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337 しらたきさん
しおりを挟む高月中央商店街周辺にて続発している、超熟々狙いの下着ドロボウ。
いざ、捜査に乗り出してみておれと芽衣はたいそう困惑する。
ふつう、この手の犯罪が横行する地域では、女性たちは警戒して室内干しとかに切り替える。
だというのに逆に外に干すマダムたちが存外多い。
これも複雑な女心ゆえっぽい。女の敵に腹は立つ。だが無視されるのはもっと業腹。
おかげで犯人にとっては獲物は選び放題。いちご狩りにきたいちご大好きな客のようなものにて食べ放題。しかも時間制限はナシときている。
で、いざ発見して追跡を開始したとおもったら逃げ足の速いこと速いこと。
「逃走経路がやたらとしっかりしていやがることからして、おそらくはちゃんとターゲットを定めて、周辺の下調べも済ませていやがるな」
「土地勘もかなりありそうです」
まんまとしてやられてた探偵と助手はしかめっ面にて、最寄り宅のベランダにて風にゆれている女性物の下着を見上げる。
「そういえば女性ってタンスの引き出しいっぱいにたくさんの下着を持っているけど、そのわりにはちょいとヘビーローテーション過ぎやしねえか。まぁ、おれも人のことをとやかくは言えんが」
おれは似たような柄のトランクスばかり十ほど所持しているが、実際に稼働しているのはうちの四枚ほど。いや、毎日、ちゃんと履き替えているよ。
でも着て、脱いで、洗濯して、干して、乾くだろう?
梅雨時でもなければ二日もあれば充分、夏場ともなれば干したら半日ほどですっかり水気が飛んで乾いてしまう。
またそれを履くわけだ。
すると不思議と肌に馴染んで、ゴムやら生地も絶妙なフィット感を獲得。気がつけば、そればかり履いていたなんてことも……。
おれの言葉に芽衣も「あー」とうなづく。
「可愛いのとか見つけるとつい買っちゃうんですよねえ。セールにも弱いです。でもそこで満足しちゃうわけですよ。勝負下着とかもいちおうはアレコレ考えているんですけど十中八九、出番がありませんし。でもって、棚の奥からわざわざ取り出すと、せっかくキレイに畳んで並べてある列がくずれちゃって直すのが面倒なんです。だから手前だけでちまちま出し入れしていくうちに……ってな具合ですかね。あと肌感はしようがありませんよ。小さい子どもがずーっと同じタオルケットを使って放さないみたいなものです。もう、安心感と信頼感がだんちがい」
老若男女を問わず。
じつはだるんだるん下着の隠れ支持者であることが、ここに発覚!
あんまりな真実に全国の下着メーカーが頭を抱えそう。
そしてここにこそ逆転の商機が潜んでいるのかも?
「そう考えると今回の犯人ってば趣味がいいのか? じつはスゴイやつ?」
「うーん、それはどうでしょうか。物事の本質を捉えているとはおもいますけど、しょせんは下着ドロボウですから」
「……だな」
やくたいもない話をしつつ、犯人を追う探偵と助手。
どうにも犯人像に迫っている感触に乏しい。
そこで過去の事件をいちから洗い出し、見直してみることにする。
犯行手口から正体に迫ろうとの魂胆だ。
◇
事務所にて高月中央商店街周辺の地図を拡大コピーした紙を広げる。
「えーと、まずはうちの雑居ビルだな。っていうか、いくら昼間は誰も近寄らないからって、スナックの前の廊下にパンツ干すなよ」
洗ったおしぼりやらタオルといっしょに吊り下げていたところを盗まれたらしい。
こんなうさん臭い雑居ビルにたまさか立ち寄ったなんてことはありえないことからしても、事前に下調べをしての犯行であるのはまちがいあるまい。
「お次は商会長のところだな。こっちはベランダでやられたみたいだな。一戸建ての二階だから、わざわざよじ登ってとか、やっこさんけっこう体力あるな」
おれの言葉に「あれだけの逃げ足ですから、二階程度なら余裕でしょう」と芽衣が答えつつ、地図に印をつける。
「三件目は辻占いのところか。あのバアさんはカバンにしのばせていた予備をやられたって言ってたな。あー、そこじゃない。そっちのケーキ屋『幸蔵』のところの角だ」
天井からひょろりとのびた怪異・白い腕が指示に従ってせっせと動く。
それを横目に芽衣が「前から気になってたんですけど、いい加減、その子にちゃんと名前をつけてあげませんか? 尾白探偵事務所の第二助手がいつまでも『白い腕』ってのは、さすがにどうかと思うんですけど」と言い出す。
フム。第一助手の指摘もごもっともである。
じつはおれも薄々気にはなっていた。あと「何げに呼びにくいよなぁ」とも。
なのでおれは天井からぷらぷらしている白い腕を眺めつつ、しばし思案してからポンと手を叩く。
「よし! だったら白い滝と書いて『しらたき』ってのはどうだ?」
みんな大好き、すき焼きやお鍋に欠かせない具材。糖尿病患者とダイエット女子の強い味方。ローカロリーフード。腸のデトックス効果も抜群。
天井からひょろひょろしている姿がアレにそっくり。
これに芽衣は「えー」と難色を示すも、当の白い腕は気に入ったようで親指を立ててサムズアップ。
かくして我が尾白探偵事務所の第二助手を白滝さんと命名し、おれたちは検証作業を続行。
すると朧げながらもある真実が見えてきて、おれたちはムムム。
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