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305 獣王武闘会 第二試合 流れ玉
しおりを挟む激突するペンギンドリルとタヌキ娘のバット。
芽衣は的確かつ真芯にて相手を捉えていた。
なのにかっ飛ばない。
それどころかペンギンドリルは止まらない。
おれが変じたチタン合金製のバット。その表面にぶつかり、キュイーンと高音を発しながら火花を散らすばかり。
バットを握る芽衣、カラダごとじりじり後退。
明らかに押し負けている。
「くっ、重たい。このままだと……」
歯を食いしばって懸命にこらえようとする芽衣。
「げっ、ウソだろ、おい! なんか削れてるですけど、おれのカラダ、キリキリ削れてるんですけど!」
軽くて強度に優れたチタン合金ボディが悲鳴をあげている。このままだと化け術を解除したあと、どうなっちゃうの! もしかして腹切りですか? 腹の皮が破かれて内臓をぶちまけ切腹状態になっちゃうの? そんなの絶対にイヤだっ!
しかしおれの泣き言なんぞにはおかまいなし。
ペンギンドリルがグイグイ押してくる。
「なかなかがんばるな。だが無駄だ。南極海を彷徨う巨大な氷山をも打ち砕く、我が『皇帝拳、咎叛極』は何人にも止められやしない!」
西園寺景が雄叫びをあげるのと同時に、さらに回転をあげるペンギンドリル。
これにより辛くも保っていた拮抗が崩れようとした。
けれども西園寺景は肝心なことを失念していた。
ここがバトルロイヤルという戦場にて、おれたち尾白探偵事務所には、しようもないことでいがみ合っていても、いざともなればチカラを合わせる頼もしい仲間がいるということを。
「実際たいしたもんだよ、あんたわ。だがね、己がチカラに驕ってチームメイトをないがしろにした時点で、お里が知れるってもんだ」
バットを握る芽衣の後方から敢然と突っ込んできたのはトラ美。
「滅爛虎慄紅武爪術、二の段、四ノ華」
たちまち四肢の筋肉が盛り上がって鮮やかなオレンジの毛並みが出現。両の手足が瞬時に獣人化。以前とは比べものにならない変身速度にて、これもまた修行の成果なのだろう。
弧斗羅美がいっきに距離をつめて「シッ」と気を吐き、拳を放つ。
狙うのはヤツではない。おれが化けているバット。
バットのグリップを握る芽衣とトラ美の拳。
二人分のチカラが加わったことで、傾きかけていた天秤がふたたび大きく動き出す。
皇帝ペンギン対タヌキとトラ、おまけに珍獣の押し相撲。
軍配はおれたちにあがる。
「なっ、この私が押し負けるだと、そんなバカなっ」
カキーンと打たれたドリルペンギン。
コントロールを失って完全にホームランコース。
そのまま場外へと飛んでいく。
「やったね」
「ナイスバッティング」
グータッチをする芽衣とトラ美。
一方でおれはふらふら失神寸前となっていた。
キーンときた。何かよくわからないけど頭の中やら全身にキーンときた。衝撃やら振動が内部の津々浦々を浸透し、チタン合金バットとなった身がおかしなことに。うぷっ、クラクラする。なんだこれ? 目が回る。気持ち悪い。
ついにこらえきれなくなったおれはドロンと変化を解除。
「わりぃ、あとを頼む」
仲間に後事を託し、おれはそのまま大の字となり気を失った。
◇
大歓声にて目を覚ました時、おれは零号の膝枕の世話になっていた。
ぼんやりしているおれの顔を零号が覗き込む。
「心拍数、脈拍、ともに正常値です。念のために脳波もスキャンしましたがそちらも異常はありませんので、もう大丈夫でしょう」
零号によれば、どうやらおれはペンギンドリルとの激突で生じた振動や衝撃波にて、表面よりも内々にダメージを喰らってのびていたらしい。
「おれはどれくらい寝ていた? それに試合は……」
「尾白さんが倒れていたのはほんの十分ほどかと。試合についてはたったいま終了したところです」
舞台中央へと目をやれば、タヌキ娘とトラ女が互いの拳を相手の頬にめり込ませるクロスカウンターの形で固まっていた。
周囲にはセイウチ男とトド男が倒れている。
推察するに海の男たちを降してのち、芽衣とトラ美は試合終了時間いっぱいまで、派手にど突き合いをしていた模様。
あー、そういえばこの試合ってば敵味方入り乱れてのバトルロイヤル形式だったっけか。
にしたって加減ってものがあるだろうに、あのバカたれどもめっ。
ともあれ敵チームは全滅。
いろいろと想定外のことも重なったが、とにもかくにもチーム・尾白探偵事務所は初戦突破。
まずは良かった。おれはホッとしかけたものの、審判の発した次の言葉に首をかしげることになる。
「勝者、チーム・尾白探偵事務所。なおチームリーダーである尾白四伯はすみやかに大会運営本部に出頭するようにっ!」
いきなり呼び出しを受けた。しかもちょっと怒気まじり。
試合直後で疲れているのにもかかわらず、なんと無体な。
「なんだろう? めちゃくちゃ怒ってるみたいなんだけど」
おれが不審がっていたら零号が「あちらをご覧ください」と客席の方を指差す。
フム。最上段に設置された客席の一部が吹き飛んで、大穴があいている。
おそらくは芽衣に打ち返されたペンギンドリルが突っ込んだのかな。場外ホームラン級の当たりだったし、さもありなん。
激しい戦いが展開する武闘会ならではのアクシデントであろう。
「あそこは特別貴賓室になっていたそうで、じつは……」
事故現場がよりにもよって赤鬼族の長である桜花朱魅の観覧席であったと聞かされて、おれはフッと意識が遠くなる。よし、わかった。もう一度寝落ちしよう。
だがしかし、零号はすかさずおっさんの胸倉を掴んで頬をペシンパシンと平手打ち。
「ダメです、尾白さん。寝てはいけません。相手チームのリーダーである西園寺景が倒れている以上、うちからだけでも代表が詫びを入れないと格好がつきません」
うぅ、ネコ耳メイド型アニマルロボが手厳しい。
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