おじろよんぱく、何者?

月芝

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413 北の岩戸

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 かつて道であった場所を占領している緑に辟易しながら進む。
 ところどころ土砂崩れや崩落が発生しており、そのたびに安全な迂回路を探すものだから、夜明け前には出発したというのに北の岩戸へと辿りついたときには、けっこう陽が高くなっていた。
 けれどもそのおかげで潮が引いており海に面した洞窟内部の探索がはかどる。
 内部はかなり広い。海賊船ぐらいならば楽々入れそうなほど。

「本来は潮が満ちているときに小舟とかで乗りつけるのかもしれんなぁ」

 つぶやいたひょうしに足がつるっとヌメる石にとられる。危うく転倒しそうになったところを手をついてこらえるも、ひょうしに付近にいた船虫どもが一斉にザワザワザワザワ……。
 ここでまともな乙女であれば「きゃーっ」と悲鳴のひとつでもあげるところながらも、芽衣も零号も平然としているもので、かわりにおっさんが「キャッ」と言っておいた。

  ◇

 北の岩戸の奥までいったところでおれたちを待ち受けていたのは一艘の船。
 ではなくて、ちょっと予想外のシロモノ。

「はて、気のせいかな。なんとなく『てつのくじら館』にとてもよく似ているような……」
「気のせいどころか、アレってまんま潜水艦じゃないですか、四伯おじさん!」
「通常のモノよりも二回りぐらい小さいですから、潜水艦というよりも潜水艇といったところでしょうか」

 葉巻型の船体に艦橋部分がちょこんと載っている勇姿。
 岩陰からこっそり様子をうかがうおれたち三人組。
 するとハッチが開いて中からするする降りてきたのは十五名ばかりの黒装束姿。
 もう、どこからどうみて忍者としかいいようがないお忍びの格好。
 しかしおれたちを驚愕させたのは、最後に登場した人物。
 大小の二本の刀を腰に差した男。まるで戦国時代から現代へとタイムスリップしてきたかのような侍姿。垂れ流される剣気。殺伐とした雰囲気をまとうのは、宮本めざし。
 流浪のノラネコ。舎乱螺二刀流(しゃらんらにとうりゅう)の達人にして、姫路アニマルキングダムで開催された獣王武闘会を機に、動物至上主義をかかげる過激派組織・聚楽第へと加入した闇堕ち剣客。

 おもわぬところでの再会。
 驚きのあまりおれたちが目を白黒させているうちに、宮本めざしらは洞窟内にあった階段をのぼっていき、何処かへと消えた。
 どうやら地上からここへと通じている別ルートが存在しているらしい。

 物陰から物陰へ。
 差し足忍び足、ときにシュタタタタと素早く移動。
 おれたちは連中の潜水艇とやらに近づいてみる。
 さすがに全員が出払うような不用心なマネはすまい。最低限の人員は残しているはず。
 だからこちらもバレないように接近を試みる。
 小型とはいえ五十メートル近くはある。零号によれば沿岸型潜水艦と呼ばれ、自国周辺を哨戒する機体に造りが似ているらしい。
 つまり外洋を渡るほどのパワーはないが、瀬戸内海やら少し沖合に出るくらいならば充分におつりがくるということ。
 なんにせよ個人で気軽に所有できるシロモノではないことだけはたしか。

「聚楽第が出張ってる? 狙いはやはり秘伝の書とやらか」
「もしくは炎龍の剣かも。いかにも剣豪が欲しがりそうなアイテムですし」
「現状では判断のしようがありません。でも確実なのは……」

 先の獣王武闘会での騒動のおりに大量投入されたアニマルロボ軍団。
 それにこの島の情報が連中の手に渡っていることからして、聚楽第に協力している大江一門の出身者がいるということ。
 零号の言葉におれと芽衣はうなづく。
 そして「なんとしても連中にそんな危ないオモチャを与えてはならない」という意見で一致した。

「よし、連中よりも先にお宝を見つけるぞ。ことによってはその場で破壊して秘伝の書とやらは燃やす」
「ついでに邪魔するやつはぶっ飛ばす」

 意気込む探偵と助手。
 いっそのこと潜水艇のどてっ腹に風穴でも開けて沈めるかとタヌキ娘が言い出すも、これは零号に止められた。

「下手に壊して爆発したり燃料が漏れたらたいへん。海を汚すのはいけません」

 無法な動物どもよりもよほどしっかりしており、自然にも優しいロボ娘。
 おれと芽衣は気恥ずかしくなって、ちょっともじもじ。

  ◇

 連中の邪魔をして困らせてやるという方針が決定したところで、次に選ぶべきは進路。
 洞窟内部の岩肌の形状を利用して造られたであろう階段をのぼり、宮本めざしらを追うべきか、いったん洞窟を出て廃村に戻って準備万端で対処するか。
 と、ここで芽衣が第三の選択肢をもたらす。
 洞窟の突き当たり、割れ目の奥に進めることを発見した。
 ちょっとカラダをくの字にしないと入れない隙間。
 大きな岩の裏へ裏へと回り込むように割れ目は続いており、行くほどに広くなってゆく。

 奥にはひらけた空間。
 そこにあったのは石の台座。
 祠にあったやつと同じ。だがこちらには剣が刺さっていない。
 おれたち三人はすぐにピンと閃き、そろって「あっ!」と声をあげる。
 そしてこの場所がどうして「北の岩戸」と呼ばれていたのか。
 その真の意味を知る。


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