おじろよんぱく、何者?

月芝

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462 思考ループ

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 綾ちゃん先生から芽衣が学校を休んでいるとの連絡を受けた。
 おれはすぐさま助手の携帯電話にかけてみるも不通となっていた。留守をしらたきさんにまかせ、ジャケットを引っ掴んで事務所を出る。
 向かったのは芽衣がひとり暮らしをしているワンルームのマンション。
 高月中央商店街より徒歩五分圏内ゆえに駅近に分類されている物件。
 ちゃっちゃと部屋の前まで行くなりインターフォンを鳴らす。しかし応答はなし。ドアを叩いてもなんら反応が返ってこない。
 おれは保護者という立場上いちおう合鍵を渡されている。
 合鍵を使いドアを開け、玄関先から奥をざっとのぞく。室内の様子にはあえて触れまい。若い娘のプライベートな空間。まぁ、いまどきの女子高生らしく、そこそこのだらしなさとだけ言っておこう。
 スンとわずかに鼻先をひくつかせ、室内の空気に触れたところでおれはすぐさまそこを出た。
 わざわざ入って調べるまでもない。
 数日留守にした宅特有の空気の淀み。家主が帰ってきた痕跡がまるでない。

  ◇

 芽衣のマンションを出たところで高月駅へと向かいがてら、出灰桔梗に電話をする。
 しかし繋がらない。時間的に高校の授業中ゆえに電源を切っていると思われる。念のために彼女の実家の「阿紫屋」にもかけてみようとするも、それは途中でやめた。
 もしも芽衣ともども桔梗まで行方不明となっていたら、母親の竜胆がおとなしくしているはずがない。いざともなれば我が子可愛さに、京の都は伏見稲荷に居を構え、高位の稲荷を押し戴き全国のキツネどもを従えている組織・裏千社(うらせんじゃ)すらをも動かすほどの女傑なのだから。

「うん? ちょっと待てよ。ということは、ひょっとしたら桔梗と道場でいっしょに出稽古うんぬんとかいう話そのものが怪しい。芽衣を誘い出すための罠という可能性もあるのか。しかしいったい誰が……」

 ぶっちゃけあちこちで騒動を起こしたり、巻き込まれたり、ケンカを売り買いしまくっているので、身に覚えがないとはとても言えない。
 おれはのらりくらり、わりと上手く矛先をかわしているが、タヌキ娘はつねに最前線にて直接相手をボコりまくっているから、目の仇にされやすいのかもしれない。
 ぱっとすぐに思いついたのは聚楽第(じゅらくてい)のこと。
 動物至上主義をかかげる過激派集団。望むと望まざるとにかかわらず何かとからむ機会があって、その都度結果として連中のたくらみを邪魔してしまっている。

「いや、この線はないか。殺るならわざわざ誘い出してどうこうせずとも、事務所にダイナマイトの一本でも放り込めばすむだろうし。暗殺や毒殺とかやりようはいくらでもある。こんなまどろっこしいマネをする意味がない」

 もしかしたら助手を囮にして、探偵を誘い出す算段か?
 とも考えたが、この筋立てにもムリがある。
 探偵と助手。おっさんとタヌキ娘。どちらが拉致するのに容易かといえば、断然おれであろう。
 誘い出すにしたって、依頼人を装って電話で表に呼び出せばホイホイ向かうだろうし。ましてや相手が美人だったら鼻の下をのばしているうちに、一服盛るなり後頭部をガツンと殴るなりすればいいだけのこと。
 けれども芽衣はちがう。
 蒼雷の二代目として売り出し中のタヌキ娘。伝説を継ぐだけあって実力はめきめき急成長中。下手にちょっかいを出したら返り討ちにされるのがオチだ。
 だったらまずはおれを人質にしてから、言うことを聞かせるほうがより現実的。

  ◇

 考えながら足を動かすうちに、はや高月駅へと到着。
 改札を抜けたところで、ちょうど京都行の電車がホームに入ってきたので、おれは急いで飛び乗る。

 昼下がりということもあり車内に乗客の姿はまばら。
 おかげで目的地までの時間、流れる車窓を横目にしながらのんびりと思索に耽ることができる。
 いったん席に落ち着いたところで、おれはふと思った。

「うーむ。やはり犯人の狙いは最初っから芽衣だったと考えるのが妥当のような気がする」

 でもそうなると相手にまるで心当たりがない。
 京都方面は背景がいろいろとややこしい。
 ゆえに尾白探偵事務所としては、この地に出来うるかぎり踏み込まない方向でずっとやってきた。
 それは芽衣が助手をする以前からの方針にて、だからこそ都の関係者に恨まれる筋合いもないわけで。
 ここで思考がループして、同じところをグルグル。
 どうやら結論を出すには大切なピースが足りないらしい。

「なんにせよ、土地勘のない場所でタヌキ娘を探すのはずいぶんと骨が折れそうだ。碁盤の目みたいな街並みに、秘密の通路や出入り口もわんさか。おれひとりだと迷子になるのがオチだし。ここはひとつ腕のいいガイド役が欲しいところだが、さて」

 向こうに到着してからの段取りを考えているうちに、じきに見えてきたのは京都タワー。新旧がごちゃまぜになっている独特の駅前風景において、あいかわらず突出した異彩ぶりを放っている。
 車内アナウンスが響き、おれは腰をあげた。


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