。本好きならば一度は憧れる「ザ・書斎の本棚」である。
 その右端にちょうど人がひとり通り抜けられるぐらいの穴がぽっかり開いていた。

「隠し通路か……」

 山奥の不気味な洋館に相応しい、怪しさ満点の仕掛けが登場。
 着々と整いつつある舞台。
 うーん、ミステリー風味がどんどんと増していく。
 さりとて姫ちゃんたちの怯えっぷりがちょいと尋常ではない。
 あの奥にいったい何があるというのか。
 その時、おれの袖をつまんでチョンチョンと引っぱったのは助手の芽衣。

「ねえねえ、四伯おじさん。わたし、とってもイヤな予感がするんですけど」
「奇遇だな、芽衣。おれもだ。そしてなんとなくその正体というか、原因に心当たりがあるんだが」

 そもそもの話として、この別荘の洋館は誰の持ち物なのか?
 ということを考えれば、真相はおのずと見えてくる。
 洋館の持ち主は、光瀬菜穂。
 高月の地に生息する数多の変態の中でもトップクラスの真性のど変態。
 フェロモンむんむんなクールビューティー。爆乳白衣姿の破壊力が抜群の美人女医。
 しかしその正体はウシ女にして、解剖マニアのマッドサイコドクター。
 はっきり言って、頭のネジがいろいろイっちゃっている女である。
 そんな女が人里離れた僻地にかまえた別荘。ただの閑静な別荘なわけがなかったのである。

 床に転がっているペンライトを拾い、探偵と助手は隠し通路の奥へと踏み込む。
 進んだ先にあった光景をまのあたりにして、おれと芽衣はそろって嘆息。

「……あーあ、やっぱり」
「……ですよねぇ」

 悪の秘密結社がさらってきた人間を改造するのに使うような、風情ある手術室。
 怪しげなホルマリン漬けがびっちり飾られた戸棚は、さながら光瀬女医の秘蔵コレクションとでも称すべきか。やたらと充実の品揃え。
 どうやら姫ちゃんたちはこれらを見てびっくり! 腰を抜かしてしまったらしい。
 まぁ、それも無理からぬこと。
 光瀬菜穂という人物のことをよく知るおれと芽衣からすれば、この場所はあってしかるべきシロモノ。
 けれどもまったく知らない第三者からすれば、ただのヤバい施設である。
 加えて彼女たちは今どきの若者。感受性豊かにて、周囲の影響を受けやすく、思い込みがやや強めの傾向があることからして、きっとホラー映画やらゲームに小説、アニメなんかのスプラッタな妄想をモンモンとたくましくしていることであろう。

 秘密の部屋の登場により、状況がいっそうややこしくなった。
 探偵と助手は「なんてこったい!」とおおいに頭を抱える。

「よりにもよってこのタイミングで存在が発覚するとは、なんて間の悪い」
「困りましたね。彼女たちのあの怯えっぷりからして、めちゃくちゃ誤解してそうですよ」
「とはいえ正直に話したところで誰が信じる?」
「………………下手をするとこっちまでマッドの仲間だと認定されかねませんね」
「誤解の果てに疑心暗鬼がつのってパニックにでもなったら、最悪、おれたちに矛先がきかねんぞ」
「返り討ちにするのはたやすいですけど。どうします、四伯おじさん?」
「うう~ん、そうだなぁ」

 おれは腕組みをして、ムムム。なるべく穏便にことをすます方法を思案することしばし。

  ◇

 隠し部屋から書斎に戻ると、悲鳴を聞きつけた一同がその場に会しており、案の定、この屋敷の持ち主の関係者とおぼしきおれたちへの詰問が始まりかけたところで……。

「すまんが、わからん。おれたちも知り合いの伝手を頼って、ここをたまさか借りただけだからな」
「そうなんですよぉ。いやぁ、びっくりしたなぁ、もう」

 おれと芽衣はぬけぬけと空とぼけた。
 この特殊な状況下において、いらぬことを口走ったところで相手に疑念を抱かせるだけのこと。ならば毒を喰らわば皿まで。知らぬ存ぜぬを貫く。
 しかしこの開き直りがじつに堂にいっていたもので功を奏す。どうにか誤魔化すことに成功した。


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