おじろよんぱく、何者?

月芝

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504 口八丁

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 こうやって面と向かって蛇波羅怜美と対峙して、二言三言、言葉を交わしてわかったこと。
 それは彼女が他人からアレコレと指図されるのが大キライということ。
 でもって氷の女王との異名からもわかるとおり、ヘタに泣いて縋って情に訴えたところで逆効果と、おれは看破する。
 大文字桃子は面倒見のよい姉御肌だという。
 そういう気質の人間には適当に誤魔化したりせずに、本音をドーンとぶつけるのがよい。恥も外聞もかなぐり捨ててこそ、相手の胸襟を開き信を得られる。
 でも蛇波羅怜美のようなタイプにそれをやってもムダ。
 みっともない姿をさらせばさらすほどに、みるみる彼女の温度は下がり、心底見下げられて呆れられ相手にされなくなる。かといって利だけを賢しらに説いてもやはりダメ。露骨な思考誘導は反発を招く。
 彼女は冷酷なのではない。あくまでドライで冷徹なのだ。
 やるべきことを取捨選択し、やるべきでないことは一顧だにしない。
 ゆえに氷の女王を動かすには、彼女の中にある、彼女だけの行動規範、優先順位を刺激して、少しでもランクを上へと押し上げる必要がある。
 そこでおれは、まず第一投を放つ。

「ガングロ姫、茂木優里亜が消えた」

 事実のみを単刀直入に告げる。
 これを耳にした蛇波羅怜美は柳眉をわずかに動かすこともなく「それが?」と無関心な返事。
 思っていた以上に淡泊な対応。しかし予想の範疇にはある。そこでおれは淡々と言葉を続ける。

「近頃、彼女の周囲には不審な影がちらついていたらしい」

 第二投も事実の羅列。
 蛇波羅怜美は近くにいるタヌキ娘を警戒しつつ。

「……まわりくどい。よもやとは思いますが、もしかしてそれが私どもの仕業とお疑いですか?」

 自分で口にした言葉に目を細める蛇波羅怜美。声のはしばしには不機嫌さがにじみ出ている。
 おれは肩をすくめてみせては、やや大きく首を横に振りこれを即座に否定する。
 そしてすかさず第三投。

「詳細はまだわからん。だが八羅会の仕業ではないと断言できる」

 外部の人間、それも今日はじめて当校を訪れたばかりの探偵がそう言い切ったことに、若干の興味を覚えたのか、蛇波羅怜美の柳眉の端がわずかにピクリ。
 先をうながされたと判断し、おれは続けておしゃべり。

「八羅会と雷火組、きみと大文字桃子、いろいろと相違点が際立っているみたいだが、共通していることもある。それは向かってくる相手には堂々と立ち向かい、これをねじ伏せようとする気概の持ち主だということ。でなければ、これほど表立っての乱闘騒ぎなんて起こすはずがない」

 姑息な手段をとろうとすれば、いくらだって可能だろう。
 でも両陣営ともにあくまで直接対決にての決着を望んでいることは、グランドの現状が証明している。
 世紀末学園が求めているのは、この学園の生徒たちが欲しているのは、自分たちが拝するにふさわしい絶対王者。
 ゆえにいかに賢かろうとも卑怯卑劣な小物なんぞは願い下げなのである。

 玉座にもっとも近いところにいるのが蛇波羅怜美と大文字桃子の両雄。
 ここで相手を叩きのめし決着をつければ、あるいはその玉座が手に入るのかもしれない。だがしかし……。
 おれはここで第四投を放つ。

「えー、こほん。いまから仮定の話をする。でも、かなり確率は高いと思うからそのつもりで」

 との前置きをしてからおれは自説を展開する。

「もしも、だ。一連の騒動の裏に誰かがいて……、というかこれは十中八九いると断言できる。なにせおれ自身が謎の二人組に拉致されて、合戦を引き起こす火種にされたからな。問題は彼女たちがあくまで実行犯に過ぎないということ。そして狙い通りに騒ぎが起きてご覧の通りだ。あげくのはてにみなの注意がグランドに集まっている隙に、ガングロ姫ちゃんが消えた。ずっと彼女をつけ狙っていた輩がいて、たまさか今回の騒動が起こったから利用した? その可能性もまったくないとは言えないが、あんまりにも都合が良すぎるだろう。ふつうに考えればつけ狙っていた輩が働きかけたと考えるのが妥当だ」

 ここでいったん言葉を切ったおれはタバコをとりだし火をつける。おれ自身が落ち着くことと、氷の女王を焦らすのが狙い。
 そして頃合いを見計らって次なる第五投を放つ。

「そういえば茂木優里亜は過去に誘拐事件に巻き込まれたことがあったよな? そこにいる大文字桃子の活躍でことなきをえたというけど、その時の主犯格の男っていま……」

 おれはそこでピタリと口をつぐんだ。あえてこれ以上は語らない。
 断定はできないし、なんら確証もないからだ。
 だから続きは聞く者の想像にまかせる。

 さて、この話を聞いた者はどう考えるであろうか?

 たいていすぐに思い浮かぶのは「復讐」とか「逆恨み」なんぞの物騒な単語であろう。
 なにせ相手は保険金詐欺を画策し、うまくいかないとなると保険屋の外交員の娘をさらって、無理矢理に言うことをきかせようと考える阿呆だ。
 はっきり言って性根が腐っている。
 そんなヤツがほんの数年、刑務所のお世話になったところで会心するとはとてもとても。


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