おじろよんぱく、何者?

月芝

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429 螺螺螺、燃える岩

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 宮本めざしの放った剣技・螺閃が参道の鳥居の列を薙ぎ倒したばかりか、神殿の土台部分のピラミッドを大きく破損する。
 咄嗟の判断により上空へと跳んで逃げた芽衣。無事に着地をしたのだが、そこへ狙いすました追撃が襲いかかる。

「舎乱螺二刀流、螺突」

 文字通り螺旋状の突き技。
 ただし規模が大きい。ちょっとしたトンネル工事でもするかのように、渦が地上を抉りながら進撃。
 着地直後の硬直により、芽衣が固まっているところに迫る!
 そのピンチを救ってくれたのは天井の崩落。
 螺突と芽衣との間に落ちた大岩が壁となり、わずかばかりとも時間を稼いでくれる。
 岩をもガリガリ砕きながら突き進む螺突。ようやく突き抜けたときには、すでにそこに芽衣の姿はない。
 ならばかわりにとばかりに、螺突もまたピラミッドにぶつかり痛打を与える。
 土台が二度の衝撃により大きく破損され、その上にあるパルテノン神殿もどきにも被害がおよぶ。

  ◇

 崩れた石材や石柱。散乱する瓦礫。もうもうと垂れ込める土煙。
 その中を身を低くして駆けていたのは芽衣。もちろん接敵して起死回生の一撃を見舞うため。
 相手の目論みを読んでいる宮本めざし。続けて大技を放つことはなく、動から一転して静のかまえをとった。
 ネコ剣客は五感を研ぎ澄まし、獲物が間合いに入るのをじっと待つ。

 宮本めざしの右側の靄がうねり、迫る者あり!
 すかさず小刀にて斬り伏せるも、それは投げつけられた鳥居の残骸。
 続けて正面の煙が割れる。何かが突っ込んでくるも大刀にて冷静に対処、ばっさり斬り上げる。
 大小二本を同時に使わせ、その隙に……。
 だから本命は次とにらんだ宮本めざし。ここにきて二刀流が本領を発揮する。左右別々の生き物のように暴れる大小がそろって向かったのは頭上。

「これしきの虚実、おれの二刀流を侮ったのがうぬの敗因だっ!」

 吠える宮本めざし。
 宙にて交差するようにして振り抜かれた大小の刃。
 背後上空より降ってきた敵影を的確にとらえる。
 だがしかし、直後に驚愕の表情を浮かべることになったのはネコ剣客。

「なっ、なんだと」

 大小の刃が斬ったのは、これまた鳥居の残骸であった。
 まさかの三連続のフェイント。
 では芽衣はいまどこに?
 おかっぱ頭のちんまい娘の姿は宮本めざしのすぐ目の前、腰よりも低い位置に伏せるかのようにあった。

「抜き身の刃を持つ剣士を侮る? そんな余裕、あるわけないでしょ」

 この局面にて芽衣が放ったのは狸是螺舞流武闘術、突の型、釣り鐘砕き・除夜の鐘バージョン。
 一撃にて屈強な大男をも悶絶させる拳。それを左右にて交互にくり出すこと、百と八発。

 横っ腹にフック気味に炸裂した一撃目。
 これを皮切りに、鳩尾、アバラ、腰、下腹など、主に胴体を中心にして炸裂する奥義。
 どうしてそうしたのかというと乱打ゆえに、いちいち狙いを定めてはいられないのと、より大きな的をと考えたときに腹回りが一番当てやすいから。
 だが他にも理由があった。
 それは……。

「がはっ、ぐっ、お、おのれぇえぇぇぇぇぇっ」

 怒涛の攻撃を喰らいならがも倒れることなく、宮本めざしは踏ん張り意地の反撃。
 途中から至近距離での二刀と拳が入り乱れての攻防となる。
 ほぼ零距離での対峙。ここは拳の間合い。
 とはいえ剣が封じられたときの対処法ぐらい、宮本めざしほどの剣客ならば持ち合わせている。
 刀をとっては当代随一の遣い手は、無手でもその辺の武道家よりもよほど強い。
 切っ先、刃、棟、柄頭、柄を握る拳、肘、膝……。
 剣身一体となりあらゆる部位を凶器として、攻撃を放ってくる。

 とてもではないがすべてをさばききれない。
 かといって一歩でも退けばたちまち剣の間合いとなって斬られる。
 芽衣も手傷を重ねてゆく。
 激しい動きが続く。ゆえにほぼ無酸素状態にあった芽衣。ついに乱れだし、技も粗くなり、攻め手より勢いが若干失せつつある。息があがるのはもはや時間の問題。
 一方の宮本めざし、負っているダメージがより深刻なのは火を見るよりも明らか。だというのに彼は笑っていた。
 ガリガリと命を削り合う戦いが楽しくて楽しくてしようがないとでもいうかのように。

  ◇

 鍛錬に費やした膨大な歳月。武人として生きてきた時間。身に宿した狂気じみた執念。戦いへの渇望。
 それらを引っ提げ宮本めざしがじりじりと盛り返す。
 ついに芽衣の身がぐらりと前に傾ぎ、このまま押し負けるのか?
 とおもわれたとき、大きく力強く踏み出されたのはタヌキ娘の足。
 乱打戦のさなかに、より深く、奥へと、臆することなくさらに一歩を踏み出す。

 死中に活を求める。
 いまどきそんな泥臭いことを実戦する小娘に宮本めざしが目を愉快そうに細めた、次の瞬間。

「狸是螺舞流武闘術、終の型、唯我独尊」

 芽衣の全身が蒼光を帯び、解き放たれたのは体内にて溜め込まれていたタヌキの悶々パワー。そいつが存分に込められた右の拳が唸りをあげて振り抜かれる。
 とてつもない衝撃を横っ面に喰らった宮本めざし。
 盛大に吹き飛ばされた身が二度、三度と地面や瓦礫にぶつかりバウンド。飛ばされるままに階段をものぼり切り、ついには上のパルテノン神殿もどきへと転がり込んだ。

 かくして刀と拳の対決、ついに決着。
 勝者、洲本芽衣。
 そうなりかけた矢先のこと。

 ドンっ!

 かつてないほどの強烈な突き上げ。視界が激しく上下し、ひと際大きな揺れが一帯を襲った。
 間髪入れずに天井をぶち抜いてあらわれたのは巨大な火の玉。
 燃える岩の正体は山の火口から吐き出された噴石。
 そんなシロモノが懐に宮本めざしを抱えている神殿を直撃!


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