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328 獣王武闘会 アニマルロボ・シリウス
しおりを挟む警備隊の第一陣を率いていたのは見知らぬ男。
おれが「クロヒョウの隊長さんはどうした?」とたずねたら、「如月さまは現在、貴賓客たちへの対応に追われている」とのこと。
二十一の精鋭で構成された姫路アニマルキングダムが誇る近衛師団。一騎当千の猛者どもを率いるのは如月伊織(きさらぎいおり)なる隻眼の女剣士。実力未知数ながらも強いことだけはたしか。それが足止めを喰らっている。
一方で敵方に宮本めざしが加わった。
いまのところ佐々木アルフォートたちが対峙してくれているが、斬ることにためらいがなくなった男を相手にするには、ちと心許ない。
そしてのんびりと次の一手を考えている余裕もない。
アニマルロボ・カブト軍団が動きだし、警備隊の第一陣が応戦。
石舞台周辺は敵味方が入り乱れて、たちまち混戦模様となる。
うちのタヌキ娘とトラ女も向かってくるアニマルロボ相手に戦闘を開始。
それを尻目におれはこそっと「変化っ」
ドロンと化けたのは野球の硬式ボール。
これを握った零号が振りかぶって投げた先は、オコジョくのいち・かげりの方。
ただしボールは大きくそれて彼女の頭上を超えようとしている。
「あらあら、とんだ大暴投。どこを狙っているのかしら」
かげりの覆面の隙間からのぞく目元が細く笑う。浮かぶのはあきれとあざけりの色。
でも、それはすぐに驚愕へと変わった。
なぜならこれこそがおれたちの狙いだったからだ。
はるか上空を超えようとしていてたボールが突如としてふたたびドロンの変化。
重ね化けの術により出現したのは特殊チタン合金の板。五メートル四方の大きさ、厚さ五センチにて、重量もかなりある。ぶっちゃけ下敷きになったらぺちゃんこになりかねないシロモノ。でもあえてこれに化ける。理由はもちろん悪い子たちに激烈なお灸を据えるためである。
「なっ! うそでしょう。いきなりなんてことするのよっ、この悪魔、鬼畜」
頭上よりひと踏みにせんと落ちてくる合金の板に、かげりがあわてて逃げ出そうとするも、周囲にいた味方が邪魔で逃げられない。
「おまえにだけは言われたかねえ! 覚悟しやがれっ」
ズドンと一発。
特殊チタン合金の板ボデイプレス、炸裂!
まず反応が遅れたアニマルロボ数体の首がグキリとなったり、頭部がへこんだり、背中が折れたり、腰が曲がったりして、ぐしゃり。
勢いのまま、しゃがみ込んでいるオコジョくのいちや、仲間のキタオポッサム忍者もろとも押しつぶす……つもりであったのだが、あと少しのところで落下がピタリと止まってしまう。
「げっ、これを片手一本で受け止めるとか、マジかよ」
合金板へと化けているおれの身を支えていたのは、ずっとかげりのかたわらにいたネコ頭をした雌型のアニマルロボ。
片膝こそはついているが、それでもこの重量体を受け止めてみせたばかりが、グググと持ち上げ押し戻し始めているではないか。
八頭身のモデル体型にもかかわらずなんという膂力! 強度もカブトとは比べものにならない頑強さ! やはりカスタム機!
雌型のカスタム機によって不発に終わったおれの攻撃。
このまま味方勢へと投げ込まれたら被害甚大となるので、おれはふたたび重ね化けの術を実施。
で、巨大な鉄板のお次は小さな鉄の玉。ビリヤードの玉ぐらいのやつ。
自由落下によりカスタム機の手からまんまと逃れ、足下へと。
これまでのおれはいろいろ器用に化けられたものの、己ではろくすっぽ動けないという欠点があった。だがいまはちがう。おれには心強い相棒二号が憑いている。
「頼んだぞ、白い腕」
おれの要請によりにょきっと床から姿をみせた怪異・白い腕。
こいつがアイスホッケーでもするかのようにして、鉄の球を手のひらではじいては転がしドリブル。
アニマルロボ・カブトや警備隊の面々が対立し混戦中の石舞台上およびその周辺。
激しく入り乱れる足の林の中を、右へ左へ、素早くコロコロ、華麗にコロコロ。
かくして奇襲が失敗し、尻尾をまいて逃げ帰ったおれが「ただいま」といえば、零号が「おかえりなさいませ」と無表情で出迎えてくれた。
うちのネコ耳メイド型アニマルロボは基本的に愛想に乏しいのが玉にきず。
◇
そんな零号をじっと見つめていたのが雌型のカスタム機。ついに動き出す。
とたんに周辺にいたアニマルロボ・カブトたちが左右にさっと分かれて道ができた。
作られた道を悠然とこちらに向かってくる。その間、不思議とこちらの周囲に散在している敵勢もちょっかいを出してこない。
おそらくはこの雌型の指示なのだろう。
メカメカしいネコ頭は、おれのことなんてまるで眼中にない。
一心に零号だけを見ていた。
当方よりやや離れたところにて立ち止まったカスタム機。
「ワタシの名前はシリウス。ようやくお会いできまシタ、零号姉サマ」
零号を姉と呼ぶ敵のカスタム機。
アニマルロボを名乗っている以上は、その可能性は否定しきれなかったが、よもやここにきてネコ耳メイド型ロボ娘までもが、裏切るのか?
もしもそうなったら戦局は絶望的になる。
おれは二体のやりとりを固唾を飲んで見守る。
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