316 / 1,029
316 獣王武闘会 準決勝第一試合 お目付け役と探偵
しおりを挟む中堅戦、四国連合からはお目付け役の香川重盛(かがわしげもり)が。うちからはこのおれ、街の探偵屋さんの尾白四伯(おじろよんぱく)。
ぶっちゃけ屋島蓑山流四十八霊の達人である香川さんとまともに戦ったら、おれは秒殺されてしまうだろう。なにせこちとらまともに受け身もとれないもので。
しかし先鋒、次鋒戦と立て続けに星を獲ったことで、ついついおれはこう考えてしまった。
「いけいけどんどん。このままおれで試合を決めてしまうのもアリなのでは?」と。
これは、まぁ、あれだ。
ギャンブルをしていると、ごくごく稀にだが怖いぐらいにツキが集まってくる時がある。何をどうしても勝ちの目が転がり込んでくる。そうなるとまるで世界が自分を中心に回っているような気になって、それはもう盛大に調子に乗る。
で、散々に調子に乗ったところであっさり転んで落ちて、べちゃっ。
あとでよくよく考えたら「あー、やっぱりあそこで止めておけばよかった」と心底後悔することしきりなのだが、すでに後の祭りにて素寒貧。
しかも気づくのはいつもすべてが終わってからと相場が決まっている。
それがわかっているのに、つい同じ轍を踏む。
◇
試合開始直後。
香川重盛は最初の立ち位置から一歩も動かず。待ちの姿勢にて後の先を狙う。
だがそんなことはおれも想定済み。
ここでのこのこ近づけば、おれの身はたちまち屋島蓑山流四十八霊に絡みとられてしまうだろう。
だがしかし……。
「いまだっ!」
おれの合図に呼応し、石舞台からにょきっと姿を見せたのは二本の白い腕。我が尾白探偵事務所の第二助手ちゃん。元は腐れ因業が染みついたけったくその悪いワゴン車に憑いていたが、廃車になるのを機におれに乗り換えた経緯を持つ。
今回の獣王武闘会に参加するに当たって「どうする? いっしょに行くか」とたずねたら憑いてきたオカルトな彼女。おかげでちょっと肩が重たくて凝るけど、寝る前にマッサージをしてくれるから疲労は相殺されむしろ快適な睡眠を享受している。
突如として床下からあらわれた正体不明の青白い腕。
襲われた香川重盛、とっさに左の足はかわすが、右の足首を掴まれてしまう。
これにより身動きがとれなくなったところで、おれはすかさず「変化っ」
ドロンと化けたのは古式ゆかしい銭湯の煙突。
以前に盗まれた公園の遊具の行方を探しているうちに、女性銀行員誘拐事件に巻き込まれて、危うく生き埋めにされてしまいそうになったときに発動して以来の再登場。
化ける直前にちょっとばかり前かがみの姿勢にしていたもので、ギンギンにそそり立つ長大な煙突がぐらりと傾ぐ。
倒れる先はもちろん香川重盛。
「喰らえ、秘技、断罪の煙突落とし!」
かつて二階建て住居を真っ二つに粉砕した渾身の一撃。
いかに専守防衛に特化した屋島蓑山流四十八霊とて、さすがに倒壊する煙突までは想定していまい。
おれはそう考え、今回の作戦を立てた。
絶対の自信、とまでは言わないまでもそれに近い自惚れはあった。
でもおれは読みちがえた。
屋島蓑山流四十八霊の香川重盛という男、その武の深淵を見誤った。
勢いよく倒れてきた煙突。
足を抑えられて逃げられない香川重盛は頭上に腕を交差させる十字受けにて、煙突を迎え入れる。
煙突と腕の表面が触れた瞬間、香川重盛が右の腕をもの凄い速さで引いた。
これによりおれが化けている煙突全体がぎゅるんと独楽のように回転。
煙突は回転のままに香川重盛の左の腕の作った傾斜を滑り、やつの左脇へどぅと転げ落ちる。
激しい落下の衝撃により、石畳を砕いた煙突がわずかに跳ねて暴れた。
床と煙突の間に生じるわずかばかりの空間。
そこにするりと己を足を潜り込ませた香川重盛が静かな声でつぶやく。
「屋島蓑山流四十八霊、地崩し」
足の甲でちょんと蹴りあげられた煙突。落下による接地にて止まりかけていた回転運動が復活。そのせいかおれの化けている長身が、まるでヨーヨーのように香川重盛の足の脛を伝い、膝頭を超え、太ももへと差し掛かったところで、太ももがポンと跳ねた。
まるでサッカーのリフティングでもするかのような軽い動作。
それによって煙突がより高らかに宙へ。
かとおもったら急に回転の方向が変化する。
大きく横へと回る回る。宴会芸にて座布団廻しなるモノがあるが、あれの煙突版。
縦に横にと激しく回されて、化けているおれはとっくに目を回しており「あーれー」
で、散々にぎゅるんぎゅるんとされたあげくに、石舞台の外へ向かってポイッとね。
煙突は回転のままにガランゴロンと石舞台から飛び出し、場外へと。
それでも止まらず、ついには客席の方へと転がって防御壁へと激突し、これを粉砕。
ワーキャア逃げ惑う観客たち。
もうもうと立ち昇る土煙の中、瓦礫に埋もれおれはノックアウト。
中堅戦は香川重盛の勝利。
