おじろよんぱく、何者?

月芝

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311 獣王武闘会 やぶへびピシャリ

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 大会日程は以下の通り。
 初日、対戦組み合わせの抽選会の後、第一回戦全四試合が行われる。
 二日目、第二回戦、準決勝全二試合が行われる。
 三日目、三位決定戦の後に決勝戦が行われる。
 四日目、表彰式および後夜祭。

 いちおう連戦にならないようにとの配慮がなされているものの、カラダを休められる時間は短い。
 一回戦を突破した四チーム。
 四国連合、尾白探偵事務所、姫路アニマルキングダム選抜、パンドラ。
 この中で次の試合に響きそうなダメージを負っているのは、初戦からバトルロイヤルなんていう乱痴気騒ぎをしたうちのチームだけ。
 主戦力となるタヌキ娘とトラ女がど突き合いをし、仲良く医務室のベッドのお世話になるというていたらく。
 いっそのこと、これを理由に棄権したいところだが、それはダメだと近衛師団の隊長である如月伊織(きさらぎいおり)からクギを刺されている。

「聚楽第の目的がわからない以上は、せめて囮役としてがんばってくれ」

 お偉方からも「うちとしてはこれ以上スペシャルゲストの機嫌を損ねたくない。さいわいなことに彼女は寛容にして、きみに興味を示していることだし、ここはひとつ『人身御供』としてがんばってくれたまえ」と頼まれている。

 スペシャルゲストである赤鬼族の長・桜花朱魅のご機嫌とりのため、ひいては動物界全体の平穏のために犠牲になれと面と向かって言われた。

「ひでぇ! ならせめて苦労に見合うだけの特別ボーナスをちょうだい」
「バカもん! これまでにしでかしてきたアレやコレを大目に見てやっているんだから、たまには貢献しろっ」

 くれくれギブミーと出した手はピシャリとはたかれる。藪をつついて何とやら。
 結局ボーナスはもらえず。
 かわりにお小言をたっぷりもらった。

  ◇

 チームリーダーとしてはメンバーの状態を把握しておかなければならない。
 というかうちの女傑どもががんばってくれないと、おれが矢面に立たされる。武芸狂いのバトルジャンキーどもの相手をさせられるのなんて冗談じゃない。

 おれが医務室のドアをあけようとしたら、扉が内側より勝手に開いた。
 ただし本来ならば横にスライドするはずの扉が、ガタンと枠からはずれて廊下へと倒れかかるというかっこうにて。

 ガンっ!

 倒れてきた扉でしたたかに額を打ったおれは、ややつぶれた明石焼きぐらいのたんこぶをこさえる。ズキンズキンと鈍痛。ぐうぉぉぉぉぅ。
 で、いったい何ごとかと思えば、医務室内では芽衣とトラ美が顔見知りの女医と追いかけっこをして暴れていた。
 光瀬女医の手にはペットボトルロケットのごとき極太の注射器があり、中にはドブ色をした怪しげな薬剤がたぷんたぷん。
 まぁ、それはおれが頼んだ出前なのだが……。

 以前に奈良はシカ王国にて行われた嫁獲り競争。
 あのイベントでズタボロにされて瀕死の重症を負ったおれのカラダを、ほんの数日で本復させた奇跡のクスリ。もしくは禁断の何か。
 菜穂のスペシャルブレンドという話だが、こわくて材料については聞いてない。
 世の中には知らないほうがしあわせでいられることがままある。
 キャバクラの従業員控室での客の批評とか、アイドルの楽屋裏での姿、居酒屋で泥酔した教師たちの本音全開トーク、きれいなお姉さんの自室の汚れっぷり、運動部女子たちの部室のにおい、子ども好きと公言している保母さんたちや白衣の天使たちの真実などなど。

 フム。いかんいかん、いささか思考が横道にそれてしまった。
 さっさとタヌキ娘とトラ女を取り押さえて、ぶちゅうと一発、針をぶっ刺してもらわねば。

  ◇

「アイタタタ、ちくしょう。消毒液がやたらと傷に染みやがる」
「ごめんねえ、尾白くん。芽衣ちゃんはともかく、まさか羅美さんまでもがあんなに注射を嫌がるとはおもわなかったから。彼女の妹の玲花ちゃんは平気だったんだけど」

 あちらこちらに打撲痕やらすり傷のあるおれの治療をしながらあやまる光瀬菜穂。
 要請に応じて愛車をかっ飛ばして姫路アニマルキングダムまで駆けつけてくれた彼女。さっそく医務室へと直行し、寝ている二人を発見する。
 で、治療対象がおれならば問答無用でぶちゅうとイクところだが、相手はうら若き乙女たち。
 いきなり衣類をめくってお尻に針を刺すのもどうかと考えて、声をかけたのがまちがいであった。
 おかげで猛烈な抵抗を受けることになる。
 タヌキとトラが目を怒らせて「シャーッ!」「グルルルル」
 それが先の医務室での騒動。
 おれは零号の協力を得て、どうにか暴れる二人を取り押さえることに成功するも、ご覧のありさま。
 クスリが効いてスヤスヤ、気持ちよさげに寝ている二人。芽衣たちは次に目が醒めたときにはすっかり元気になっているだろうが、逆におれの方は草臥れてボロボロである。

「なんなら尾白くんも一本いっとく?」

 通常サイズの注射器片手ににっこり微笑む光瀬女医。
 だが、おれは右腕についた芽衣の歯形をさすりながら首を横にふる。

「遠慮しとく。先の展開がわからないし、ひょっとしたら必要になるかも。念のためにとっておいてくれ」

 おれは明日以降の戦いに想いを馳せる。
 うちは四国連合と。オコジョくのいち・かげり率いるパンドラは姫路アニマルキングダム選抜と戦う。あのゴリラ拳闘士を相手にしては、いかにパンドラとてさすがに一回戦のようにはいくまい。
 となれば聚楽第が動くのは明日。きっと試合で何かを仕掛けてくるはず。
 例のオモチャの正体も判明するかも。
 物思いに耽りつつ、おれはタバコに火をつけようとするが、横からのびてきた腕にひょいと奪われた。
 犯人は零号。

「医務室は禁煙です」

 ネコ耳メイドからピシャリたしなめられ、おれは「すみません」とペコペコ。


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