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496 ガングロ姫
しおりを挟む乙女ゆめのか通信の記者であるウサギ娘の峰藍理子から、ひとしきり世紀末学園のレクチャーを受けたところで、今度はこちらの番。
メモ帳とペンを手に「さあさあ」と峰藍理子。熱心な取材攻勢を受けるままに、おれは自己紹介がてらかくかくしかじか、これまでの経緯を話す。
すると「なるほど」とうなづきつつ、峰藍理子は近くのパソコンの前に座っている部員に「ごめん、ちょっと茂木優里亜の情報を出してくれる?」と頼む。
新聞部には全校生徒の情報が網羅された独自のデータベースが存在している。
学校側が持つ履歴を追うだけの形式的なモノとはちがって、かなりプライベートなところにも踏み込んでおり随時更新されている。個人情報の塊にて作り込みが半端ないシロモノ。
カタカタカタ、見事なブラインドタッチにて検索をかけ、呼び出したデータをプリントアウト。
紙を受けとった峰藍理子はとたんに「あっちゃあ」とため息。
「どこかで聞いた名前だとおもったら、あー、あのガングロ姫ちゃんかぁ」
◇
茂木優里亜は大文字桃子と仲がよく、当然ながら雷火組に所属している。
そんな優里亜だが中学時代に一度、誘拐騒ぎに巻き込まれたことがあった。
地元の保険屋に勤める優里亜の母親。彼女が担当している中に性質の悪い連中がまぎれこんでいたらしく、保険金詐欺の支払いで散々にモメた。
あげくに優里亜が人質目的でさらわれてしまう。保険会社を丸ごと相手にすると分が悪いものだから、社員個人を狙った卑劣な犯行。「ごちゃごちゃうるせえ。とっとと払え。さもないと……」というわけである。
「もしも警察に報せたら……、どうなるかわかっているだろうな?」
というベタな脅しによって母親や営業所の面々がまごついている間に、さっさと動いたのが大文字桃子であった。
当時、すでに自分のチームを持っていた彼女は友人の窮地を知り、すぐさま仲間に招集をかけ奪還作戦を敢行した。
これが例の「港湾地区の決戦」である。
しかし保険金詐欺を仕掛けてきた者たちのバックには物騒な連中なんぞもついていたらしく、カチコミ合戦による激闘は拡大の一途をたどり、港湾地区は一時的に戦場と化す。
そしてこの出来事を経て、もとから仲がよかった茂木優里亜と大文字桃子の関係はよりいっそう強固なものとなる。
だがしかし、近頃またしても茂木優里亜の身辺をうろつく怪しい影が……。
◇
「どうやら尾白さんたちはちょっとタイミングが悪かったみたいですねえ」
峰藍理子は同情を示しつつプリントアウトした紙をシュレッダーにかける。
このシュレッダーは業務用にて、入念に木っ端みじんにするので個人情報はきちんと守られるのである。ちなみにデータベースが入っているパソコンはネット回線を繋げておらず、完全に独立した存在ゆえにハッキング対策もばっちりなんだと。
「だからっていきなり問答無用でボコろうとするのはどうよ?」
おれは肩をすくめ助手に同意を求めようとしたのだが、タヌキ娘は出された茶菓子のウナギパイをぼりぼり頬張っていた。
なんにせよ現状、茂木優里亜に近づくのはおもいのほかにムズカシイということ。
そりゃあ本気で接触しようと思えば手段を選ばなければどうとでもなる。しかし過去の体験を踏まえた上でやや疑心暗鬼になっている相手にごり押しするのは得策ではない。
依頼人の意向に添う最良の結果を得るためには、ここは慎重に行動すべき。
下校途中に待ち伏せや、家に押しかけるのは論外。
となれば誰か仲介の労をとってくれる人物がいてくれると助かるのだが……。
期待を込めたまなざしにておれは峰藍理子をじーっと見つめる。
タヌキ娘はおかわりを所望してじーっと見つめる。
すると根負けしたウサギ娘が早々に降参。
「わかりました、わかりましたよ。確約はできませんけど、なんとか面会できないかやってみます。ただし、かわりに今回の一件の密着取材をさせてもらいますからね。『十円玉がつむぐえにしの結末やいかに』ってな感じで、特集記事を組ませてもらいますから」
とかくバイオレンスなネタばかりが踊る校内新聞の紙面。
たまには毛色のちがうネタも欲しいと願っていたところに舞い込んできた今回の一件。是が非でもスクープさせてもらうと意気込む峰藍理子。
おれとしても協力してくれるというのならば願ったり叶ったりである。
密着取材? フフン、どんと来い!
なんなら「尾白探偵の華麗なる名推理」で長期連載も……。
えっ、それはいらない、遠慮しておく、またの機会にだと。ちぇ。
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