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428 ネコとタヌキ
しおりを挟む連なる鳥居の列を挟んで対峙する両雄。
舎乱螺二刀流(しゃらんらにとうりゅう)、ネコ剣客の宮本めざし。
狸是螺舞流武闘術(りぜらぶるぶとうじゅつ)、タヌキ拳士の洲本芽衣。
刀と拳の戦い。
芽衣がゆっくりと神殿の方へ横移動するのに合わせて、宮本めざしも動く。
色褪せた朱色の鳥居の柱と何もない空間が交互する場所。
その景色に重なる双方の姿が、まるで映画フィルムのコマ送りのよう。
「あのあとアルフォートさんやチームメイトたち、すごく気に病んでた」
ぼそりと芽衣。
獣王武闘会にての突然の裏切りにより、チームを抜けて聚楽第に加担した宮本めざし。これまで切磋琢磨してきた友が、ただの人斬りに成り下がったことを残された者たちはおおいに憂う。特にわんにゃん運動会の「丸太橋の決闘」競技で勝ち星を競うライバルであった佐々木アルフォートの落胆ぶりは尋常ではなかった。
そのことを責める芽衣であるが、当の宮本めざしは「ふん」と鼻を鳴らしてまるで意に介さず。
「剣とは敵を斬るための道具であり、剣術はそのための武芸。それ以上でも以下でもない。ゆえに余計な馴れ合いこそが不要であったのだ。あの御方のおかげでおれはそのことに気がつけた」
どこか恍惚とした表情で宮本めざしが口にした「あの御方」という人物について、なおも芽衣が言及しようとしたのだが、そのとき天井より座布団ほどの大きさの岩が降ってきて、鳥居のひとつをぐしゃり。
「ふむ。あまりのんびりとはしていられぬようだな。洲本芽衣……、蒼雷の伝説を継ぐ者。はじめて見かけたときより、ずっと斬りたいと思っていた。さぁ、存分に死合おうぞ」
言うなり宮本めざしの姿が鳥居の陰に隠れた。
かとおもえばいきなり眼前に飛び出してきたのは、刀の切っ先。
鳥居の柱の裏から突き入れられた刃。
危うく顔面を串刺しにされかけた芽衣は、首をひねってからくもこれをかわす。
芽衣はすかさず柱の脇へと滑り込み反撃を試みる。だが、そこに敵影はなし。あるのは柱に突き刺さった大刀のみ。
意外な光景に芽衣が「えっ」と目を見開いたとき。宮本めざしの姿は鳥居の上から踊り出るところであった。小刀を手にこちらを串刺しにせんと降ってくる。
剣士というよりも忍びのような戦いぶり。
頭上を獲られたばかりか、体勢も悪く、反応も遅れた芽衣は迎撃を断念。ひとまず逃げに徹する。転がり鳥居の列内へと。
芽衣はすぐさま立ち上がり神殿方面へと向かい駆け出す。そして適当なところで狭い参道から抜けようとするも、そこに振るわれるのが宮本めざしの白刃。
この段になって遅ればせながら芽衣は自分が窮地に追い込まれたことを理解した。
ずらりと居並ぶ鳥居たち。
その列の内部に囚われたことにより、周囲が死角だらけ。
一方で宮本めざしは長い得物を持っているから、外よりブスブス突き放題。
ならば反対側から逃げたいところだが、背中を見せたが最後、銀の一閃。周囲の柱ごと斬り伏せられるは必定。宮本めざしから垂れ流される殺気と剣気が入り混じった気配が、無言にてそのことを告げている。
達人同士の戦いにおいて、序盤に地の利を押さえられたのはかなりの痛手。
芽衣は己のうかつさを悔やみつつ、いまは懸命に凶刃をかわすことに専念し、反撃の機が来るのを待つ。
だが敵も状況もタヌキ娘にのんびりと猶予を与えてはくれなかった。
ここしばらくおとなしくしていた島がふたたび騒がしくなる。山の方からは不穏な音が響き、足下は微震を繰り返す。そこいらに地割れが発生し、天井からは大小の石くれが降ってくる。
神殿のある空間全体がいつ大崩落を迎えてもおかしくない。
「ひさしぶりに活きのいい相手、できればゆっくりと斬り結びたかったが、そうも言っておれんか。しようがない。いちおう最後に聞いておく。おまえ、ともに聚楽第に来る気はないか。どうせその身に宿した武を持て余しているのであろう。どうだ? こちらにくれば存分に暴れられるぞ」
この誘いに芽衣は即答する。「断じて否っ!」
しばしの沈黙ののちに「そうか、わかった」とのつぶやき。
直後に放たれたのは宮本めざしの奥義。
「舎乱螺二刀流、螺閃」
大小による横薙ぎ。
宙に二本の線を刻むかのような斬撃。鳥居を次々と薙ぎ倒しながら、背後から芽衣の身へと迫る。
凄まじい剣での攻撃。
だからとて見切れぬほどに速いというほどでもない。
ゆえに芽衣はその場でしゃがむなり、ジャンプするなりしてやり過ごそうとするも、剣圧が迫るほどに、ゾクリと悪寒に襲われる。
「これは……、中途半端によけたらダメなやつだ!」
芽衣の直感は正しかった。
螺閃なる技はただの横薙ぎにあらず。
大と小、二本の刀が描く軌道。その狭間にて空気の渦が起こっており、ゴミ収集車のごとく取り込んだモノをぐしゃぐしゃに咀嚼してしまうのである。これにともない吸引力も発生しているから、近づくことすらもが危険。
追いかけてくる螺閃の脅威。
逃れるためにひたすら駆ける芽衣。
前方に斜めになっている鳥居があったもので、これを足場にして上へと向かい、勢いのまま高らかに宙へと跳ねあがる。
その真下を螺閃が数多の鳥居を斬り倒し、呑み込み、粉々に砕きながら通過していく。ついには神殿の土台となっているピラミッドの石積みへと激突した。
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