おじろよんぱく、何者?

月芝

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322 獣王武闘会 準決勝第二試合 アニマルロボ・カブト

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 試合開始直後。
 細川巴の放った薙刀の一閃。幅広い黒い刃がパンドラのメンバーに襲いかかる。
 たちまち一斉に刎ね飛んだ四つの首!
 ……のように見えたモノは、チーム・パンドラの全員が身につけていたローブのフード部分と仮面であった。
 しかしこの一撃にてずっと隠されていた彼らの正体が、ついに白日の下にさらされることになる。

 チームリーダーのオコジョくのいち・かげり。
 仮面の奥は覆面姿というまさかの二重装備。そのせいであらわとなったのは艶っぽい切れ長の目元のみ。ローブの下はシソの葉みたいな色味をした濃い紫の忍び装束を着込んでいた。

 オコジョくのいちの隣にいた若い男が「うひゃあ」、とっさにしゃがんで黒刃をかわす。
 フードの下の素顔は隠しておらず、取り立てて特徴がないのが特徴といった面持ち。集団に埋没するタイプゆえに隠密活動には最適かも。こちらも忍び装束姿にて色は黒。
 ひょっとして黒が男の子用で、濃い紫が女の子用なのか?
 彼の名はむつき。正体はキタオポッサムにて、聚楽第のメンバーがひとり。初戦では見事な死んだふりを披露し、まんまと騙し討ちを成功させた張本人。

 忍者二人組だけでもかなりのインパクト。
 けれども舞台上にいた姫路アニマルキングダム選抜のメンバーたちや会場の観客たちの注目を集めたのは彼らではなく、残りの方。

 一人は全身が鈍く輝くシルバーメタリックボディ。西洋の鎧のようなゴツイ格好。甲はかぶっておらずイヌ頭が丸出し。けれどもその頭はメカメカしており、かつて一斉を風靡したメカドッグペットのデザインにそっくり。いちおう尻尾もあるが、竹細工のオモチャのヘビみたいにカクカクしている。
 と、まぁ、いろいろ言葉を尽くしたが、簡潔に言えばイヌ頭の人型ロボットである。

 そして最後の一人もまたロボット。
 しかしこちらはゴールドメタリックボディで女性っぽく、滑らかな造形。すらりと長い手足。細い首筋。くびれたウエストの位置が高い。まるでデパートのショーウインドウを飾るマネキンモデルのような見事な八頭身。ただし首から上がメカメカしいネコ頭。こちらの尻尾には柔らかいワイヤー素材が使われているらしく、動きがとってもうねうね。

  ◇

 登場した異形を前にして会場中がざわつく。
 大会運営本部はさっそく審議に入った模様。なにせ獣王武闘会はケモノのための祭典。「獣外の参加を認めるべきではない!」「装備武器扱いならばどうだろう?」「有力スポンサー推薦のチームだしなぁ」「いまさらであろうに」「失格で没収試合は興冷め」「どう転んでも賭場が荒れそう」と大もめ。
 客席の方は混乱というよりもイロモノの登場に、珍しがって興味津々といった様子。これから何が起こるのだろうかと、観客たちが向けるまなざしは期待にワクワクしている。
 そしてイロモノと対峙することになった姫路アニマルキングダム選抜ではあるが、相手が誰であろうと関係ないとばかりに攻撃を仕掛ける。
 当然ながらこれを迎え撃つパンドラ。
 ただし双方の布陣がやや変わっていた。

 姫路アニマルキングダム選抜は、リーダーであるゴリラ拳闘士は動かず。一人後方にて待機。どうやら三人に任せる腹積もりのよう。
 一方でパンドラの方はさらに極端であった。
 こちらはなんとシルバーメタリックのイヌ頭のみを出して、残り二人と一体が後方へ下がったのである。

「アニマルロボ・カブト、データ収集がてら適当に遊んでおやり」

 かげりの命令を受けて、カブトの双眸にて赤光が明滅。「ワオーン」とひと吠え、了承のマシンボイス。

 よもやの三対一。
 この対応に「バカにするなっ」と怒ったのはシマウマ青年の五島八雲。いっきに駆け出す。

「蹄轍修験道、天翔け」

 一歩の幅がとたんに大きくなる。これに合わせて移動速度も格段に増す。初速からトップスピードに入る縮地なる歩法と似ているが、こちらは走っているというよりも、空を飛んでいるかのよう。
 でもその分だけ動きが直線的になる。
 アニマルロボ・カブトは矢となり飛び込んでくるシマウマ青年を狙い、蹴りを放つ。タイミングはどんぴしゃ。
 けれども蹴りは空を切る。
 当たったとおもった瞬間、シマウマ青年の姿がぐにゃりと歪んで半透明に。

「蹄轍修験道、朧月」

 夜空にぼんやりと霞んで見える春の月のよう。現か夢か。すぐそこにたしかにあるはずなのに、どこか掴みどころがない。
 高速移動からの急制動と軌道変更。
 これにより生じる残像。それがいくつも同時に出現しアニマルロボ・カブトを翻弄する。
 でもまだ終わりじゃない。

「蹄轍修験道、木霊」

 山奥に響く怪音のように、ザッザッザッザッと鳴るのは無数の足音。アニマルロボ・カブトの全方位にて一斉に鳴りだす。
 これにはアニマルロボ・カブトもキョロキョロ。
 残像により視覚を、音により聴覚を惑わし、まるで山深くへと迷い込んだかのような状況下。
 気がつけば死角より獲物へと踊りかかっていたシマウマ青年。
 背後から首に腕をまわし、絡めとる。

「これでしまいだ」

 いっきにグキリ。
 折ってはいない。けれども首の骨のつなぎ目をずらし、脳からの情報伝達を遮断、カラダの自由を完全に封じる荒業。
 電光石火からの流れるような技の連続行使。
 一方的にアニマルロボ・カブトを倒した五島八雲。近衛師団の位階九に相応しい力量を存分に示す。
 だがしかし……。

 がしゃりと倒れてピクリともしなかったアニマルロボ・カブトがムクリと立ち上がり、外れた首関節を自分でごきりと直す。
 のみならず、その身がいきなり五つも六つも増え、周囲から無数の足音までもがっ!

「なっ! これはおれの朧と木霊か?」

 一度目にしただけで完璧に、いいや、それ以上にコピーされた己の技。
 厳しい修練の果てに身につけたモノがあっさり奪われる。この衝撃は大きい。驚愕が心に隙を産む。
 するりとのびてくるアニマルロボ・カブトの手。
 気づいたときには手首を掴まれていた五島八雲。

「しまっ……」

 たちまち天地が入れ替わり一回転。激しく石畳に叩きつけらたシマウマ青年。
 それはただの投げではなかった。
 四十八の基本型を組み合わせることで、あらゆる攻撃に対処し、相手の重心を崩し、間合いをつぶす、屋島蓑山流四十八霊の投げ。
 アニマルロボ・カブトはまたしても他者の技を使用。
 戦いを前にしてかげりが口にした「データ収集がてら」という言葉の意味と合わせれば、これが何を意味しているのか一目瞭然であった。


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