これにてチーム・四国連合と尾白探偵事務所の星は一対二となり、最後の大将戦へともつれこむ運びとなった。
0
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
柳鼓の塩小町 江戸深川のしょうけら退治
月芝
歴史・時代
花のお江戸は本所深川、その隅っこにある柳鼓長屋。
なんでも奥にある柳を蹴飛ばせばポンっと鳴くらしい。
そんな長屋の差配の孫娘お七。
なんの因果か、お七は産まれながらに怪異の類にめっぽう強かった。
徳を積んだお坊さまや、修験者らが加持祈祷をして追い払うようなモノどもを相手にし、
「えいや」と塩を投げるだけで悪霊退散。
ゆえについたあだ名が柳鼓の塩小町。
ひと癖もふた癖もある長屋の住人たちと塩小町が織りなす、ちょっと不思議で愉快なお江戸奇譚。
後宮の記録女官は真実を記す
悠井すみれ
キャラ文芸
【第7回キャラ文大賞参加作品です。お楽しみいただけましたら投票お願いいたします。】
中華後宮を舞台にしたライトな謎解きものです。全16話。
「──嫌、でございます」
男装の女官・碧燿《へきよう》は、皇帝・藍熾《らんし》の命令を即座に断った。
彼女は後宮の記録を司る彤史《とうし》。何ものにも屈さず真実を記すのが務めだというのに、藍熾はこともあろうに彼女に妃の夜伽の記録を偽れと命じたのだ。職務に忠実に真実を求め、かつ権力者を嫌う碧燿。どこまでも傲慢に強引に我が意を通そうとする藍熾。相性最悪のふたりは反発し合うが──
我が家の家庭内順位は姫、犬、おっさんの順の様だがおかしい俺は家主だぞそんなの絶対に認めないからそんな目で俺を見るな
ミドリ
キャラ文芸
【奨励賞受賞作品です】
少し昔の下北沢を舞台に繰り広げられるおっさんが妖の闘争に巻き込まれる現代ファンタジー。
次々と増える居候におっさんの財布はいつまで耐えられるのか。
姫様に喋る犬、白蛇にイケメンまで来てしまって部屋はもうぎゅうぎゅう。
笑いあり涙ありのほのぼの時折ドキドキ溺愛ストーリー。ただのおっさん、三種の神器を手にバトルだって体に鞭打って頑張ります。
なろう・ノベプラ・カクヨムにて掲載中
生贄の花嫁~鬼の総領様と身代わり婚~
硝子町玻璃
キャラ文芸
旧題:化け猫姉妹の身代わり婚
多くの人々があやかしの血を引く現代。
猫又族の東條家の長女である霞は、妹の雅とともに平穏な日々を送っていた。
けれどある日、雅に縁談が舞い込む。
お相手は鬼族を統べる鬼灯家の次期当主である鬼灯蓮。
絶対的権力を持つ鬼灯家に逆らうことが出来ず、両親は了承。雅も縁談を受け入れることにしたが……
「私が雅の代わりに鬼灯家に行く。私がお嫁に行くよ!」
妹を守るために自分が鬼灯家に嫁ぐと決心した霞。
しかしそんな彼女を待っていたのは、絶世の美青年だった。
このたび、小さな龍神様のお世話係になりました
一花みえる
キャラ文芸
旧題:泣き虫龍神様
片田舎の古本屋、室生書房には一人の青年と、不思議な尻尾の生えた少年がいる。店主である室生涼太と、好奇心旺盛だが泣き虫な「おみ」の平和でちょっと変わった日常のお話。
☆
泣き虫で食いしん坊な「おみ」は、千年生きる龍神様。だけどまだまだ子供だから、びっくりするとすぐに泣いちゃうのです。
みぇみぇ泣いていると、空には雲が広がって、涙のように雨が降ってきます。
でも大丈夫、すぐにりょーたが来てくれますよ。
大好きなりょーたに抱っこされたら、あっという間に泣き止んで、空も綺麗に晴れていきました!
真っ白龍のぬいぐるみ「しらたき」や、たまに遊びに来る地域猫の「ちびすけ」、近所のおじさん「さかぐち」や、仕立て屋のお姉さん(?)「おださん」など、不思議で優しい人達と楽しい日々を過ごしています。
そんなのんびりほのぼのな日々を、あなたも覗いてみませんか?
☆
本作品はエブリスタにも公開しております。
☆第6回 キャラ文芸大賞で奨励賞をいただきました! 本当にありがとうございます!
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
あやかし狐の身代わり花嫁
シアノ
キャラ文芸
第4回キャラ文芸大賞あやかし賞受賞作。
2024年2月15日書下ろし3巻を刊行しました!
親を亡くしたばかりの小春は、ある日、迷い込んだ黒松の林で美しい狐の嫁入りを目撃する。ところが、人間の小春を見咎めた花嫁が怒りだし、突如破談になってしまった。慌てて逃げ帰った小春だけれど、そこには厄介な親戚と――狐の花婿がいて? 尾崎玄湖と名乗った男は、借金を盾に身売りを迫る親戚から助ける代わりに、三ヶ月だけ小春に玄湖の妻のフリをするよう提案してくるが……!? 妖だらけの不思議な屋敷で、かりそめ夫婦が紡ぎ合う優しくて切ない想いの行方とは――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる